第四十三話 まだ、大丈夫とは言えない
「エデンは、営業停止となりました」
閉店後、マルタさんの勤務について報告していたときだった。
通信魔道具の向こうで、聖女様が書面を置いた。
「店側の関与も調べます。明日、神殿ギルドから発表しますので、マルタさんにも先にお伝えください」
「……ご本人には?」
「まだです。それから、あの方があなたのお店で学び直していることも、発表に添えられればと思っています」
私は、予約帳を見た。
昨日帰った方も、今日取り消した方も、その発表を見る。
聖女様から説明していただければ、あの方たちにも、もう一度予約を入れていただける。
私が書いた連絡より、きっと安心してもらえる。
マルタさんへも、明日、その話ができる。
今日取り消された時間に、線を引いたばかりだった。そこへ新しい名前を書くところまで、思い浮かべていた。
「今日のお客様にも、喜んでいただけたそうですね」
「はい」
返事が早くなった。
鏡を返すのを惜しんでくださった顔が、まだ浮かんでいた。
あの方が何を言ってくださったかも、お伝えしたかった。聖女様が認めてくださったお手入れで、今日も喜んでいただけた。
「マルタさんにも、準備と記録を手伝っていただきました」
「そのような機会を重ねていただける環境が、できたのですね」
聖女様が微笑んだ。
私も、うなずきかけた。
今日、使うはずのない瓶を盆から下ろした。
我慢できると言われたら、いつもの説明が出たと、本人も話していた。
お客様に喜んでいただけた。
でも、あのお手入れをしたのは、私だった。
私がそばにいなければ、あの瓶は盆に載ったままだった。説明を続けそうになったことも、報告した。それでも今、うまくいったお話として進んでいる。
せっかく喜んで聞いてくださっているのに、また私から止めるの?
予約帳から、顔を上げた。
「働いていることの発表は、少し待っていただけませんか」
聖女様が、私をご覧になった。
「まだ、一緒に働き始めて二日目なんです」
「働いているという事実だけでも、知っていただければと思ったのですが」
私は、机の手元へ目を落とした。
ありがたいお話だった。
予約が戻るなら、戻ってきてほしかった。
「マルタさんに施術をお願いしたいという予約が来たら、どうお答えすればいいでしょうか」
聖女様が、予約帳へ向いた私の目を追われた。
「準備や記録は手伝っていただいています。でも、お客様のお肌に触れる仕事は、まだなんです」
聖女様へ顔を戻した。
「今日のことは、うれしかったです。でも、もう大丈夫ですとは言えないんです」
少し間があった。
「分かりました。その件は、お二人が働き方を確かめてからにしましょう」
私は息を吐いた。
「ありがとうございます」
「エデンについては、予定通り発表します。マルタさんへは、その前にお伝えください」
「はい」
*
通信を終え、明日の予定を開いた。
朝、マルタさんへ話す時間も取っておかなければ。
あの人を追い出した店が、今度は客を迎えられなくなる。




