第三十八話 私を落とした人に、教える
聖女様から、講師だった女性と会ったとの連絡が届いた。
通信魔道具の光の中で、聖女様が書面を置いた。
「店側の指示についても、確認を進めています」
「お話を聞いてくださって、ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「それで、リネさん。あの方を、あなたのお店で働かせてみませんか?」
顔を上げた。
「……私の店で、ですか?」
「ええ」
相談用の椅子が、目に入った。
あそこに、あの人が座る。
今度はお客様を迎える側として。
「どうして、私の店なのでしょうか」
聖女様は、置いた書面へ目を向けられた。
「あの方は、今後も施術の仕事をしたいと話していました。あなたのお手入れを、学んでいただきたいのです」
「私を不合格にした方に、私が教えるんですか?」
口にしてから、声が硬くなったことに気づいた。
「ええ。多くの受講者に教えてきた方です。ここで覚えたことを、いずれほかの方へ伝えていただけるかもしれません」
私と働けるかも、まだ分からないのに。
「前にお伝えしましたね。私の思惑について」
私は、机へ目を落とした。
あの試験では、私の説明を聞いてもらえなかった。
そのあと店へ来て、お客様を帰れなくした人だった。
その人が、毎日ここへ来る。
「リネさん?」
「……すみません」
顔を戻した。
聖女様は、返事を待っていた。
あの人だけに責任を取らせるのは違うと思った。
話を聞いてほしかった。
でも、うちで働いてほしいとは言っていない。
入口の外へ目が向いた。
看板は、まだない。
「すぐにお受けするとは、言えません」
声が小さくなった。
目の前にいるのは、私の店を助けてくださった人だ。
看板の修理まで、手配してくださる。
その人へ、今、断ろうとしている。
私は魔道具を持ち直した。
「以前と同じことがお店で起きたら、困ります」
言ってから、口を閉じた。
聖女様はうなずいた。
「もちろんです。まずは、お二人で話してみてはいかがでしょう。引き受けるかどうかは、そのあとで決めていただいて構いません」
私は少し息を吐いた。
まだ、決めなくていい。
「……お話は、伺います」
聖女様を見た。
「働いていただくかは、そのあとで決めさせてください」
「ええ。ご本人にも、そのように伝えます」
*
通信を終え、相談用の椅子を見た。
あのお客様と講師が向かい合った場所だった。
椅子の背へ手を掛ける。
ここへ来たら、あの人は何と言うのだろう。
聖女様に勧められたから?
私が断ったら、また働く場所がなくなる。
椅子から手を離し、予約帳を開いた。
お客様のいる時間には、呼べなかった。
翌日の欄を指でたどり、二人で話せる時間を確かめた。




