第三十六話 会わせてください
聖女様から返事が届いたのは、店の片付けが終わる頃だった。
〈直接、お話を伺ってもよろしいですか?〉
通信魔道具に触れると、淡い光の中に聖女様の姿が浮かんだ。
「お怪我はありませんか?」
「はい。誰も怪我はしていません」
「それは何よりです。看板の修理は、こちらで手配しましょう」
私は、壁に立て掛けた看板を見た。
直してもらえる。
修理代を、帳面のどこから出すか考えなくていい。
「ありがとうございます」
声と一緒に、息が抜けた。
「怖い思いをされましたね」
「……はい」
そう答えてもよかったのだと、ようやく思えた。
聖女様は、私の続きを待っていた。
私は机の上の木片へ目を落とした。
これも、あの人が壊した。
それでも、泣きながら止めてほしいと言っていた声が離れなかった。
「講師の方にも、会っていただけませんか?」
口にしてから、魔道具を持ち直した。
また、お願いしている。
私の店を直していただくうえに、あの人のことまで。
「ご自分でも、力を止められない様子でした。それで……」
言葉が続かなかった。
苦しんでいた。
それだけなら、セラさんも同じだった。
帰りたいと訴える人の前で、あの講師は扉を押さえていた。
聖女様へ顔を向けた。
「あの方の話を、聞いていただきたいんです」
「ご本人が望まれるなら、明日、お会いしましょう」
「……ありがとうございます」
聖女様が、少し表情を和らげた。
「明日のお店には、影響が出そうですか?」
私は入口を見た。
看板はない。
けれど、扉は開く。窓も、棚の商品も、そのままだった。
「営業はできます」
「では、明日いらっしゃるお客様をお願いします」
私は受付の予約帳へ目を向けた。
まだ、開いてもいなかった。
*
通信を終えて、帳面を開いた。
三人の名前が並んでいる。
最初のお客様は、改装してから初めて来てくださる方だった。
新しい看板を目印にしてくださいと、私から伝えていた。
私は通信魔道具を取り直した。
入口の看板が外れていること。
営業は予定通り行うこと。
書いて送った。
*
救護室で、講師は毛布を肩まで引き上げていた。
足元には、まだ灰色のものが薄く残っている。
扉が叩かれた。
返事をすると、職員が入ってきた。
「リネさんのお願いで、聖女様がお話を伺いたいとのことです。お受けになりますか?」
講師は顔を上げた。
「……リネさんが?」
「はい」
毛布を握る。
あの看板を、壊した。
見られたくないと言って、追い払った。
何を話したの。
あの人ばかり助けてもらえると、言ったことも?
聖女にまで、自分がリネを恨んでいると思われたら。
口を開きかけて、閉じた。
けれど、断ったら。
リネが話したことだけで、決まってしまう。
「私の話も、聞いてくださるんですか」
「はい。そのための面会です」
講師は、膝の上へ目を落とした。
責任者の前では、最後まで話せなかった。
仕事を失ってからも、話そうとすれば断られた。
今度は、聞くと言っている。
「……私から、話します」
職員がうなずいた。
「会わせてください」




