第二十四話 見せてください
「認定を受けるには、何が必要でしょうか」
「まずは、あなたのアーツを見せてください」
聖女様は、私が置いた施術記録を開いた。
「肌に潜むモンスターを、目に見える姿にできるのですね?」
「はい。その姿から肌の状態を確かめ、お手入れを考えます」
「では、その過程を拝見しましょう。施術を受ける方はこちらで募ります。使うものは、お任せいたします」
指定の商材もなく、決められた手順もない。
店で使っているものを持っていける。お客様のお話を聞いてから、使わないと決めることもできる。
試験のために何を覚えればいいか、尋ねようとしていた。いつものお手入れを見ていただけばいい。そのことに気づくと、持っていきたいものが次々に浮かんだ。
私は、試験を受けたいと答えた。
*
店内の確認が終わり、営業再開の連絡を受けたのは、その日の夕方だった。
試験は二日後に決まった。
神殿へ持っていく道具を揃えながら、予約帳へ目が向いた。
聖女様に認められれば、認定がないと知って帰った人にも、お知らせを送りたい。
今度は、私の説明を聞いていただける。そう思いながら、まだ何も書いていない予約帳を眺めた。
そんなことを考えていて、選んでいた商材の蓋を開けたままにしていた。慌てて閉める。
試験に来る人は、私の店を助けるために来るわけではない。
分かっている。
それでも、受かりたかった。
*
試験当日、神殿の施術室で待っていたのは、中年の女性だった。
「顔のくすみが気になっていて」
女性は頬へ手を添えた。
「鏡を見ると、いつも疲れているように見えるんです。化粧で隠そうとすると、厚くなってしまって」
私は向かいに座り、普段のお手入れや、使っているものを尋ねた。
最近は仕事が忙しく、寝る時間も遅くなっているという。気になり始めてから、洗顔のたびに念入りにこするようになったとも話してくれた。
「使ったあとに、つっぱるものはありませんか?」
「洗顔のあと、少し。汚れが落ちたからだと思っていました」
私は持ってきた商材を、まだ開けずに置いた。
少し離れた席で、聖女様がこちらを見ている。
まだ、商材を一つも使っていない。アーツも見せていない。
何か始めようと蓋へ手を伸ばしかけたところで、女性が続きを話し始めた。
「仕事が遅くなると、つい……」
私は手を止めた。
「はい」
続きを待つと、女性は帰宅してからのお手入れを話してくれた。
試験でなければ、当たり前に聞いていたことだった。聖女様に見せるものを探して、この人の話を切り上げるところだった。
*
「これから、肌に潜むモンスターを見えるようにします」
女性が、私の顔を見た。
「モンスターがいるんですか?」
「はい。ご自身の肌の状態が、そういう姿で現れるんです」
「倒してもらえば、綺麗になりますか?」
「倒すことはできません。モンスターも、あなたご自身の一部です。攻撃すれば、お肌が傷ついてしまいます」
女性の手が、頬から離れた。
「では、どうするんですか?」
「その姿を手がかりに、合うお手入れを考えます」
女性は少し考え、うなずいた。
私は頬へ手を近づけた。
指先に青い光が灯る。
顔の前に灰色の霧が集まり、渦を巻きながら丸みのある身体を形作った。垂れた目と、への字の口。両側から腕が伸び、指先から細かな煙がこぼれている。
クスミスト。
女性が背もたれへ身体を寄せた。
「これが、私……?」
「あなたのお肌に潜んでいる、クスミストです」
女性は、霧の身体を見つめていた。
私は手鏡も渡した。鏡に映る顔と、目の前のモンスターを、交互に見比べている。
「こんなに、どんよりしているんですね」
「気になるからと強くこするのは、控えましょう。今日はお肌に合うか確かめながら、お手入れを進めますね」
女性がうなずく。
そのとき、聖女様が席を立った。
*
聖女様はそばへ来て、クスミストを眺めた。
「このモンスターだけを、別の場所へ移すことはできますか?」
「ご本人から切り離すことはできません。この方ご自身の一部ですから」
聖女様の視線が、女性とクスミストの間を動いた。
私は商材の蓋を開け、女性のそばへ戻った。
聖女様も、その手元へ目を向けた。
「では、お手入れによって、この姿がどう変わるのかを見せてください」
お読みいただき、ありがとうございます!
初投稿から1週間が経ちました。
初めての作品をこうして読んでいただけて、とても嬉しいです。ありがとうございます!
次回、第二十五話「認められた日」は、本日18時20分に更新予定です。
引き続き、リネの物語を見届けていただけたら嬉しいです!




