第二十三話 聖女認定店
聖女様に会うため、翌朝、神殿ギルドへ向かった。
持ってきたのは、施術の記録と、店で使っている商材の一覧だった。何を尋ねられても答えられるよう、昨夜のうちにまとめていた。
案内された部屋には、大きな机があった。
聖女様は、その向こうで微笑んでいた。
「お越しいただき、ありがとうございます」
私は頭を下げた。
「訂正していただき、ありがとうございました」
聖女様は、私へ椅子を勧めた。
「こちらの不手際です。あなたには大変申し訳ないことをしました。さぁ、お座りになって」
責められると思って来た。それなのに謝られて、用意していた説明が口から出なくなった。
*
「お店の確認は、本日の午後に行えるよう手配しました。問題がなければ、明日から営業を再開していただけます」
「……ありがとうございます」
ようやく日程が決まった。
明日、店を開けられるかもしれない。取り消された予約が戻らなくても、新しい予約を受けられる。
鞄の持ち手を握っていた指が緩んだ。
「研修でのことも伺いました。肌の状態を見て、施術を見送られたのですね」
「はい。刺激があるとおっしゃっていたので」
「無理に行うべきではありませんね」
私は聖女様を見た。
鞄には、施術を見送った理由を書いた紙が入っている。昨夜、何度も読み返し、言い訳に聞こえないよう書き直した。
聖女様は、それを読むより先に、無理に行うべきではないと言ってくださった。
昨日までは、あのとき施術を断らなければ、と考えてしまうことがあった。認定があれば、信じてもらえた。店も閉めずに済んだ。
そのたびに、お客様が痛がっていたことを思い返した。
ここでも、断った理由を分かってもらえるまで、説明するつもりだった。なのに、痛みがあると伝えただけで、分かってくださった。用意した紙を読まずに済むことが、こんなにうれしい。
「私も、現行の施術には疑問を抱いておりました」
聖女様は、研修の記録へ目を落とした。
「ただ、一人ひとりの肌を見て判断できる施術者を育てるのは、簡単ではありません。多くの店で対応できるよう、共通の手順を設けているのです」
私は黙って聞いていた。
「でも、あなたのアーツは特別です。既存のルールに従わせることが、適切とは思えません」
「普通の施術と違うことも、説明しようと思って……記録を持ってきました」
ようやく言うと、聖女様はうなずいた。
「ぜひ、拝見したいです」
私は鞄へ手を伸ばした。間違っていないと証明するために用意したものを、技術を知りたいと言ってくださる人へ見せられる。紙を取り出すときには、もう指がこわばっていなかった。
*
「新しい認定を、受けてみませんか?」
「新しい認定ですか?」
「聖女認定店です」
私は、その言葉をすぐには返せなかった。
お客様が探していた認定の印。冒険者ギルドから継続して仕事を受けるために、必要だと言われた資格。
それを、聖女様が直接認めてくださる。けれど、聞いたことのない認定だった。
「聖女認定店……初めて聞くのですが」
「はい。あなたのためにご用意した、たった1つの認定です」
私は聖女様を見た。
「今回の件で、いくらか損失もあったとお見受けします。その補填と思ってください」
取り消された予約が頭に浮かんだ。
あのお客様にも、別のお客様にも、迷惑をかけた。それでも、自分の店を守りたいと思っていた。
そのことを、責めずに分かってくださっている。
「もちろん、試験は厳正に行います。私が認めれば、のお話です」
「……はい」
試験に受かれば、あのお客様にも、認定を受けましたと伝えられる。
次に店の名前を尋ねられたときには、胸を張って答えられる。
もう、その先のことまで考えていた。
けれど、研修のときも、認定が欲しくてあそこへ行った。
一つだけ、今、聞いておきたかった。
「私の判断で、施術を断ることもできるんですか?」
「ええ。あなたの技術を認めるための認定ですから」
うれしかった。
研修で断ったことも、この力を使って店を続けてきたことも、間違いではなかったと言ってもらえた気がした。
今度は、決められた施術を行うための試験ではない。
私のやり方を見てもらえる。
私は、机に置いた施術の記録へ手を添えた。
「認定を受けるには、何が必要でしょうか」




