第二十二話 聖女様のご判断
「本当に、元通りですわ」
貴族の女性が手鏡を見つめていた。
頬にあった傷は、もう見えない。何度も顔の向きを変えて確かめてから、聖女へ深く頭を下げる。
「何とお礼を申し上げればよいか」
「喜んでいただけて、私もうれしく思います」
聖女は微笑んだ。
付き添いの男が、小箱を机へ置いた。中には、金細工の首飾りが収められている。
中央の石が光を受けた。
聖女の目が、ほんの少し輝いた。
「献金とは別に、ぜひお納めください」
「まあ。お気遣いいただいて」
断るつもりはなかった。
女性が帰ったあと、聖女は首飾りを持ち上げた。鏡の前で胸元へ当てていると、扉が叩かれた。
「聖女様。認定店からの発信について、申し立てが届いております」
聖女は首飾りを小箱へ戻した。
*
職員が差し出したのは、エデンの注意喚起と、リネからの訂正要求だった。
施術は行っていない。
本人も、施術を受けていないと証言している。
討伐機関へ伝えた内容とも一致する、と書かれていた。
「エデンには確認しましたか?」
「確認しました。講師は施術を目撃しておらず、店側も施術があったとする記録は持っていません」
聖女は注意喚起を読み直した。
神殿ギルドの認定印が入っている。
「では、訂正してください」
職員が顔を上げた。
「エデン側は、心蝕が店内で発動したこと自体は事実だと——」
「施術中ではなかったのでしょう?」
「はい」
「なら、その説明は誤っています。元の案内を受け取った方へ、訂正とお詫びを届けてください」
職員は一礼した。
聖女は、リネの申し立てを手元に残した。
「この方のお店は、今どうなっていますか」
「店舗監督担当が、確認を終えるまで客の受け入れを控えるよう伝えています」
「確認の日程は?」
「まだ決まっておりません」
聖女は紙から目を上げた。
「それでは、お困りでしょうね」
声は穏やかだった。
*
「リネ……」
聖女が名前を読み上げると、職員が説明を加えた。
「以前はディア・ラクリマで勤務していました。現在は個人で店を営んでいます。癒し手と呼ばれている者です」
「癒し手?」
「特殊なアーツで、肌に潜むモンスターを目に見える姿にできると。冒険者ギルドからも、推薦の実績があります」
聖女は指先で紙の端をなぞった。
自分の店を守るために、ここまで書いて寄こした人。
研修では指定の施術を断り、再研修でも必要なら同じ判断をすると答えたらしい。
扱いにくそうだった。
けれど、まだ店を続けるつもりでいる。
「一度、お会いしましょう」
職員がうなずく。
「面会の目的は、どのようにお伝えしますか」
聖女は、小箱の蓋を閉じた。
「営業再開について、私からお話ししたいと」
*
その日の夕方、私の店へ訂正の通知が届いた。
エデンが配信した案内のうち、施術に伴う発動とした説明を撤回する。以前の案内を受け取った人にも、訂正を送ったと書かれていた。
私は、ようやく椅子へ座れた。
聞いてもらえた。
何度も読み返していると、続けてもう一通届いた。
〈聖女様が、貴店の営業再開について直接お話しになることを希望されています。〉
添えられていたのは、翌日の面会時刻だった。




