第二十一話 訂正したいこと
朝、予約の取り消しがもう一件届いた。
理由は、昨日と同じだった。
私の店で施術を受けた人が、心蝕を暴走させたと聞いたという。
エデンが配信した案内には、そう書かれていた。実際には施術をしていない。それでも、案内を読んだお客様には分からない。
訂正しなければ、この先の予約も失うかもしれない。
私は、昨夜書いた店のお知らせを開いた。
〈昨日、店内で心蝕の発動がありましたが、施術は行っておりません。負傷者も出ておりません。〉
これを出したかった。
ただ、昨日の騒ぎを見た人には、誰のことか分かるかもしれない。あのお客様に知らせず、私の都合だけで公にしたくはなかった。
まず本人に説明しようと、通信魔道具を手に取った。
そのとき、セラさんから返事が届いた。
肌のひりつきは弱くなったという。神殿で力を扱う訓練を受けられ、仕事も紹介してもらえるかもしれないと書いてあった。
〈昨日は、ありがとうございました。神殿でお世話になろうと思います。〉
私は少し安心した。
それから、会って話をしたいと返事を送った。
*
昼前、神殿ギルドの待合室でセラさんと会った。
昨日は黒いものに覆われていた両手が、今日は見えている。セラさんは私の向かいに座り、鞄を膝へ置いた。
「少しだけ、力を出したり戻したりできたんです。教えてくれた方も心蝕を持っていて」
「そうだったんですね」
「まだ怖いですけど、何もできないと思っていたときよりは、楽になりました」
その言葉を聞いて、持ってきた紙を出すのをためらった。
ようやく安心できた人に、また昨日の話をしなければならない。
けれど、今日はそのために来た。
「私の店について、エデンから誤った案内が出ています」
机に、案内を写した紙を置いた。
〈認定外店舗での施術に伴う心蝕暴走が報告されました。〉
その下には、私の店の名前もある。
セラさんは紙を読み、顔を上げた。
「施術は、受けていません」
「はい。でも、この案内を見て、予約を取り消す方が出ています。ですから、私の店から訂正のお知らせを出したいんです」
私は、書いてきた文面を隣へ置いた。
「施術をしていないことと、怪我人がいないことを伝えます。お名前や、肌のお悩みは書きません」
セラさんが文面へ目を落とした。
「ただ、昨日の騒ぎを見た方には、あなたのことだと分かるかもしれません。そのことを先にお伝えしたくて、来ました」
返事を待つ間、予約帳の空白が頭に浮かんだ。
出してもいいと言ってほしかった。
この人の気持ちを確かめに来たのに、断られたら困るとも思っていた。
昨日、話を聞いてほしくて来てくださった人だ。今日は私が、困っているから助けてほしいと頼んでいる。
返事を急かさないよう、口を閉じた。
*
セラさんは二枚の紙を読み比べた。
「誰かを傷つけた、とも思われているんでしょうか」
「そこまでは、分かりません。ただ、心配しているお客様はいらっしゃいます」
セラさんはうつむいた。
しばらくして、私が書いた文面を指で押さえた。
「これを、出してください」
「よろしいですか?」
「はい。私も、していないことまで、したと思われたくありません」
よかった、と言いそうになった。
私の店が危険だと思われることばかり、考えていた。この人は、自分が誰かを傷つけたと思われていることを、今ここで心配している。
「はい。出します」
セラさんが読んだ文面を、そのまま通信魔道具へ入力する。店のお知らせとして公開すると、画面に送信済みの表示が出た。
これで予約が戻るとは限らない。
それでも、私の店で起きたことを、私の言葉で伝えられた。
セラさんが、エデンの案内をもう一度見た。
「エデンはどうしてこんな案内を出したのでしょう」
私は、紙に書かれた神殿ギルドの認定印を見た。
私がお知らせを出しても、エデンの案内は残っている。
「まずは、訂正を求めます」
今度は、セラさんの前でそう答えた。




