↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/78

第十八話 聞きました

断りの文面を書き直していると、別の連絡が届いた。

明日の午後に予約を入れていたお客様だった。


〈あなたのお店で心蝕暴走が起きたと聞きました。なので、予約を取り消してください。〉


私は、その文面を二度読んだ。


今日の昼には、楽しみにしていますと連絡をくださっていた人だった。そのときは、私もうれしかった。


明日来てくださる。この人に使うものを用意して、またお話を聞ける。


それが、もうなくなった。


今度の連絡には、挨拶もなかった。


〈承知しました。ご予約を取り消します。〉


そこまで書いて、手が止まった。


事情を説明したかった。


今日は施術をしていない。誰も怪我をしていない。お客様も、今は落ち着いている。


それを知ってもらえれば、取り消さずに済むかもしれない。


予約を失いたくなかった。


お金のことだけではない。楽しみにしてくれていた人に、怖い店だと思われたままでいたくなかった。


取り消してください、と書かれている。


私は書き足さず、返事を送った。送信してからも、説明を添えれば考え直してもらえたのではないかと、同じ文面を見ていた。


*


夕方、店へ戻った。

セラさんには、翌朝また連絡すると伝えてきた。別れ際には黒いものがほとんど見えなくなっていて、本人も少し眠れそうだと言っていた。

店の前で鍵を探していると、向かいの通りにいた二人がこちらを見た。

一人が、もう一人の袖を引く。

声は聞こえなかった。けれど、私が顔を向けると、二人とも目をそらした。

鍵を差し込む手元まで、見られている気がした。

店へ入り、扉を閉めた。

倒れていた椅子を起こす。入口に寄せた衝立を、いつもの位置へ戻す。床には、黒いものの跡は残っていなかった。

朝と同じ店だった。

それなのに、外から見える窓の前に立つのをためらった。

通信魔道具が鳴った。

〈施術を受けた人が暴走したんでしょう? 私も同じものを使っています。大丈夫なんですか?〉

先週、商品を買ってくださったお客様だった。

私はすぐに返信の画面を開いた。

〈本日は施術を行っていません。〉

書いた文字を見つめた。

今度は、返事を待っている人がいる。手元の商品を、使ってよいか知りたいのだ。

怖い店だと思われたくない。その気持ちだけで、問題ありませんとは書けなかった。

〈本日は施術を行っていません。ご購入いただいたものを使ったことで発動した、という事実もありません。〉

続けて、使用中に気になることがあったか尋ね、返事を送った。

今日は何もしていない。

その一文を送るだけで、こんなに怖いとは思わなかった。


*


その後も、予約の取り消しが二件届いた。

一件は、初めて来る予定の人だった。

もう一件は、開店したばかりの頃から通ってくださっている人だった。

予約帳を開く。

名前を消したところに、空白ができた。まとめて買っておいた商材の箱が、棚の下に見えている。

今月は、少し余裕ができると思っていた。

私は予約帳を閉じ、通信魔道具を手に取った。

今日起きたことを、店のお知らせとして書き始める。

〈本日、店内で心蝕の発動がありました。施術中の発動ではなく、負傷者も出ておりません。〉

エデンの名前を入れようとして、止まった。

講師が出口を塞いだことまで書けば、セラさんの話になる。本人が知らないところで、私の店を守るために公にしていいのだろうか。

書きかけの文章を残し、画面を切り替えた。

商品について尋ねてきたお客様から、返事が来ていた。

〈使っていて問題はありません。でも、認定店のエデンから注意のお知らせが来たので。〉

続けて、画像が送られてきた。

〈認定外店舗での施術に伴う心蝕暴走が報告されました。お客様の安全のため、店舗選びには十分ご注意ください。〉

その下に、私の店の名前があった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。