第十七話 もう一度
「あなたの対応中に心蝕が発動した事例は、今回で二度目です」
私は写真から目を離せなかった。
手順通りに施術した。勧めるように教えられたものを勧めた。
それを説明しても、この人の苦しんでいた顔は変わらない。私が何も答えられなかったことも、なくならない。
「最初の方には、私が施術をしました」
担当者は黙って聞いていた。
「途中で刺激があると言われました。でも、続けました」
ベッドの上で、セラさんが身じろぎした。
知られたくなかった。
この人は、施術を止めた私を頼って来てくれた。
あの試験で断れたのは、以前、止められなかったからだ。お客様が苦しむ姿を見て、ようやく同じことをしてはいけないと思った。
セラさんが信じてくれた私には、その過去がある。
振り返るのが怖かった。
もう、この人に肌を見てほしくないと思われるかもしれない。相談しに来たことまで、後悔させてしまうかもしれない。
それでも、今日は何もしていないという説明のために、以前したことまで隠すわけにはいかなかった。
「ですから、今回もその可能性を確認する必要があります」
担当者の言葉に、私は机へ目を戻した。
「今回は、していません」
「はい。その点は承知しています」
担当者は二枚の記録を重ね、別の書面を差し出した。
「再研修を受けていただけます。店内の確認と併せて進めれば、営業再開までの期間も短くできるでしょう」
認定を取れれば、冒険者ギルドからの紹介も受けられる。
昨日、欲しかったものだった。
「研修の内容は?」
「指定商材の使用方法と、接客手順の確認です。実技も、改めて受けていただきます」
書面には商材の名前が並んでいた。
昨日の試験で使うように言われたものも、その中にある。
「肌の状態によって、施術を見送ることはできますか」
「必要な判断についても、研修で学んでいただきます」
「昨日、それをしようとして不合格になりました」
担当者は私を見た。
「ご自身の判断に問題がなかったかも含めて、学び直していただきたいのです」
*
ベッドの上のセラさんが、私を見ていた。
昨日は、あの人の肌を見て断れた。
試験に落ちることは怖かった。それでも、店を開けることまで止められるとは思っていなかった。
今は、明日の予約がある。仕入れたばかりの商材も、払わなければならない家賃もある。
一度受けて、合格すればいい。
そう考えてから、実技で誰に触れるのかを想像した。
その人も、私が合格するために来るわけではない。
「研修を受けること自体は、構いません」
私は書面を机へ置いた。
「でも、同じ状態のお客様に同じ施術を求められたら、また断ります」
担当者は書面を引き取った。
「では、営業再開については、店内の確認後に判断します。日程は追ってお知らせします」
扉が閉まるまで、私は座っていた。
*
「ごめんなさい」
セラさんの声に、顔を上げた。
「私が、ここに来たから……」
「謝らないでください」
思ったより強い声が出た。セラさんが口を閉じたので、私は息をついた。
「相談に来てくださったんです。それで謝らせるようなお店には、したくありません」
セラさんは膝の上の手を見つめていた。
私は通信魔道具を取り出し、明日の予約を開いた。
断りの文面を書き始めたところで、指が止まった。
理由をどう書けばいいのか、分からなかった。




