第十三話 見ていたこと
「中へ入る前に、何があったか聞かせてください」
ひなは入口で待っていた。
私は床に座る女性を見た。討伐機関の二人が現れてから、腕を覆う黒いものがまた厚くなっている。
入口へ行こうとすると、女性が顔を上げた。
私はその場で足を止めた。
「ここから話しても、いいですか」
「はい」
相談に来たこと。エデンの講師が訪ねてきたこと。帰ろうとした女性の前へ回り、扉を開けさせなかったこと。
私は順番に話した。
「黒いものが出たのは、そのあとです。今日は、施術をしていません」
講師が口を挟んだ。
「対応中に発動したことは事実です。認定もないのに、他店のお客様へ——」
「施術をしたところは、見たのか」
年配の男が尋ねた。
講師の言葉が止まった。
「いえ。私が来る前のことまでは」
男は講師を店の入口から離れた場所へ促した。通りの人にも下がるよう伝え、ひなが店内へ目を戻す。
「帰れないと言われたあとに、発動したんですね」
「はい」
ひなが記録を続けようとしたので、私は呼び止めた。
「扉を開けたあとも、外へ出るのを怖がっていました。こんな姿で出ていいのかと」
女性が抱えている鞄へ、目を向けた。帰るために立ち上がった人が、まだそこに座っている。
「帰りたいと仰っていました。でも、人に見られるのは嫌なんだと思います」
勝手に決めてしまってはいけない。女性を見ると、小さくうなずいてくれた。
*
ひなは女性へ声をかけた。
「ここからお話を伺っても、いいですか」
女性がうなずく。
「怪我はありませんか?」
女性は自分の腕を見た。
「痛くは、ないです。でも、これが……」
黒いものを指で払おうとして、手を止める。
「誰かを傷つけたら、私も処刑されるんですか」
私は息を詰めた。
ひなはすぐに近づかなかった。
「今、誰も怪我をしていないことは確認しました。まず、安全にここから出られるようにします」
女性は入口を見た。
通りに残っている人影を見つけると、また顔を伏せた。
私は衝立を指した。
「外から見えないようにしたあと、少し薄くなりました」
ひなが腕の黒いものを見てから、私へ尋ねた。
「そのとき、あなたはどこにいましたか?」
「今と同じ、ここです」
「では、今はそのまま。移動の準備はこちらでします」
外の男へ短く指示を伝え、ひなは通信魔道具を操作した。
女性が、私の袖へ手を伸ばした。
黒いものに覆われた指だった。
触れる直前で止まる。
「……一緒に来てもらえますか」
私はその手を見た。
今度は、私から手を近づけた。
「はい」




