↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/75

第十一話 開けてください

黒いものが椅子の脚を這い上がった。

女性もそれに気づき、足元を見た。鞄を抱えたまま後ずさると、黒いものが床から浮き上がり、彼女の身体を覆い始めた。

「何、これ……」

私は女性へ手を伸ばしかけた。

あのときと同じだった。

近づいても届かず、外へ出され、閉まる扉を見ていた。

けれど、今は私が扉の前にいる。

「手を離してください!」

講師が私を見た。

私は取っ手を引いた。講師の手が外れ、扉が開く。

通りを歩いていた人が、店内を見て足を止めた。

「危ないので、店から離れてください!」

人々が道の向こうへ下がるのを確かめ、私は女性へ振り返った。

出口は開いた。

もう、帰れる。

そう伝えようとしたとき、講師の声がした。

「心蝕です。討伐機関を呼んでください」

女性が顔を上げた。

その言葉を聞いた途端、黒いものが肩までせり上がった。

私は新聞の写真を思い出した。

女性も、同じ記事を見ているかもしれない。

「私、何もしていません」

声が震えていた。

「誰も、傷つけていません」

講師が近づくと、女性は椅子へぶつかった。

黒いものが二人の間に広がる。講師は足を止め、店の外へ退いた。

私は女性から少し離れたまま、入口を指した。

「扉は開いています。誰も、そこには立たせません」

女性は出口を見た。

私も、その視線を追った。

明るい通りが見えている。それなのに、女性は動かなかった。

「私、外に出ていいんですか」

黒いものに覆われた自分の腕を見た。

「こんな姿で……」

帰りたいと言っていた人が、今度は外へ出ることを怖がっていた。

扉を開ければ済むと思っていた私は、そこで言葉を失った。

女性は黒いものを払い落とそうとした。指が触れるたび、腕の周りで形が崩れ、また戻る。

私はその手を見て、受付へ向かった。

上着も、衝立もある。けれど、近づけていいのか分からない。

まず、何を望んでいるのか聞かなければ。

「外から見えないように、入口へ目隠しを置きましょう。扉は開けたままにします」

女性は私を見た。

少しして、うなずいた。

私は仕切りに使っている衝立を引き寄せた。出口までの通路を空け、通りから女性の姿が見えない位置に置く。

店の外では、講師が通信魔道具へ話していた。

「発動した場所はこちらです。認定外店舗での対応中に——」

私は衝立を置く手を止めた。

女性が、私を見ている。

ここで講師を追いかければ、この人を一人にする。

私は女性へ向き直った。

「私はここにいます」

そのとき、店の外から講師が呼びかけた。

「リネさん。討伐機関が来るまで、外へ出さないでください」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。