001 ナネシルの魔女(1)
[第零世界、マジアン、十六歳]
瀬のない長い川の水面には、絶えず陽の光がきらめいていた。
初夏を迎えて短く刈られた小屋の周りの草むらでは、スズメが二、三羽ずつ集まり、餌を探していた。
草を刈ったおかげで餌を見つけやすくなったのか、どのスズメも丸々と太り、ひときわ大きくなったさえずりが、朝の空気を容赦なくかき乱していた。
初夏にしては日差しが強すぎるのか、小屋の前の大きな栗の木が落とす影は濃く、輪郭もくっきりしていた。
その午前の、あるひととき。小屋の扉が開き、魔女が外へ出てきた。あどけない頬にはそばかすが散り、黒い髪は寝癖であちこちにはねていた。
背丈は十五、六歳の女の子と大差なかったが、目にはまだ、幼い女の子特有の好奇心が満ちていた。
走るのが好きなのか、脚は丈夫そうだった。体は細くても、少し日に焼けた肌を見れば、彼女が健康だということに異を唱える者はいそうになかった。
マジアンという名の魔女は、オーバーオールを適当に着たまま、大きく伸びをした。
その動きにつられ、左手に持っていたブリキのやかんが傾き、左腕にぶつかった。
隣では、一匹の黒猫も彼女について外へ出てきていた。
思いきりあくびをすると、マジアンはまだ眠そうな足取りで川辺へ向かった。
穏やかな流れを少し眺め、やかんを持ち上げて水を汲み始めた。
やかんがいっぱいになると、左手に持ったまま、注ぎ口に口をつけて水を飲んだ。
「はあー、冷たくておいしい」
すると、隣の猫が話しかけた。
「注ぎ口に口をつけて飲んで、どうするの?」
「何が悪いの?」
「それで僕の水も注ぐだろう」
「潔癖ぶってんの? 普段は自分のケツまで舐めてるくせに」
「それは僕のケツだからね」
喉を何度か鳴らすほど気持ちよく水を飲んだマジアンは、目が覚めたように、減った分をまた汲み足した。
「先に飲んでから、いっぱいにすればいいじゃないか」
「そうしない理由があるの」
「どんな理由?」
「ナビ。お願いだから黙って」
猫と言葉を交わしたマジアンは、やかんを持って小屋へ戻った。
軋む扉を開けて中へ入ると、まるで初めて見る景色のように、注意深く室内を見回した。
窓が二つある小さな小屋には、小さなテーブルと椅子、引き出し棚、ベッドだけが置かれていた。整えていないベッドには、昨夜、読みながらそのまま眠ってしまい、閉じそびれた本が一冊あった。引き出し棚の上には大きな黒い魔女の帽子があり、その隣の壁には五、六本のほうきが立てかけられていた。
ほうきにはそれぞれ、黄色や赤、緑の布がぐるぐる巻かれていた。マジアンはゆっくり近づき、一本ずつじっくり調べた。
「ミラノは、もう壊れたと思っていいだろうし、ボルトとヒアシンは柄が弱いから却下」
「柄が弱い? ミラノが壊れたのは、君が墜落したからだろう」
「黙って。今はほうきを選んでるの」
「ほうきたちの立場も考えてあげないと」
ナビの最後の指摘を無視して、マジアンはほうきの品定めを続けた。
「最低でも一年は乗るんだから、なるべくうるさすぎない子がいい。サリもうるさいけど、それ以上にこいつは埃がくっつくと、なかなか取れないんだよね。『塵力』がこんなに強いと、推進力の調整が難しいじゃん。結局、残るのはこの子だけか」
長々と独り言をつぶやき、柄に黄色い布を巻いたほうきを手に取った。
柄や穂先に壊れたところがないか、あちこち確かめていたマジアンは、右手で懐から丸いものを取り出した。茶色の紙に包まれたレモンの飴を口へ放り込み、舌で転がして味わう。それから両手でほうきを水平に持ち、静かに詠唱を始めた。
「このほうきに、空を飛ぶ方法を教えて」
歌のような短い詠唱が終わると、ほうきから淡い黄色の光があふれ、ふわりと宙に浮いた。水平に浮かぶほうきは、それ自体に命のある鳥のようにマジアンの周りを二度ほど回り、目の前で止まった。
「よし、最初の魔法は成功。こんにちは。あなたの名前は、今日からユジャだよ」
魔法が終わると、ユジャと呼ばれたほうきは、言葉を理解したかのように、もう一度マジアンの周りをくるりと回った。
部屋の隅の椅子で丸くなっていたナビが、大きくあくびをした。
マジアンは得意げに笑ってユジャを見た。そのとき、外で鈴が鳴った。小屋の扉の外に取り付けた止まり木の鈴だった。
「おっ、来た」
振り向いて扉を開け、外へ出た。ユジャはペットのように、彼女のあとをちょこちょこついてきた。
小屋の前では、大きな牛乳缶を七つも積んだ、ロバが引く荷車のそばで、老人がマジアンに声をかけていた。
「マジアン! 牛乳が来たよ。今日はすごい注文だね。六缶も? チーズでも作るのかい? 作り方は知っているのかね?」
「ああ、ジオ! そうじゃないけど、今日はたくさん必要なの。今日、旅に出る予定だから」
マジアンは牛乳を届けた老人にも、当然のようにため口で話した。
老人も、まったく気にしていないようだった。
「なんだって? 旅に出る? それなら、どうして牛乳を頼んだんだい? 家に置いていったら、一週間で全部傷んでしまうよ?」
「大丈夫。魔女には魔女のやり方があるんだよ」
ジオと呼ばれた老人は首をかしげながらも、牛乳缶を持ち上げ、小屋へ運び入れた。ベッドの脇に六缶がきちんと並ぶと、心配そうに尋ねた。
「今日出かけるということは、来週は牛乳を持ってこなくていいということかい?」
「うん、そう。これからは来なくていいよ」
ジオは首をかしげた。
「一か月?」
「違う」
「三か月?」
「違う」
「いち……年?」
マジアンは首を横に振った。
一年以上も家を空けると聞き、ジオは心配そうに彼女を見た。魔女が普通の人間と同じ存在ではないことは、村の誰もが知っている。それでも、十六歳ほどに見えるマジアンの外見は、誰もが心配してしまうほど、か弱そうだった。
「いつ帰るかもわからない、ということのようだね」
マジアンはうなずき、懐からさっきと同じ飴を取り出した。
「それは何だい? 紙がロウンの店の飴の包みと同じだね」
「そう、ロウンのレモンの飴。昨日、ものすごくたくさん買ってきた。旅には絶対必要なものだから」
「あんな高いものを? 魔女には魔女のやり方があるとはいえ、まさか食べ物は飴しか持っていかないんじゃないだろうね? ここからいちばん近い村だって、ずいぶん遠いのに……」
「心配はもういいから、早く行って。配達に遅れるよ」
旅に出ると聞いて心配そうにしているジオを、押し出すように外へ送り出した。荷車が村のほうへ消えるのを見送ると、マジアンは家に戻り、牛乳缶の前に立った。
牛乳の量を確かめ、テーブルの小さな木のカップを取り、いちばん右の缶から一杯汲んだ。
ごくごくと飲み干すと、カップを持ったまま詠唱を始めた。
「これから、あたしが飲みたいとき、このカップでこの牛乳を飲めるようにして」
声はとても低く、少しかすれていた。
旋律を含むような詠唱が終わると、四つの牛乳缶に青い光がまとわりついた。
手にした木のカップには、突然、底から湧き上がるように牛乳が満ち始めた。いっぱいになると、今度は底から吸い込まれるように、すべて消えた。
マジアンは首をかしげた。
「わあ、これ……難しいと思ってたのに、二つとも成功。この調子なら、あたしももうReboundはほとんど起きないんじゃない?」
「魔法というものは、まさにそういうときに足をすくうんだよ」
今度はテーブルへ移動していたナビがそう返し、長く鳴いた。
感激した目で牛乳缶を見ていたマジアンは、その言葉で水を差されたように、カップを持ったままテーブル脇の壁に掛かる黒い鞄を取り、中へしまった。
鞄には、先ほど食べたものと同じ、茶色い紙に包まれたレモンの飴がぎっしり入っていた。カップはその片隅に収まった。
飴でいっぱいの鞄を見ながら、マジアンは独り言を漏らした。
「今日で合ってるよね?」
何かをためらうようにつぶやき、少し考え込んだ。それから決意を固め直したように、荷造りを再開した。ユジャはずっと彼女のあとをついて回っていた。
「水晶玉と、それを拭く布、レモンの飴、牛乳を飲むカップ、それに帽子……。これで必要なものは全部かな?」
「全部? 服は? 靴は? 本は? ジェンガは? 人形は? 歯を磨く塩は?」
「そんなの、何に使うのよ。服なんて、汚れたら洗えばいいじゃん」
「全部脱いで洗濯するつもり?」
「……夜に洗えばいいでしょ」
「君、本当に何も考えてなかったんだね」
「当然。あたし、何も考えてないから」
ナビと気安い会話を交わしたマジアンは、必要最低限の荷物だけを鞄へ入れ、つばの広い黒い魔女の帽子をかぶった。
帽子は頭に対して少し大きく、尖ったてっぺんがまっすぐ立たず、片側へへこんだ。
何かが気に入らないらしく、何度もかぶり直し、結局、少し後ろへ傾けた。帽子の紐を結んであごの下に掛け、家の中を見回した。
考え続けたら、一歩も踏み出せない。
できるうちに、そのまま走り出さなくちゃ。
イネルシル。
今日だけを思って、一年待った。
必ずあなたを見つけに行く。
[お知らせ]
この小説は絶対にフィクションです。作者が、とある魔女に脅されたり洗脳されたりして彼女の物語を書いているわけでは絶対にないことを、あらかじめ明記しておきます。どうか、どなたも誤解なさらないでください。
ソ・ウンジェのYouTubeチャンネルも、ご覧いただけると嬉しいです……。
https://www.youtube.com/@WESTEUNJAE




