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放浪魔女ソ・ウンジェ  作者: ソ・ウンジェ
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プロローグ

[地球、ソ・ウンジェ、二十二歳]


アラームは


まったく


鳴ら


なかった。


ソ・ウンジェは寝ぼけたまま起き上がり、スマートフォンを見た。


いつもの癖でカメラを起動し、いつもの癖で自撮りモードに切り替え、いつもの癖でVlogのオープニングを始める。


「みんな、おはよ。ウンジェです。今起きました。あー……詰んだ。十二時???」


部屋の隅にいた猫が椅子に飛び乗り、伸びをした。


そしてソ・ウンジェは絶叫した。


「うわあああ!! あたし、マジで頭おかしいんじゃないの? 今まで寝こけてたってこと?」


「全面的に同意するよ。翌日が授業開始なのに朝四時までゲームをやってる人には、十分使える言葉だね」


猫に話しかけられても、ソ・ウンジェに驚く様子はない。


「ああ、黙れ!! ふざけんな!!!! 今日は本当に化粧もして、髪も巻いて行くつもりだったのに!」


「やめときな。胸元のラーメンの汁もそのままだよ。歯を磨いて走れ」


「くそ、たった一匹の飼い猫が魔法を使えないせいで、あたしがこんな苦労までしなきゃならないんじゃん。自動メイクの魔法、一個だけでも解除してくれない?」


「メイク……瞬間移動じゃなくて??? そもそも、どうして大学に行くなんて言い出したんだか。はあ」


猫とひっきりなしに口を動かしていたウンジェは、結局化粧を諦めた。マスクと帽子で顔を隠し、斜めがけのバッグを肩にかけて、ワンルームの玄関から飛び出す。ほとんど宙に浮いたまま玄関のクロックスをかっさらっていく動作には、怠惰な大学生としての年季が感じられた。


部屋に残された黒猫は、ため息のような鳴き声を漏らした。


[四十三番目の異世界、マジアン、二十五歳]


「王宮の奥に行くほどあの黒い気配が濃くなるなら、視界が狭すぎる。電撃魔法の微調整、難しすぎない? あいつら全員殺すわけにはいかないでしょ」


〈上からのLOCK ONだけは僕が担当してみる。君ほどじゃないけど、五十人以内なら……ただし、キャスティングは全部君がやるんだよ〉


「それは問題ない。まずこいつらを全員眠らせないと、その先に進めないから」


〈このアボリター(ABOLITOR)は、かなり厄介だね。王宮の衛兵が四百人を超えてる。これだけの人数を精神支配できるものなのかな?〉


「あたしの雷のLOCK ONの上限が百四十四だって、正確に知ってるみたいね。睡眠魔法を連発できれば、すぐ一対一に持ち込めるのに。残念」


〈イネルシルが設定した結果かな?〉


「だったら嬉しいね。ずっとあたしのことを考えてたってことじゃない?」


後ろで束ねた長い髪をなびかせながら、一人の魔女が黒猫と言葉を交わし、王宮正面の道を歩いていた。


魔女の名はマジアン。あどけない白い顔と黒髪から、年齢は二十五歳ほどと推測できた。灰色のリネンのローブを全身に巻きつけ、体格も武装もよく分からない格好は、王宮の正門を守る兵士たちには、どうしても不気味に映った。


アラン王宮のある城壁内には、住民の姿が一人もなかった。避難命令が出たのか、アボリターが皆殺しにしたのか、マジアンには分からなかった。


だが、不穏な黒い気配が空を覆う今の王宮を守る衛兵たちは、一人として持ち場を離れていない。本人たちは気づいていないかもしれないが、見ている側には、その目に宿る緑の光が正常な人間のものとは思えなかった。


「そこの近づいてくる者! 用件を述べろ!!」


荒々しくマジアンに怒鳴った衛兵は、そこで初めて、彼女が長い剣を背負っていることに気づいた。右肩からわずかにのぞく柄には、典型的なエルフの剣の曲線と文様が刻まれていた。


「そこで止まれ!」


正門前の衛兵二人が叫ぶと同時に、門の内側で待機していた十七人が勢いよく立ち上がった。


マジアンは左手に握っていた黄色いレモンキャンディを口に入れた。


甘い飴が口の中で溶け始める。右の頬に飴を寄せたマジアンは、そのまま背中から剣を抜き、低い声で詠唱を始めた。


「雨雲、青、虹の果て、振動と破滅、電撃」


「何だ!!」


「くそっ!! 魔女だ!! 全い……」


マジアンが剣を抜き、騒然となった正門とその内側の地面から、青い雷が無数に噴き出した。プレートメイルに直撃を受けた衛兵は、全員その場に倒れた。


イネルシル。


説明して。


これを説明できなかったら、あたしがあんたをどう扱うべきか、まだ決められない。


崩れ落ちた城の残骸が巻き上げた粉塵が、ひどく濁った空気を作っていた。マジアンの防御膜は周囲に迫る埃を押しのけていたが、視界までは確保してくれない。


さっきまでマジアンの隣を歩いていた黒猫のナビは、今や彼女よりはるか高く浮かんでいた。そこから、粉塵に隠れた一角から飛来する触手の群れを見つけた。


「攻撃だ!」


「流して!」


――バン!


短い命令に防御膜の一部が光り、飛んできた触手を弾いて逸らした。


「アボリター(ABOLITOR)だ!」


ナビの声に、マジアンは触手が飛んできた方を見た。粉塵が晴れつつあった。衛兵が全員電撃に倒れたこの王宮の主だった男が、そこに立っていた。


アラン国王、ルビナス四世。


緑の光を目から放つルビナスの体には、二本の脚と二本の腕に加え、数十本はありそうな触手があちこちから生えていた。ルビナスなのは顔だけで、もはや人間の姿とは呼べなかった。


それを見たナビが叫ぶ。


「マジアン! 飴は?」


「あと三分!!」


右手でエルフの剣を一回転させたマジアンは、ゆっくり近づいてくるアボリターを見つめた。


アボリター――ABOLITOR。


〈文明を滅絶させる機械〉


イネルシルが訪れた世界ごとに残していったもの。


マジアンは、まだ知らない。なぜイネルシルが、あらゆる世界にこんなものを植えつけて回っているのか。


ある世界では竜だった。ある世界では人間だった。人魚やエルフ、タコだった世界もあった。


マジアンは、まだ知らない。なぜイネルシルが、自分に魔法を教えたのか。


イネルシルはすべてを教え、ナビまで作ってくれた。ナビがいなければ、最初の世界でとっくに死んでいただろう。


マジアンは、まだ知らない。なぜイネルシルが、自分のもとを去ったのか。


それを知るために、十年前、あの栗の林を離れることを決めたのだ。


口にするつもりもなかったのに、怒っているような、すがるような声が漏れた。


「イネルシル。説明して。お願い」


[お知らせ]

この小説は絶対にフィクションです。作者が、とある魔女に脅されたり洗脳されたりして彼女の物語を書いているわけでは絶対にないことを、あらかじめ明記しておきます。どうか、どなたも誤解なさらないでください。


ソ・ウンジェのYouTubeチャンネルも、ご覧いただけると嬉しいです……。

https://www.youtube.com/@WESTEUNJAE


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