第二十一話:鉄格子の邂逅、沈黙の誓約 (改稿)
第二十一話:鉄格子の邂逅、沈黙の誓約
地下牢の奥深く、湿った苔と鉄錆の匂いが立ち込める最下層。
シーザーは買収した看守を下がらせると、松明の揺らめく光の下、重い鉄格子の向こうに座す男を静かに見据えた。
「……元気そうだな。地獄の王殿」
「おかげさまでな。毎日、泥と血を啜って……最高に愉快な余生を送ってるぜ」
アレクサンダーは薄汚れた床に直接腰を下ろしたまま、不敵な、剥き出しの牙を見せるような笑みを浮かべて答えた。
その肉体には無数の新しい傷跡が刻まれていたが、筋肉は鋼のように引き締まり、眼光は以前にも増して鋭い。それは、死地にあってなお獲物の喉笛を狙い続ける、飢えた大虎の如き威圧感であった。
シーザーは無表情を崩さぬまま、淡々と外界の惨状を語り始めた。
聖地タルカを統べるはずの元老院が、今や一人の女――レイミアの、魔力にも等しい絶世の美貌に狂わされ、内側からボロボロと崩壊し始めていること。
かつて高潔を謳った議員たちが、一瞥を勝ち取るために互いの喉元に刃を突き立て、醜い諍いに明け暮れていること。
そして、強欲の塊であるコンスタンティンが「保護」という名目で彼女を黄金の鳥籠に閉じ込め、私欲のために法を捻じ曲げていること。
「……かつての英雄たちは、今や一人の女に魂を売り、利権の泥濘に沈んでいる。この国は、根元から腐り果てた」
シーザーの言葉の端々に宿る、極北の風のような冷徹な怒りを、アレクサンダーは敏感に感じ取った。
(……なるほどな。こいつは、この腐った元老院ごと、神の代行者たちの椅子を叩き壊すつもりか。そのための『牙』を、ここで研がせていたってわけだ)
かつての義兄が抱く、静かなる、しかし烈火の如き反逆の意志。それは、絶望の底に沈んでいたアレクサンダーの魂に、再び剣を握るための昏い火を灯すに十分な熱を持っていた。
立ち去ろうとして背を向けたシーザーに、アレクサンダーが低く、地を這うような声を投げた。
「……おい、シーザー。俺にこの重い首輪を嵌めて、こんなクソ溜めに押し込めたこと……寝覚めが悪かったか?」
シーザーは足を止め、振り返らずに答えた。
「……寝覚めだと? そんな感傷、元老院の会議室には落ちてはいないな」
「ハッ。相変わらず、可愛くねえ野郎だ。お前は俺を死刑台から引きずり下ろすために、わざとこの『地獄の底』に隠したんだろ。……あいつらの目が届かない場所に、俺を温存するために」
「さあな。どうだったか。……私はただ、お前がそこで無様に朽ち果て、私の足元に這いつくばる姿を、誰よりも特等席で眺めたかっただけかもしれんぞ」
「抜かせ。その回りくどいお節介が、お前の最大かつ唯一の欠点だ」
鉄格子の軋む音が、二人の間に流れる奇妙な、しかし強固な信頼を断ち切った。
アレクサンダーは再び、闇の向こう側へと飲み込まれていき、シーザーは白銀の外套を翻して、地上へと続く冷たい階段を上り始めた。
一人は、地下の狂熱の中で、すべてを薙ぎ払うための暴力を蓄え。
一人は、地上の静寂の中で、すべてを終わらせるための毒を研ぐ。
かつての兄弟が再び同じ戦場に立ち、互いの背を預け合う時。
それは、この偽りの秩序が終焉を迎え、天界すらも震え上がる「審判の日」の幕開けであった。




