果音~果実の熟れるオト~
春。
まだ午前3時をまわらない頃。
今日も私の叫び声が響く。
「イヤああああぁぁぁぁっっ!!!!!!」
とっさに起き上がると、汗でぐしょぐしょになった体に服がべっとりと張り付いていた。
あがっている息を整えようとする。
「はぁっ、はぁっ、はぁ・・・はぁ・・・。」
私がここまで動揺している理由---
それは、毎日の様に見る夢---おなじ人---
そこは、赤い月に照らされ不気味に輝くお城がひっそりとそびえ立つ。
城からは、毎回同じ歌が聞こえる。
広い屋敷に広がる廊下の奥、階段をあがりきった最上階奥の部屋---王室---それだけ書かれた部屋。
真紅のカーテンに金製のたくさんの家具で飾られた豪華な部屋。
その中央に置かれている、ひとつ特別なオーラを放つ椅子。
その椅子に座るあの人---あの男性---が私に手をのばす。
私は動けない。
ただ、恐怖にかられて・・・。
・・・いや・・・恐怖---だけじゃない。
私はもうひとつ、あの人に抱いている感情がある。
それは・・・---
「大丈夫か?」
ふと声がしたと思うと、心配そうな顔で私を見つめる人がいた。
私は心配をかけないように、精いっぱい笑顔で言った。
「大丈夫だよ、お兄ちゃん。ありがとう。」
それを聞くと、お兄ちゃん---『誠』は安心したように「そうか」とだけ言った。
「ごめんね、いつもいつも---」
「気にするな、千代。お前は悪くないだろ?」
私は、その言葉にはっきりとうなずくことはできなかった。
事実、叫んでいるのは私であって、これがここ最近頻繁になってきているのもたしかだった。
小さい頃も、似たようなことはあったが、ここまで現実味のあるものではなかった。
「母さんたちもおんなじことを言うよ。」
「そうかな・・・」
「そうだって。俺も、親父も母さんも・・・お前のことを愛してんだから。」
「・・・うんっ。」
私たちの両親は、10年前に亡くなった。
母は病で亡くなり、父は後を追うように交通事故でなくなってしまった。
若干7歳の私に、3つ年上で当時10歳の兄。
幼い私たちには親戚がおらず10年間二人だけで暮らしてきた。
働く力などない私のかわりに働き、育ててくれたお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんの迷惑にはなりたくないのに---
「また、同じ夢か?」
ふと問われた問に驚きつつも答えた。
「う、うん。」
「なんなんだろうな、本当に・・・」
「私にもわからないよ~。」
「あはは、だよなぁ。」
私は・・・まだお兄ちゃんに言っていないことがある。
夢の人の話もしたし、その人に恐怖を抱いていることも伝えた。
でも---
「お兄ちゃん。」
「ん?」
「一緒に寝ていい?」
「寝るって・・・今から? あんまり寝れないぞ?」
たしかに、もうすぐ時計の針が午前3時を指そうとしている。
それでも、そうしたかった。
なんとなく、私がこのことを伝えてしまったら、お兄ちゃんが消えてしまう気がしたから・・・。
「ダメ?」
「いや、いいよ。」
お兄ちゃんの許しが出ると同時に、私は兄の布団にもぐりこみ、お兄ちゃんに抱き着いた。
小さい頃以来のお兄ちゃんのぬくもり---
「あったかい」
「はいはい。」
呆れたように返事をするお兄ちゃんも、私を抱きしめてくれる。
お兄ちゃん、ごめんね?
私、お兄ちゃんに言ってないことがあるの。
・・・前にも言ったけど、夢のあの人---
前に、『怖い』って言ったけど、でも、それだけじゃないの。
私は・・・私はね、理由もなくただただ一心に・・・あの人のことが---
「おやすみ、千代。」
「おやすみ、お兄ちゃん。」
私たちは、深い眠りへと堕ちていった。
《白月千代 17歳
春この頃、高校2年生になったばかりの私は、兄に秘密にしていることがあります。
私は、あの夢の人が怖いです。
でも、好きなんです。
なんでかはわからないけれど・・・
途方もないくらい
---------愛しているんです--------- 》




