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めでたしと転校生 1/2

昇降口に入ると、虹川と清野とばったり会った。


「あ、おはよう健太郎君、天ヶ瀬君もおはよう」

「よっ! 今朝も一緒に登校だなんて、見せ付けてくれるねえ」


そうかな?

まあ、そうでもあるけどな!

なんたって俺と理央は恋人同士―――特に公表してはいないが。


理央に、俺と付き合っていることを秘密にするかどうか訊いたら「君の好きにしていいよ」なんて言うから、俺も特に隠さないことにした。

だからって敢えて言い回るようなことでもないし、つまり今までとあまり変わらず過ごしている。

それでも周りはお察しってヤツらしく、暗黙の了解的に知れ渡っているようだ。

やっぱり磐梯との決闘が原因だろうな。

それに文化祭以来、俺達は大抵一緒にいるし、まあ気付かれるだろうなとは我ながら思う。


「それにしても健太郎がまさか男もいけたなんて、この節操無し」

「ちょっと、リン」

「こーんな可愛い女の子を選ばなかったこと、今更後悔しても遅いからね!」

「もう、リンったら!」


そう言うが、清野と虹川は知らないだろうが、理央はその可愛い女の子だ。

―――ふと背後に圧を感じる。

ハッと何かに気付いた様子の虹川達がそそくさと離れていく。

二人の様子を見て理央も、すごく嫌そうに俺の背後へ視線を向ける。


これは、まさか。


義兄上(あにうえ)!」


ぐッ! 今朝も現れやがったな!


「磐梯!」

義弟(アモーレ)と呼んでくれ、義兄上!」


何なんだよ!

気持ち悪いから懐くな、その満面の笑みをやめろ、第一俺はお前の義兄上じゃない!


哀れな磐梯の頭がすっかりおかしくなってしまった原因は、文化祭まで遡る。

俺と理央が美術用具室にいた頃、こいつは執念深く骨折した体を引き摺り学園に現れたらしい。

どうやらリベンジマッチを挑むつもりだったようだ。

けれど、たまたま校庭で燃え盛るキャンプファイヤーに気を取られ。

そして、キャンプファイヤーの傍にいた薫をたまたま見つけてしまった。


その瞬間、磐梯に激震走る。

なんと一目惚れしたそうだ。


直情的でアホの磐梯は、勝負の事など即座に頭から吹っ飛び、薫の元へ行って告白したそうだ。

けれど薫に「私は男だよ?」と告げられ、その場で即失恋、だがそれでも諦めず、粘って食い下がった。

困った薫は自分には王子様がいること、そしてそれは俺だと明かして、負けた磐梯なんか相手にしないとバッサリ切り捨てたそうだ。


しかし磐梯は、そこから謎の超理論を経て俺を『義兄上(あにうえ)』と呼ぶようになり、今に至る。


はっきり言って訳が分からん。

最初に呼ばれた時は思わず殴ってしまった。

全治一か月の骨折はまだ全然治っておらず、痛めつけられ呻く磐梯が、それでも俺を『義兄上』などと呼ぶもんだから、ゾッとして即逃げた。

だけどこいつは、松葉杖をついて学園に現れ、何かと俺を慕ってくる。

文化祭の翌日には海外へ再び旅立っていった元凶の薫に文句を言っても『意外に面白い人だよね』なんてすっかり他人事だ。

俺を傷つけたことは許していないが、必死に好意を伝えてくる磐梯の姿はちょっと可愛かった、らしい。

気持ち悪いの間違いだろ?

いい加減にして欲しい、こいつに振り回されるのはもうウンザリだ。


―――薫は、文化祭の日、帰宅して一緒に飯を食った後で、自室に俺を呼んで理央とどうなったか尋ねた。

告白が成功したことを伝えたら「おめでとう」って祝福してくれたんだ。

過去に薫とあった出来事を思えば、少し後ろめたい。

それでも薫は俺の背中を押してくれる。

本当に有難う。

お前にもし何かあったら、今度は俺が海を飛び越えて助けに行くからな。


「義兄上」


感傷に耽っていた俺の意識は、アホの呼び声により煩わしい現実へ引き戻される。

こいつとも一応、数日前に話し合ったんだ。


磐梯は意外なほど素直に謝った。

理央にも殊勝な態度で迷惑をかけたと謝罪して、反省―――しているかのように見えた。

だが、違った。

こいつは単純に俺達に興味を失くして、今は頭の中が薫でいっぱいなだけだ。

その証拠に、謝った直後に話題を変えて延々と薫のことばかり話すもんだから、最終的に理央がキレた。

俺も呆れたよ。

磐梯には三度も殺された恨みがある。

皆に怪しげな術を使ったこと、傷つけたこと、文化祭で飲食に薬物を混入しようとしたことも見過ごせない。

だから早々に学園からいなくなって欲しいんだが、粘着質というか、身勝手というか。

心底ウザい。

もう何本か骨を折って、本格的に再起不能にしてやろうかという気持ちが湧いてしまう程度には、日々苛立たせられている。


「磐梯、言ったよな? 許してやるから俺と理央の前から消えろって、あの時言ったよな?」

「無論! 覚えているぞ、義兄上!」

「じゃあなんで今日も登校してくるんだよ! 大体まだ絶対安静って言われてるだろ!」

「おお、俺を気遣ってくださるのか、流石は姫が認めし御大、漢であられる!」


姫っていうのは薫のことだ。

まあ、確かに薫は姫だが、磐梯が呼ぶと若干イラッとするな。


「うるせぇ! 帰れ帰れ! 俺と理央の前から消えろ!」

「義兄上よ、身の程を知らぬ俺はとうに消え失せた、今この場にいる俺は! 義兄上を義兄上と呼ぶ従順な義弟の俺だァッ!」

「知らねぇよッ!」

「ぬっ、では何卒お見知りおきを」

「黙れ! 帰れ!」

「つれないことを申されるな、共に姫に忠誠を誓いし我らは紛れもない義兄弟であろう?」

「知らん! 失せろ!」

「義兄上!」

「だからそう呼ぶんじゃねえッ!」


ううっ、頭が痛い。

理央も隣で静かに怒りのオーラを纏い始めているし、勘弁しろ。

大体こんなデカい弟お断りだ。

どうせなら妹がいい、そういや理央には妹がいるって言ってたよな?

いずれ間接的に出来るかもしれないのか、妹。

だとしたら、やっぱりこいつはいらねえ! むさくるしい、かさばる弟なんぞ心底お断りだ!


理央を促し、磐梯は無視して教室へ向かう。

こいつのせいですっかり有名人だ、今も注目の的になってしまっている。


「ねえ健太郎、僕らはすっかり御一行様だね」

「落ち着け理央、気持ちは分かるが抑えてくれ」

「むっ! 義兄上よ、恐れ多くも我らを収める卑しき目どもが不快であられるか? ならばこの俺が悉く潰して差し上げましょうぞ!」

「やめろ、理央の目まで潰す気か、だったら俺が先にお前の目を潰す」

「おお、そのように恐れ多きこと! 無論承知しておりますぞ、理央以外の目のみを潰しましょう!」

「もういい、せめて黙って大人しくしてくれ」

「承知!」


俺はただ理央と楽しくラブラブな学園生活を送りたいだけなのに。

どうしてこう侭ならないんだ。


でも、ある意味こいつのおかげで俺と理央の関係は進展したとも言えるんだよな。

だからって感謝なんかしないが。

こうしていまだに迷惑をかけられているんだ、磐梯ごとき百害あって一利なし、さっさといなくなってくれ。

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