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後夜祭と二人 3/1

「ねえ、健太郎」

「ん?」


遠くから校内のざわめきが伝わってくるが、ここは静かだ。


「よければ少し話さないか?」

「いいよ」

「君に訊きたいことがある」


え、なんだろう。

告白ならまだだぞ、後夜祭のジンクスに賭けているからな、今はまだ早い。


「君が先日用いていたあの小手、あれは一体何だい?」

「えーっと、あれは母さんが師匠から免許皆伝の証として拝領したものだ」


ポカンと俺を見上げる理央に説明する。


「母さんと、俺も、同じ師匠から古武術を習っていてさ、だから母さんは姉弟子でもある、昔は世界中を渡り歩いて猛者たちと死闘を繰り広げたらしい」

「本当かい?」

「ああ、その時の相棒があの小手で、親父をぶちのめした時にも使った由緒ある武具だから、ご利益にあやかろうと思って拝借したんだ」

「なるほど」

「ちなみに俺も免許皆伝、俺は脚絆を頂いた」

「君もか?」

「おう、凄いだろ? 頑張ったんだぞ」


師匠のしごきもきつかったが、母さんはそれ以上だった。

思えばあの頃から俺は死に掛けたりしていたんだよな。

まあ、いずれ本当に死ぬ羽目になるとは思わなかったけれど。


「なるほど、ようやく合点がいったよ」

「何が?」

「いや、だが阿男相手に見事な立ち回りだった、まさか格闘術を習得していたとは」

「そういやヤツは? まだ入院してるのか?」


骨折しているのに動き回って、看護師を手こずらせているとか言ってたな。


「ああ、一応はね、しかし全く大人しくしていない、君もそうだが、君達はどうかしているよ」


そのことに関しては申し開きもない。

今日だって無理やり文化祭に来たからな、まだ全然傷が痛むし、なるべく安静にしろって医者から念を押されている。


「なあ、理央」

「なんだい?」

「磐梯の誤解って解けたのか? ほら、俺がお前を誑かしたとかいう」

「どうだろうね」


だったら奴と一度しっかり話をつけないと。

俺が勝った時の条件でもあったし、いつまでも因縁をつけられるのは御免だ。


「でも、あながち間違いでもないよ」

「え?」


理央は「いいや」と笑って首を振る。


「あいつと話し合うのなら、僕が場を設けよう」

「そうか、助かる」

「しかし藤峰君の時といい、君、少し人がよ過ぎるんじゃないか?」


うーん、どうだろうな。

そんなつもりはないんだが、ループしたとはいえ殺されたし、磐梯の野郎には恨みもある。

だけど、そういうマイナスな感情に引っ張られるのは嫌だ。

怒ったり憎んだりするのも昔から苦手で、喧嘩だって全然好きじゃない。

薫の時は俺のせいでもあったし、磐梯の野郎はボコボコにして気が晴れたからもういい、今は過ぎたことだ。


「まあ、今生きてるし、理央もいるし、だから別にいいかな」

「豪胆だね」

「男前だろ? 理央には巻き込んで悪いと思ってるけどさ」

「それはいいよ、僕に気遣いは無用だ」


俺の胸に凭れたまま、フフ、と笑う理央に少しドキドキする。

可愛いな、理央。

好きだ。

今日までに起きた出来事を全部過去だと流せるのは、お前がいてくれるおかげのような気もする。

理央がいるから、いつだって前を向いていられるんだ。


「おっと」


そろそろかと腕時計で時刻を確認すると、もうすぐ六時だ。

―――後夜祭が始まる。


「理央、中に戻ろう」

「時間かい?」

「ああ」


立って理央に手を伸ばし、俺の手に掴まった理央を立たせて、一緒に校内へ戻る。

その前に屋上のフェンス越しに校庭を窺うと、デカいやぐらが組まれていた。

キャンプファイヤー用のやぐらだ。

あれで火を焚いて、花火も打ち上げるんだよな。

うちは敷地が広いからこんなこともできる、光輝学園名物の一つだ。


校内に戻って間もなく後夜祭開始のアナウンスが流れた。

外部の客はとっくに帰り、片付けをしていた奴らもぞろぞろと外へ出ていく。

俺は理央の手を引き、校庭に面した校舎の最上階、一番奥の教室に向かう。


「ここは、美術用具室だね」


ドアの前に立って、理央がぽつんと呟く。

流石にここは施錠されているが、周りに誰もいないことを確認してからピッキングで、ほい、ほいっと。

よし、開いた。


「おい」

「まあまあ」


理央を宥めて用具室に入る。

ゴチャゴチャして暗いな、取り敢えずドアに鍵を掛けなおして、カーテンを開けよう。

端からだが校庭を一望できる。

キャンプファイヤーも、花火だってきっとよく見えるぞ。


「こんな場所から花火を眺めるつもりか、呆れた」

「そう言うなって」

「君、もしかして忘れているかもしれないが、僕の父はこの学園の理事長だ」

「うっ!」

「君のような生徒がいるなら、学園の警備を見直す必要があると進言するべきだろうね」

「や、やめてくれよ、これっきりにするから、勘弁してくれって」


謝り倒していると、視界の端に赤いものが映る。


「あ」


理央も窓の外を見る。

火だ、燃えている、やぐらに点火されたんだ。

少しずつ勢いを増していくキャンプファイヤーの炎が、夜の校庭を明々と照らしている。


「綺麗だな」

「ああ」


そっと理央の様子を窺う。

綺麗な横顔、色素の薄い柔らかな髪や、長いまつげ、涼しげな眼もと、スッと通った鼻筋と、艶のある唇。

白い頬、細い首筋、しなやかな体のラインも、何もかも堪らなく魅力的だ。

こうして眺めているだけで胸がドキドキして苦しい。

好きだ。

想いが溢れて止まらない、好きだ、理央、好きだ。

いつだってお前は世界にたった一つの宝石みたいに眩しくてたまらない。

触れたい、喉から手が出るくらい欲しい。

理央。

―――これから伝える俺の気持ちを、どうか受け取ってくれ。

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