後夜祭と二人 2
「あれ? あそこにいる人ってもしかして、今年の紅薔薇王?」
「そうだよ、っていうか、一緒にいるのってもしかして天ヶ瀬 理央?」
「うわっ、ヤバ!」
今度は女の子達に見つかった。
あーもう、次から次へと、これが世に聞く有名税ってやつか?
「あの~、一緒に撮ってもらっていいですか?」
「お願いします!」
うぅっ、女の子からのお願い、どうしよう。
そっと隣の理央を窺う。
理央も俺を見上げてくる。
ええい! 俺はいつだって理央ファーストだ!
「ごめん!」
女の子達に頭を下げると、理央を連れて小走りにその場から離れる。
「いいのか?」
「だって、今は理央とデートしてるからっ」
間を置いてフフっと笑い声が聞こえる。
手を繋いで隣を歩く理央はなんだか楽しそうだ、俺も楽しくなってくる。
重なっている掌と、胸の奥がじわっと温かい。
「次はどこに行くか」
「健太郎、その、実は案内にあった『オムそば』というものが気になっている」
「おっ! いいな、じゃあ早速食いに行こう!」
「それと『ボールすくい』という何かしらも、なあ、君は知っているか?」
「何を?」
「ボールを救うという行為にどんな意義があるのか、果たして救われる対象はボールなのか? それとも」
「それ多分の意味が違うと思うぞ」
可愛いなあ理央は、たまにこういう思いがけない勘違いをするところがすごくいい。
よし! 気になる展示も店も全部回ろう!
まだ時間は十分ある。
「よし理央、まずはオムそばからだ!」
「ああ」
理央と一緒に賑わう校内を見て回る。
二人で食べたり、飲んだり、遊んだり。
何をしていても楽しくて最高の気分だ、理央が笑ってくれると嬉しい。
世界は輝いて、幸せってこういうことなのかと実感する。
俺が命を賭けて掴み取ったもの。
紅薔薇王の称号より遥かに価値がある、ささやかな日常だ。
有難う理央。
そして、俺のために帰国してくれた薫や、応援してくれた皆にも感謝でいっぱいだ。
大勢が俺を支えてくれたから、今、こうして充実した時間を過ごせている。
頑張ってよかったな。
俺自身にもよくやったと褒めておこう。
三度も殺されて、今もまだ傷だらけだが、全部名誉の勲章だ。
―――窓の外の景色が少しずつ暮れ始めて、校内に明かりが灯る。
ふと、運営委員のアナウンスが流れた。
間もなく文化祭終了のお知らせだ。
辺りはまだまだ賑わっているが、今年の祭りはもうすぐ終わっちまうのか。
「終わりだってさ、なあ理央、楽しかったか?」
「ああ、君のおかげで満喫できたよ」
「俺も! 理央と一緒でよかった、最高に楽しかった!」
「そうか、何よりだ」
さて、これからどうするか。
「一応クラスに戻るか、客引き逃げたし、後片付けくらいは手伝わないと悪いよな」
「君は怪我人なのだから、そんな気遣いは無用だよ」
「でも」
「これをご覧」
理央は制服の内ポケットから取り出したものを俺に見せる。
写真?
ってあッ! こ、これは、メイド姿の俺!
「一枚千円でばら撒かれていた、目線がこちらを向いていない、明らかに隠し撮りだ」
「えっ、だってチェキは一枚五百円で、購入者も一緒に写るのがルールだろ?」
「そうだね、つまりこれは非公式な代物、誰かが不当に稼いでいた証拠だ」
「なんだと!」
「だが安心したまえ、既に手を回して一枚たりとも残さず回収済みだ、僕の写真も出回っていたからね、流石にそれは困る」
マジか、ふざけんな。
誰だか知らないが探し出して息の根を止めてやる。
「健太郎、これは恐らく、クラス内における一部の者達の間で暗黙の了解の元に行われていた行為だ」
「は? 誰だッ!?」
「さて、だが僕は犯人探しをする気はないよ、その代わり、クラスの出店には十分貢献したものとして、これ以上関わるつもりもない」
なるほど。
って、なんでまたその写真を内ポケットにしまう?
「なあ、理央」
「なんだい?」
「今の写真、返してくれないか?」
「これは僕が購入したものだ」
「いつ!?」
理央はニコッと笑う。
待て待て待て!
「いや、そうじゃなくて」
「僕が対価を支払い得た、故に所有権は僕にある」
「あ、ええと、じゃあ買い取る! 金払うので売ってください!」
「断る」
「何でだよ!」
「僕のものだからさ」
「ず、ズルいだろ! だったら理央の写真も売ってくれ! 言い値で買う!」
「そちらは全て焼却済みだ」
「んなッ!? のおおおおおおおおおおッ!!」
そんな、勿体ない! あんまりだ!
呆然とする俺の背中を理央はトントンと慰めるように叩く。
「まあ、こういう裏事情もあることだ、彼らを気遣う必要はないよ」
「うっ! ううっ!」
「泣くんじゃない、よしよし、執事服くらい着てあげよう」
「えっ?」
「君限定で、ね」
り、理央!
期待を込めて見詰めた俺に、理央はニッコリ微笑み返してくれる。
やっ、やったぜ!
焼却処分されてしまった写真はものすごく惜しいが、理央がまた執事服を着てくれる!
しかも俺のために! バンザイ!
―――もしよければメイド服も着てもらえないだろうか?
執事がアリならメイドもアリだろ、よし、頑張って頼み込むぞ!
一時間後の後夜祭まで、あの場所で時間を潰すことにした。
理央を誘って歩き出す。
いつも俺達が二人きりで過ごす、屋上の奥の方の秘密の場所へ。
人目を避けてこっそり出ると、屋上は少し風が強い。
空はすっかり暗くて、一番星が輝いている。
「部外客も来る文化祭で施錠を怠るなんて管理が杜撰だ、校長に指導を促すべきか」
「まあまあ、おかげで来られたんだし、それより寒くないか?」
「そうだね、少し」
体を震わせる理央の、肩を抱き寄せる。
驚いたように顔を上げた理央は、だけど何も言わず俺の胸にそっと凭れた。
温かい。
柔らかいし、細くて、いい匂いもする。
少し強く抱きしめても大人しい。
髪に鼻先を埋めてスウッと息を吸うと、くすぐったそうに笑う声が俺の鼓膜をくすぐる。




