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後夜祭と二人 1

LOOP:××

Round/You′re the one



保健室のドアがカラカラと開いた。


「やあ」


理央!

薫がベッド脇の簡易椅子から立ち上がって「天ヶ瀬さん」と近付いていく。


「お帰りなさい」

「ああ、まだお邪魔だったかな?」

「そんなことないよ、ふふッ、天ヶ瀬さんこそ気を遣ってくれて有難う」

「君達は久々に会うからね、積もる話もあるだろう」

「あっ、そういうこと言っちゃうんだ?」

「フフ」


美人な理央と可愛い薫のやり取りを微笑ましく眺める。

二人もいつの間にか仲良くなってくれたみたいだな、嬉しい。


「健太郎」


理央は薫と一緒にこっちへ来て、俺に声を掛ける。


「具合はどうだ?」

「ああ、寝て復活した、元気だよ」

「それは何より」

「理央はどこへ行ってたんだ?」

「ファンクラブの子達に誘われて、展示物を鑑賞していた」


へえ、楽しそうだな。

だけどそうか、ファンクラブの子達も文化祭を理央と過ごしたかったよな。

ずっと俺が独占していたし、むしろ席を外してもらってよかったのか。


「じゃあ、私も皆に会いに行ってこようかな」


薫?


「ファンクラブの展示、今年もしてるって言われたんだ、是非見に来て欲しいって」

「ああ、確かに盛況だったね」

「本当?」

「整理券が配布されていた、本人が帰国したと伝わり、客足が一気に増えたらしい」

「大変、それじゃ早く行かないと!」


ファンクラブの展示?

そういえば、去年も薫と理央のファンクラブの展示があったような、部活動でも同好会でもないのに許可されていたんだよな。

今回の直前での紅薔薇王(クリムゾン・キング)投票の特別枠追加といい、うちの文化祭運営委員、かなりいい加減では?

盛り上がるなら何でもアリなのか、教師の誰かが監督についているはずだが、買収でもされているのか?


「そういうわけだから、ケンちゃん、私、行ってくるね」


薫は保健室の出入り口の方へ歩いていく。


「あ、おい、薫!」

「そうだ、今日は家に帰るから、お夕飯は一緒に食べよ?」

「えっ、ああ、分かった」

「お母さんが張り切っちゃって、ご馳走いっぱい作るって言ってたから、お父さんも早く帰ってくるみたいだし、だからケンちゃんも一緒に、待ってるよ!」

「了解」


おばさんもおじさんも、留学中の一人息子が帰ってきて嬉しいんだろう。

そんな家族団らんの場に俺が加わっていいのか?

まあ、昔から可愛がってもらっているが―――


「それじゃ、頑張ってね、ケンちゃん」


薫はパチンとウィンクして、スカートの裾を翻しながら軽やかに保健室を出ていく。

その長い髪が揺れる後ろ姿や、後に残る余韻までキラキラと輝いて見えるようだ。

眩しいな、本当に。

あの講堂での大熱狂が、今も薫がどれだけ大勢に慕われているかを物語っている。

文化祭の今日、久々に本人と会えたら、展示を用意した奴らも、見に来た客も、きっと泣いて喜ぶに違いない。


それにしても『頑張ってね』って、あいつ。


「彼は天性のカリスマだね」

「お前に褒められたら、薫も鼻が高いだろうよ」


クスクス笑う理央を見上げる。

さて!

上掛けをまくって、ベッドから降りる。

薫に発破かけられたしな。

俺も、いつまでもこんな所でのんびりしていられない!


「理央、今度は俺と文化祭を見て回ろうぜ!」

「しかし君、怪我は」

「へーき! へーき!」

「だが」


渋る理央の手をギュッと握る。

理央は俺を見つめて「まったく」と苦笑した。


「仕方がないね、君は」

「よし、行くぞ!」


後夜祭の前に、たくさん楽しんで、たくさん一緒に笑うんだ。

少しでも告白の成功率を上げるため―――と、単純に理央の笑顔が見たいから。

二人で過ごす時間は幾らあっても足りない。

理央にも、俺と一緒だと楽しいって思って欲しい。


「文化祭を見て回るのはいいが、適宜休憩を挟もう、無理は禁物だよ」

「分かってるって」

「そう言って無茶しがちなのが君だ、自覚を持ちたまえ」

「だったら理央が気に掛けてくれよ」

「僕に甘えるな」


ちぇ、つれないな。

だけど何だかんだ言って面倒を見てくれることも知っている。ふふっ!

なんかいいな、こういうの。


さて、どこへ行って何を見るか。

気になる展示や店が盛りだくさんだ、ここから一番近いところから順に回っていくとするか。


校内には学園の生徒や外部客が大勢いて、まだまだ文化祭は盛り上がっている。

俺が今年の紅薔薇王(クリムゾン・キング)に選ばれたことは既に知れ渡っているらしく、行く先々で声を掛けられた。


「えっ! 紅薔薇王(クリムゾン・キング)割なんてのがあるのか!」

「その代わり、学園の公式SNSでうちのクレープ超美味いって投稿してくださーい!」

「お安い御用だ!」


割引と、おまけで貰ったクレープを理央と分け合い頬張っていると、思いがけずクラスの奴に遭遇した!


「あっお前! 怪我が痛くて保健室で休んでたんじゃなかったのか!」

「天ヶ瀬とイチャイチャデートかよ、この野郎!」


そういう話になっていたのか。

虹川達が口裏を合わせてくれたのかな。


「捕まえろ! あいつは金を生むガチョウだ、逃がすな!」

「またメイド服を着せてやるッ」


うっ、マズい!

執事な理央はともかく、俺はメイド服なんて二度とごめんだ!


「理央、逃げるぞ!」

「走るのか? 正気か君!」

「大丈夫、任せろ!」


理央の手を掴み、素早いターンと同時に小回りを利かせつつ走り出す!

周りには大勢の人がいるから、あいつらも容易には追ってこられまい。

だからこその、この逃げだ! 見よ! 華麗なステップ&ターン!

理央に負担がかかり過ぎないよう気を付けつつ、あっという間に引き離して逃げ切った!

ふっふふ! 舐めるなよ?

俺はな、こう見えて小学生時代は、最後までコートに残って相手チームを血祭りにあげる『逃げの鬼』として名を馳せていたんだ。

障害物競走と二人三脚も得意! あいつら如き目じゃないぜ!


「健太郎、もう止まれ! 無茶をするな、君は怪我人なんだぞ!」

「平気だって、あいててッ」

「ほら見ろ! まったく!」


人目を避け、物陰で、ふらつく俺を理央が支えてくれる。

柔らかな感触、心地いい体温。

それと甘い匂い。

はあ、理央、やっぱり好きだ。

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