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紅薔薇と転校生 5

「今は留学中だけど、今日だけはこの学園の生徒として、皆と一緒に文化祭を盛り上げたいと思います!」


爆音で某アイドルの曲のイントロが流れ出す。

この展開―――まさか。

カラフルなライトが辺りを照らし始め、薫はマイク片手にリズムを取り始めているし、ちょっと待て、嘘だろおい!


「それじゃ、感謝のゲリラライブを始めるよ!」


い、今から俺が、紅薔薇王になった喜びのスピーチをする予定じゃ。


「皆も楽しんでいってね!」


どおっと上がる声援で建物ごと大気が震える!

荒ぶる薫コールと、何故か持っているサイリウムを振り回し熱狂する観客たち。

薫もノリノリで歌い始めて、全ての歓喜と熱狂が一点に集中していく。

その様子はさながら―――夜空を照らす一番星だ。


だが、俺は。

光を背に受けつつ、舞台を降りる。

もうスポットライトは俺を照らさないし、誰も俺に見向きもしない。

ぜーんぶ薫に持っていかれた。

―――いいんだ、別に。

拗ねてなんかないぞ、薫だからな、それに俺は紅薔薇王になったんだ、その事実は変わらない、だから繰り返すが拗ねてなんかいない、フン。


「健太郎」


傍に理央が来てくれる。

「大丈夫か?」と優しく背中をさすってくれて、ううっ。


「これくらい平気だ」

「よしよし、元気を出したまえ」

「だって俺はキングだし」

「そうだね、しかし―――藤峰君のカリスマは依然すさまじいな、一瞬でこの場の全員を取り込んでしまった」

「俺だってさっきまで凄かったぞ」

「悔しいのかい? 大丈夫だよ、僕はちゃんと見ていたから」


だったらいい。

それに薫は俺の自慢だから、こうなるのは当然だ。

あいつ、やっぱり凄いよな。


「では、我が王よ、本日は執事の役目を仰せつかっているこの僕が、貴方を保健室までお連れいたしましょう」

「え?」

「そろそろ少し休みたまえ、君は怪我人だ、今なら退出しても引き止められはしないだろう」


確かに。

―――いや?

もしかして薫のやつ、俺が退場しやすくするために、ゲリラライブなんて始めたんじゃ。

慌てて振り返ると、舞台の上で歌い踊っている薫と目が合う。

パチンとウィンクされて確信した。

そうだったのか、薫、お前。


「健太郎君、こっちだよ、早く」

「急げ」

「今の内だよ、さあ行って!」


特別審査員に選ばれた皆まで、講堂のドアをそっと開いて俺を手招きする。

途中でガウンと王冠も外された。

俺と理央がドアから講堂の外へ抜け出すと、閉じていく隙間の向こうで虹川が「後は任せて」とニッコリ笑う。

―――皆、有難う。


「行こう、健太郎」


理央に誘導されて歩き出す。

まず向かうのは、脱がされた服が置いてある運動部の部室だ。

メイドのままじゃ気が休まらないからな。

だけどついでに理央まで着替えてしまった。

そっちは少し惜しい。

個人的にまた着てもらえないかな、後で頼んでみるか。

もし叶えてくれるなら、俺も合わせてまたメイド服を着たっていい。


その後、保健室へ行くと、養護教諭は俺を見てすぐベッドで休むよう言う。

あちこち緩みかけていた包帯も巻き直してくれた。


「こんな怪我ではしゃいじゃダメよ、今は元気も控えめにね?」

「はい」


理央に介助されつつベッドに横になると、内線が入って養護教諭は救急箱片手に保健室を飛び出していった。

誰か、どこかで怪我でもしたか。

こんな日でも大変そうだな、むしろ来賓が多い分、普段より忙しいのかもしれない。


「健太郎、傷の具合はどうだ?」

「ん、地味にずっと痛い」

「だろうね」


簡易椅子をベッド脇に持ってきて腰掛けると、理央はクスクス笑う。

そっと伸びてきた手が俺の額に触れる。

指先がひんやりして気持ちいい。


「熱は出ていないようだ、本当に丈夫だね」

「大抵のことは気合いと根性でどうにかなるって、俺の親父も言ってる」

「なるわけないだろ、阿男も何かとベッドを抜け出そうとして看護師を困らせているそうだし、君達は本当に手に負えない」

「あいつと一緒にするな」

「君が骨を折ったんじゃないか」


まあ、そうだ。

でもあいつは曲刀を振り回していたから、悪いとは思っていない。

特に文化祭を楽しみにしていた様子もなかったし、大人しく寝ていればいいさ。

そのうち骨もくっつくだろ。


「ところで健太郎」


理央が話を切り出す。


「君、後夜祭に僕を誘うと言っていたが」


ギクリ。

な、何を訊くつもりだ?

今はまだ何も答えないぞ、俺はジンクスに賭けているからな、今はまだ早い。

事と次第によってはどうにか誤魔化さないと。


「予定では確か、夕方の六時からだったね?」

「お、おお、そうだよ、文化祭が五時までで、一時間のインターバルを置いて、六時から後夜祭だ」

「今の時刻は二時過ぎか、概ね四時間後だな」


まだ結構先だな。

それなら、今のうちに休んでおくか。

俺にとって本番はむしろ後夜祭、その時グロッキーになってちゃ目も当てられない。

告白を成功させるためにも、気力体力を充実させておく必要がある。


「なあ理央、このまま俺、少し眠るからさ、お前は文化祭を楽しんでこいよ」

「お構いなく」

「だけど暇だろ? 俺の寝顔なんか眺めたって楽しくないだろうし」

「楽しいさ」


微笑む理央に少しドキドキする。

まさかイタズラするつもりじゃ、でも理央なら許す。

油性マジックで顔に落書きなんて無茶は流石にしないだろうし、むしろ何をしてくれるか若干期待すら湧く。


「僕に構わず、ゆっくりお休み」


そう言って、上掛けの上から俺の体をポンポンと叩く。


「ん」


まあ理央がいいなら、いいか。

―――目を閉じる。

甘い花のような香りが漂ってきて、うっとりといい心地だ。

静かだな。

今、ここには俺と理央の二人きり。

外からかすかに聞こえてくる喧騒がまるで子守唄みたいだ。


薫はまだライブ中かな。

わざわざ俺のために帰国して駆けつけてくれて、本当に有難う。

会えて嬉しかった。

後で少し話せるといいな、お前と話したいことがたくさんあるんだ。


皆も有難う。

色々と気を遣ってくれて。

やっぱり俺は友人に恵まれている、本当に感謝だ。


ああ、理央。

後夜祭で、気持ち、ちゃんと伝えられるかな。

なんだか眠い―――自覚していた以上に疲れていた、みたい、だ。


髪を、手が撫でてくれる。

気持ちいい。

幸せだ。


理央、好きだよ。

理央―――

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