紅薔薇と転校生 3
「よし、そうと決まれば!」
委員長がパァンと景気よく手を打つ!
「本日、怪我のため戦力にならないだろう大磯君には、客寄せとしてクラスの売り上げに貢献してもらおうじゃないか!」
「―――へ?」
「おお、いいなそれ!」
ま、待て、なんだその流れは。
「あっ、天ヶ瀬君もすぐ執事の衣装に着替えてね? 大磯君と二人で客寄せ、じゃなかった、店内にいるだけでいいから」
「健太郎もメイド服着るくらいはできるだろ、立って歩けるんだし」
「そうだな」
「そのまま受賞もアリかもな、逆転メイド喫茶のいい宣伝になりそうだ」
「おっ、確かに! おい健太郎、俺達に心配かけたって反省しているなら、まさか嫌とは言わないよな?」
「目標額達成できたらぁ、担任ちゃんが焼き肉食べ放題に連れて行ってくれるんだって! だから協力よろしくぅ!」
「よーし、俺達のキングの力で、ガッツリ稼ぐぞ!」
おーッ! って全員揃ってマジか、ここは修羅のクラスだったのか。
うわっ、やめろ放せ! 屈強な男どもが寄ってたかって、俺をどこへ連れて行くつもりだ!
ああ、理央! 理央もクラスの女子たちにさらわれていく! 理央ッ、理央ーッ!
まだろくに傷の癒えていない、包帯まみれの俺を連れ去った男たちは、運動部の部室で無理やり着衣を剥ぎ取り、そして―――アッー!!
「大磯、やっぱり似合わねえな」
「包帯だらけだし、病みメイドってことで一定の需要が見込めるんじゃないか?」
「むしろ痛ましいな、俺、ちょっと弱い者いじめしている気分になってきた」
「俺も、多少の罪悪感を感じている」
ううっ、酷い、あんまりだ。
フリフリのメイド服を着せられ、床に座り込んだままクスンと鼻を啜る。
乱暴された、お嫁に行けない。
せめて褒めろよ、怪我人相手に無茶しやがって、この外道どもめ。
「ほら立て大磯、教室戻るぞ」
「いやっ! 触らないで鬼畜! 変態!」
「うるせえなあ、仕方ない、担いで運ぶぞ」
「大磯、怪我してるから一応丁重にな」
「アイアイサー!」
「やめてぇッ!」
男たちはまた俺をエッホ、エッホと教室まで運ぶ。
そして―――チェキ用に飾りつけられた椅子に座らせた。
ううっ! 周りからの色モノを見る視線がキツい!
虹川がそっと傍に寄ってきて「大丈夫?」と気遣ってくれる。
ああ、優しい、このクラスに残された最後の良心。
「アッハハ! 健太郎、マジでメイド服似合わないね! ちょっとは私を見習ったら?」
おのれ清野!
でも、泣き止んでくれてよかった。
やっぱり清野は笑顔がいい、たとえそれが俺を嘲る笑みであっても可愛いよ。
「怪我、痛そう」
愛原も心配してくれる、優しい。
虹川と二人で「無理しなくていいからね」とか「辛くなったら言ってね?」なんて労わってくれて、ううっ!
「男なんだから辛抱しろ、客寄せしっかり頑張れよ!」
清野めぇ、お前こそ虹川と愛原を見習え。
他の皆も女子は総じて俺に優しいが、野郎どもは軒並み笑ったりバカにしたりしてくれる。
やっぱり男はダメだな、どいつもクソだ。
全員まとめて地獄に堕ちろ。
「やあ」
不意に辺りがざわめき、俺も振り返って―――言葉を失う。
理央!
し、し、執事服ぅッ! なんて格好いいんだ、眩しいッ!
ぐうッ、心臓に悪いッ!
女の子のみならず野郎どもまで釘付けになって、うわあぁッ! マジでッ、マジで似合ってるぅッ!
「ハハッ、なんだい健太郎、その恰好」
きゃっ! そうだった、恥ずかしい!
「み、見ないでぇッ!」
「おや、随分と可愛らしいじゃないか、どれ―――その赤く染まった顔を僕に見せておくれ?」
「やめてッ、恥ずかしいッ」
「大丈夫だよ、今の君も、いつもの君と変わらず素敵さ」
傍に来た理央が、涙目でスカートの端を握り締めながら俯く俺の顎にそっと指を添える。
そのままくいっと上を向かされ、色素の薄い目と目が合った。
はわぁ、理央、今日も綺麗だ。
ドキドキする俺の周りでシャッターを切る音がいくつも鳴り響く。
「お客様ご来店でーす!」
「チェキは一枚五百円! お一人様五枚までとさせていただいております!」
「店内飲食必須です、まずはお席にご案内させていただきまーす!」
なんか急に教室内が賑やかになり始めたな。
理央はやけにノリノリで、周りの注文に応えて俺を弄り回す。
あっやめて! そんなことまで、らめぇッ!
俺にウサギやネコの耳をつけたり、可愛いポーズをとらせたり、指でハートを作らせたりさせないでくれぇ!
「ほら健太郎、笑って、もっと愛らしく」
「う、えへ♡」
「いい子だね、では次は首を傾げて、軽く肩を竦めてみようか」
「こ、こう?」
「お利口だ、とてもいいよ健太郎、君は本当に可愛い」
―――何をやらされているんだろう。
これは、どういう状況だ?
お触り禁止のはずなのに、俺にはいつのまにか子供たちが群がり、年配の方は頭を撫でてアメやまんじゅうをくれる。
理央の方は女性客が集まって、その向こうには男の客までッ、んぎぃッ! 散れッ! 散れッ! 男はチェキ一枚五百万円だ! 金だけ払ってサッサと失せろ!
大盛況の店内に、不意にアナウンスが響く。
今年の紅薔薇王が遂に決定したそうだ!
クラスの皆が待ってましたとばかりに俺の元へ集まってくる。
「ほらケン! 行ってこいよ、お前がキングだ!」
「おめでとう、大磯君!」
「大磯君、戴冠式が終わったらすぐ戻るように、まだまだ客寄せ頑張ってもらうよ!」
「箔がついて更に売り上げアップ間違いなしだな!」
「いってらっしゃい、健太郎君!」
虹川と清野、愛原の姿が見当たらない。
特別審査員として先に講堂へ行ったのか。
でも、本当に俺は―――選ばれたのか?
今度こそ本当に?
いざ足を運んでみたら、実は他の人でした、なんてことになったりしないか?
「健太郎」
不意に理央が俺の手を取り、椅子から立つよう促す。
「行こう」
「でも」
「大丈夫、僕も君の雄姿を見届けよう、さあ、今度こそ―――栄冠はその頭上に」
鼓動が高鳴る。
本当にこの俺が、今年の紅薔薇王なのか?
三度も殺され、足掻き続けたあの日々が報われる?
理央に手を引かれるまま教室を出ると、講堂を目指して歩く。
なんだか足元がフワフワして、こんな気分は初めてだ。




