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紅薔薇と転校生 2

「健太郎君!」


お、今度は霜月だ。

俺達の前まで駆けてくると、俺を見て、理央を見てから、胸の辺りで両手を重ねてキュッと握る。


「大変だったね、その、怪我は大丈夫?」

「おう!」

「私ね、こんなことを言うのは不謹慎かもしれないけれど、おかげで新作の構想が更に閃いたの、だからお礼が言いたくて」


うっ、それはもしや、俺や理央をモデルにしたあの若干微妙な内容の話か?

お耽美な雰囲気で、バラの花びらが舞い散っていそうな。


「担当さんも絶賛してくれて、だから書き上がって本になったら是非お二人に献本させてください、感謝を込めて」

「それは光栄だ、楽しみにしているよ」

「本当? 私も嬉しいです、有難う天ヶ瀬さん、そして健太郎君」

「お、おお」


霜月はお辞儀して「どうぞお大事に」と俺に告げると、俺達にどことなく意味深な視線を注いでから去っていった。

なんだか寒気がする。


「ところで健太郎、彼女の新作とは一体?」

「分からないであんなこと言ったのかよ」


当たり障りなく話を合わせたのか、流石は真正の王子属性。

はあ、俺はもう知らないぞ。


やっとクラスに辿り着いた。

中を覗き込もうとした直後、いきなり「健太郎君!」と誰かが背中に抱きつく!

おっ!? おお、虹川!

メイド服だ! やっぱり似合う、可愛い!


「怪我は? もう動いて平気なの?」

「ああ」

「よかった、本当によかった」


喋りながら涙をポロポロこぼす。

わ、わわっ! 泣くなよ、ごめん、心配かけて。

気が付くと傍に清野と愛原も集まっていて、どっちも顔をくしゃくしゃにしながら俺にしがみついてくる。

二人もメイド服だ。

うーん、心底申し訳ないがマジで可愛い、文化祭最高。


「アホぉッ! この健太郎! 包帯まみれじゃないか、何やってるんだ!」

「けんッ、健太郎君ッ」

「あんな真似しやがって! バカバカッ、心配掛けんな!」

「わ、わたっ、私ッ、ううッ、う~ッ」

「ごめん、怖い思いさせて悪かったよ、だから三人とも落ち着いてくれ、な?」


―――女の子を泣かせる男は如何なる理由があろうともクズ。

母さんの言葉が胸に蘇ってくる。

も、申し訳ない、理央からの冷ややかな視線も地味につらい、反省しているから許してくれぇ。


「おっ、命知らずが今度は女の子泣かせてやがる! おいケン! この大バカ野郎!」


教室から五月女が現れた。

お前もメイド服だな、だがまったく嬉しくない。


「大磯君! 大丈夫なのか、怪我の具合は?」


委員長まで出てくる。

こっちもメイド服だが五月女よりはマシだ、着こなしの差か?


「痛いけど平気、普通に立って歩けるよ」

「その包帯姿でか?」

「全然平気そうに見えねーんだけど」

「そうだよッ、いくら健太郎でも命知らずが過ぎる!」


いてっ、いててっ、叩くな清野、流石にそれは傷に響く!

虹川が「ダメッ!」と清野の腕を掴んで止めてくれた。


「リンやめて、健太郎君怪我しているんだよ!」

「あっごめん、でも」

「いいって、本当にゴメンな」


謝るたびに泣かせてしまうのはどうしたものか。

いつの間にか他のクラスメイト達まで集まってきて、口々に俺を叱ったり気遣ったり、騒ぎが大きくなってきた。


「でもさ、あの時のケン、格好良かったよな!」


不意に五月女が声を上げる。


「俺、心配したけど、でも見入っちまった、お前ってマジでつえーのな! あれはヤバかったよ!」

「確かに、俺も夢中で観戦しちまった」

「俺も! 大磯お前、ガチで強いのな!」

「お前に二度と喧嘩売るようなこと言わねえわ」

「マジで興奮した! あの迫力! しかも磐梯、なんか刃物持ってただろ?」

「それに勝っちまうのヤベーッて! ホント凄ぇよ!」

「大磯君、格好良かった!」

「うん! 怖かったけどドキドキしたよ!」


おお、今度は褒めまくりか。

俺も多少は男を上げたかな?

でもやっぱり暴力はよくない、虹川達を泣かせたし、今後は慎もう。

それに乱暴な奴だって思われるのは困る。

怪我だってしたくないし、この騒ぎが収まるまで、当分は大人しく過ごすよう心掛けるか。


「ところでさ、ケン」


不意に五月女がニヤリと笑う。


「紅薔薇王勝負の方はどうするんだ?」

「え?」

「聞いて驚け、なんと今年は、特別審査員枠が設けられているそうだ!」


それは知ってる。


「だがまあ、そんなのなくたって今年は誰が選ばれるか、みーんな知ってるけどな!」


そう言って五月女が、虹川が、清野が、愛原が。

委員長と他のクラスの皆も、騒ぎに集まってきた野次馬達まで、全員が何かを期待するように俺を見る。


「勝負あったな、ケン!」


五月女の言葉と同時にワッと歓声が上がった!


「今年の紅薔薇王はお前で決まりだ! 健太郎!」

「うんっ、文句なしの一番だよ、おめでとう!」

「今のうちに受賞のコメント考えておけよ?」

「お前が来なかったら、今年の戴冠式はナシになるところだったんだぜ!」

「よっ、キング!」

「よかったね、大磯君!」


お、落ち着けって、まだ誰が今年の紅薔薇王に選ばれたか発表されてないだろ。

それに勝負の目的はとっくに果たした。

確かに努力は認めて欲しいが、今更手放しで喜べるほど単純でもない。


「君しかいないよ、健太郎君」


虹川が指で涙を拭って微笑む。


「そうだよ! あれだけ派手に磐梯とやり合った健太郎以外に誰を選ぶっていうのさ!」


清野、お前まで。


「わ、私は、健太郎君しかいないと思う! だって、格好良かった、から!」


愛原、そこまで必死に訴えてくれるなんて。

―――皆、有難う。

でもキングなんて改めて照れ臭い、俺も遂に歴代の殿堂に名を残すことになるのか。

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