紅薔薇と転校生 1
LOOP:11
Round/Rose King
「おいっ、あれ見ろよ!」
「あの人って、もしかして一昨日の?」
学園まで送り届けてくれた車から降りて、理央に付き添われつつ飾りつけられた校門を潜り抜けると、あちこちからヒソヒソと噂する声が聞こえてくる。
「すっかり有名人だね」
「まあな」
包帯まみれな姿の俺だが、磐梯と違って骨は折れていないから、動くと傷が痛むだけで普通に立ったり歩いたりできる。
俺を診てくれた医者は回復が異様に早いと驚いていた。
これは親父譲りの体質だ。
親父も母さんにボコされても数日経てばピンピンしていたからな、風邪すら滅多にひかないし、丈夫に生んでもらって感謝だ。
校門から昇降口までの間にずらっと並んだ屋台はどれも美味そうで、ついフラフラと立ち寄ってしまいそうになる。
だけど、まずはクラスの奴らに無事を報告しよう。
この状態でメイド服は流石に勘弁して欲しいが、顔を見せるついでに、多少は何か手伝えるかもしれない。
裏方で調理担当くらいならどうにか。
ずっと一緒に準備してきたし、俺も少しは出店側として文化祭を楽しみたい。
「あっケン!」
「オウ、健太郎!」
昇降口に入ると、思いがけず朝稲と杉本に出くわした。
二人は自分のクラスのビラを一緒に配っていたらしい。
「ちょっと! そんな状態で歩き回って平気なの?」
「痛々しいわ、でも、あのデュエルは素晴らしかった! 私も観戦していたわよ!」
「杉本、アンタねぇ」
「トモコだって興奮していたじゃない、オーラヴァーシュ! って」
「言ってないし、てかでも、あの時のケン、マジでヤバかったって言うか、その、格好良かった」
「オーララ! ええ、ええ、素晴らしかった! 怪我を負ってしまったのは痛ましいけれど、でも貴方のクラージュな姿はこの胸にしっかり焼き付けたわ」
「でも! だからって二度とあんな真似したらダメだかんね? マジで! いい?」
二人に分かったと頷く。
心配をかけたが、褒められて嬉しい。
そうか、俺、格好良かったのか。
理央もそう言ってくれたし、ちょっと誇らしいよな、へへッ!
朝稲と杉本と別れて間もなく、今度は突然! 左右からむくつけき野郎どもに挟まれ肩に腕を回されてがっちりホールドされる!
おい! 理央が驚いてちょっと離れたじゃないか!
「ケ~ンッ!」
「見てたぞお前、やるじゃねえか!」
常盤兄弟か、ッチ!
やけに嬉しそうだな。
「すっげぇね、ケン! 拳ひとつで刃物持った奴とやり合って勝っちまうなんて、流石!」
「けどアレ、銃刀法違反だろ、あの野郎、今どうしてるんだ?」
「入院してる、打撲及び骨折で全治一か月」
「すげえ!」
「お前、マジでやる奴だったんだな」
「俺らともまた喧嘩しようぜ? 今度はお試しで、ちょっと洒落になんないヤツ♡」
「ああ、一度マジのお前とやり合ってみたくなった、そのうち相手しろよ、な?」
嫌だ、暴力は嫌いだ。
第一むさくるしい野郎の相手なんかしていられるか。
ひとしきり絡んで満足したらしい兄弟は、特に俺の反応を待たず肩をバシバシ叩いて去っていった。
くっそ痛ぇ、こちとら怪我人だぞオイ。
「君達は血気盛んだね、大丈夫かい?」
「痛かった」
「可哀想に、それで、彼らの挑戦を受けて立つのか?」
「やるわけないだろ、痛いのはもうこりごりだ」
「そうだね」
理央がクスッと笑う。
可愛い。
「健太郎さん」
ん? おっ、星野!
うわぁ着物だ! どうしたんだ?
「やあ」
「理央さんもごきげんよう」
「ああ、よく似合っているよ、光」
「恐れ入ります」
「それで、茶道部は盛況かい?」
「お陰様で、よろしければお二人も、後ほどお立ち寄りください」
茶道部?
訊くと、星野は茶道部に講師として招かれ、出し物の茶道教室を手伝っているらしい。
それで着物か、まさに大和撫子、絵になるなあ。
「健太郎さん」
星野は改まって俺を真っ直ぐ見上げる。
「この度は大変なご苦労を、理央さんの友人として感謝申し上げます」
「そんなのいいって」
「私のお願いを、聞き入れてくださいましたね」
微笑む星野を見て、理央は俺に「お願い?」と首を傾げる。
星野はクスクス笑う。
「ええ、理央さんのこと、よろしくお頼み申し上げました」
「ああ」
「あら、ご存じでしたか、では何も言うことはありませんね、うふふ」
星野は体の前で両手を重ね合わせると、ゆっくり頭を下げる。
「健太郎さん、理央さん、どうぞ末永くお幸せに」
「えっ」
「それでは、私はこれで、失礼いたします」
「あ、ああ」
しずしずと去っていく星野を、理央も何か言いたげな様子で見送っている。
今の『お幸せに』ってどういう意味だ?
やっぱり俺が理央を好きだって周りにバレているのか?
どことなく理央も顔が赤いような―――
「健太郎」
「えっ」
「行こう」
まあ、いいか。
それにしても星野の着物姿は綺麗だったな、あとで茶道教室に行かないと。
きっと美味い抹茶と茶菓子も味わえるぞ。
「健太郎!」
向こうから通行人を避けつつ走ってきた男が俺の腕を掴む。
緒方だ。
そのまま理央に「悪い、少し借りる」と告げると、俺を近くの比較的人気のない場所へ引っ張っていく。
「お前、このッ、バカ!」
「な、何だよ」
「俺はな、あの日、お前の教室にわざわざ豆を届けてやったんだ!」
あ、そうだ。
磐梯と決闘したあの日、緒方の店でクラスの喫茶店で使う豆を購入しがてら、コーヒーの淹れ方や接客を教わる約束をしていたんだ。
すっかり忘れていた、悪い、緒方。
「ついでにコーヒーの淹れ方と、接客も軽くレクチャーしておいてやった、全部お前の尻拭いだ、あんな無茶しやがって!」
「ごめん」
「ったく、それで怪我は大丈夫なのかよ、てかよく生きてたな?」
「頑張ったから」
「アホか、努力でどうにかなる状況じゃなかっただろ」
あうッ、怪我人にチョップをするなよ。
「まあでも、元気そうで安心した」
不意に緒方は優しく笑う。
俺の肩を軽く叩いて、今度はニッと歯を見せながら「格好良かったぜ」となんて言うと、スタスタと去っていった。
あいつ、いい奴だな。
理央が隣に来て「大丈夫かい?」と気遣ってくれる。
「何か揉めていたようだが、先ほど叩かれてもいたし」
「無茶するなって叱られただけだよ、あと約束破ったから、それは普通に怒られた」
「なるほど、正当な怒りだな、君も真摯に受け止めたまえ」
「はい、そうします」
まったく、とぼやく理央と歩き出す。
俺は友人に恵まれている。
さっきから色々な奴が俺を心配したり、褒めたりしてくれる。




