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覚悟と転校生 2

「なあ、星野さん」

「なんでしょう?」

「その、気が向いたらでいいから、昔の理央の話とか聞かせてもらえないかな」

「あらあら、まあまあ」


星野は口元に手をあててクスクス笑う。


「構いませんよ」

「有難う!」

「ですが、まずはその許可を理央さんに伺いませんと」

「えっ、許可、は、ナシでさ? あ! 恥ずかしいだろう話とかはいいから、星野さんだけが知っているエピソードをこっそり教えて欲しいんだ」

「まあ健太郎さんったら、いけないお方」


幼馴染から見た理央がどんな子供だったか知りたい。

俺達は今もまだ子供だけど、もっと昔の、もっと小さかった頃の、俺と出会う前の理央の話を聞かせて欲しい。


「分かりました、では、その件に関しては善処しておきましょう」


微笑む星野に改めて「よろしく」と伝えてから、俺は自分が着けているエプロンを外して星野に渡す。


「あら、これは?」

「星野さんのエプロン、粉まみれで使い物にならないだろ」

「ですが、健太郎さんは」

「こんなこともあろうかと予備を持ってきているから、心配いらないよ」

「準備がよろしいのですね、お気遣い感謝いたします」


星野にエプロンを着せてやるが、俺が着けていたヤツだからブカブカだ。

紐の長さを調節してどうにか格好を整える。

さて、お互い戻って作業を手伝わないとな、すっかり時間を食っちまった。


調理室へ行って、星野を自クラスのところへ帰してから、俺も作業中の皆に加わる。

おっとそうだエプロン。

買い物に持っていったサブバッグの中から取り出して着けると、周りの奴らは笑ったり呆れたり、なんだよ、このエプロンも似合うだろうが。


「け、ケン! お前、そのフリフリのエプロンッ! ヒーッヒッヒッ!」

「どうしたんだよ、ママのエプロンか?」

「と言うかさっきまで着けてたのはどうした」

「さっきのは星野さんに貸したんだよ、そしてこのエプロンは―――薫のだ」


言うと同時に周りがどよめく。


「ふ、藤峰の!?」

「バカそれを早く言え、ああ、藤峰ッ、俺達の永遠のアイドル!」

「そのエプロンを着けて料理とかお菓子を作っていたのか、イイ、凄くイイッ」

「このアホ健太郎! そんな尊いエプロンをお前如きが使って許されると思ってるのか、今すぐ外せ!」

「幼馴染だからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」


何故責められる?

このエプロンを着けた俺に、薫は『ケンちゃんにも似合うね』って言ってくれたんだぞ。

大体これは薫のエプロンだが、うちに置いてあるエプロンで、つまり俺の物でもある。四の五の文句をつけられる謂れはない。


その後もチクチクと嫌味を言われたり、僻んで絡まれたりしつつ、どうにか今日の分の作業を終了させた。

明日は愛原や虹川を筆頭に料理上手な女の子たちが仕込みの仕上げをしてくれる。

俺は任せて、緒方の店へ行き豆を仕入れつつ、美味いコーヒーの淹れ方と、あとは喫茶店の極意なんかも教わってこよう。

これでカフェのメニューに関しては問題なく提供できそうだ。


「お疲れ~」

「おーい女子、作業代わるぜ、お前らは帰れ」

「はーい!」


皆とクラスへ戻り、作業中の女の子たちに声を掛けて回る。

もうすぐ陽が暮れるからな、夜道は危ない。

理央は―――いないか。

今日も早々に家の人が迎えに来て帰ったようだ。

まあ、理央の分の作業は俺がやると皆に言ってあるから、そこは問題ない。

あいつも立場的に色々と忙しいだろう、磐梯の妨害工策の阻止を手伝ってくれてもいるし、これくらいは引き受けてやるさ。


「しっかし、天ヶ瀬に関しては大磯がフォローしているからいいとして、問題は磐梯だよ、あの野郎!」


女子があらかた帰った辺りで、作業中のクラスの野郎が文句を唱える。


「アイツ、ろくに手伝わないどころか、いつも昼飯前に帰っちまうだろ?」

「そうそう、話しかけてもシカトするしさ」

「デカくて雰囲気あるからって調子に乗ってんじゃねえの? ムカつく」

「大磯も大変だよな、あんな野郎とケンカする羽目になって」

「そこは天ヶ瀬が一枚噛んでるんだろ? 大体お前、何でそんな天ヶ瀬に親身になってるわけ?」


それはまあ、惚れた弱みというか、好きだからなんだが。

流石に言えない。


「弱みでも握られてるんだろ?」


おっ五月女、ナイスアシスト、それだ!


「そう、実は俺は天ヶ瀬に弱みを握られている」

「えッ! マジ?」

「何だよそれ」

「言えるわけないだろ、でも別に脅されてるわけじゃないし、まあ、あいつには恩もあってさ」

「それって何?」

「だから言えないっての!」


ったく、この野次馬どもめ。


「しかし天ヶ瀬ってイケメンっつうか、美形だからさ、まあお前が好きになるのも分かるよ」


うぐッ!? な、何だ五月女、まさか俺の恋心まで見抜いたのか?

五月女の分際で、生まれてこのかた彼女ナシのくせに。


「おいケン、今お前すげぇ失礼なこと考えただろ?」

「五月女はエスパーだったのか」

「やっぱり考えたんだな? てめえ、ちょっと虹川さんや清野さん、愛原さんと仲がいいからって、調子に乗るんじゃねえぞ!」

「おっ、そーだそーだ! 俺達とも仲を取り持て!」


急にクラスの奴らまでやいのやいのと言い始める。


「じゃ、じゃあ俺ッ、朝稲さんと話す切っ掛けが欲しい!」

「俺は、実は霜月さんが気になってるんだッ」

「杉本! なあ頼むよ大磯ぉ、どうやっても彼女と話すタイミングが掴めねーんだ、この通りッ!」

「と言うか、いい加減藤峰のアドレス教えろよ、お前ばっかりズルいぞ!」

「さっきも星野さんといい雰囲気になりやがって、このタラシ野郎め!」


フッ、女の子に飢えた哀れな野郎どもめ。

まあ紹介くらいはしてやってもいいが、自分から声も掛けられないような奴にその後の進展なんて望むべくもない。

そう考えると、こいつらを相手しなくちゃならない皆の負担の方が大きそうだ。


「文化祭で、店に遊びに来てくれとは言ってあるよ、その時にでも話しかけたらいいだろ」

「えっ、でも」

「虹川さんや愛原さん、清野とだって当日一緒に店をやるんだ、何かしら話す切っ掛けを作れよ、率先して手伝うとか、重いものは持ってやるとかさ」

「う、ううっ!」

「俺も多少のフォローはしてやる、でも結局のところお前らが自分で自分を売り込まないと意味ないと思うぜ?」

「この野郎!」

「そんなの分かってるんだよ、正論ぶつけてきやがって!」

「モテるからって余裕か? ちくしょうめ!」


うわっ、やめろ! 蹴るな殴るな、暴力反対!

荒ぶる皆を「君達作業は! 静粛に!」と割って入って止めようとする委員長の手から印刷物の原本をサッと奪い「俺、ビラ刷ってきまーす!」と言って教室から飛び出した!

「卑怯者!」「逃げるな!」なんてヤジが聞こえてくるが、無視だ、無視。

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