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覚悟と転校生 1

LOOP:8

Round/I Wish



買い出しのリストをチェックして、と、よし。

漏れはなさそうだ、しかしかなりの量だな、これは持ち帰りが大変だぞ。


「ぐええ、砂糖が重いンゴ~ッ」

「なんだそれ、ハハハッ」


本日、俺達買い出し部隊は学園からそれなりに近い業務用スーパーにて、文化祭で提供する料理等に使う食材諸々を買いに来ている。

確実に荷物は多いし重くなるから男だけで五人、それも体格のいい奴らばかりを選んで集めた精鋭部隊だ。

俺は委員長から直々に総監督を賜り、リストと金を預けられ、こいつらを率いて目下任務の真っ最中、まあ明後日にはキングを名乗る男だからな。

これくらい朝飯前で軽くこなせなくては、家でも自炊しているから慣れているって理由もある。


「大磯、コーヒーもここで買わなくていいのか?」

「そっちはアテがある、今日のところは大丈夫だ」

「そうか」


実は、昨日緒方に声を掛けて、あいつがブレンドした豆を購入するついでに、コーヒーの淹れ方をレクチャーしてもらえることになっている。

緒方の家は曾祖父の代から続く純喫茶を経営していて、テレビや雑誌の取材は一切断っているんだが、それでも遠方から車に乗って来る客もいるほどの人気店だ。

四代目の緒方は、家業を継ぐためにバリスタを目指している。

その協力をするって条件で、あいつにも力を貸してもらえることになった。

文化祭で本格的なコーヒーが飲める喫茶店なんて話題になりそうじゃないか。

これで売り上げアップは間違いなし、打ち上げも派手に楽しめるぞ。


まあ、本音は理央に美味いコーヒーを淹れてやりたいって下心もあるんだが。


業務用の小麦粉やらバターやら、何もかもがとにかく重い。

分担して学校まで運んだら、次は仕分けと下拵えだ。

調理室では俺達のクラス以外にも食べ物を出す店を予定している奴らがああでもない、こうでもないと言いながら準備にいそしんでいる。


「あら、まあ」


のんびりした声が聞こえて振り返ると、粉まみれになった星野がポカンと立ち尽くしていた。

えっ、な、何があった?


「星野さん?」

「あら、健太郎さん」


ニコリと微笑み返してくるその顔も粉まみれだ。

手元には大きなボウルと小麦粉の袋。


「どうした、その、大丈夫ではないな?」

「思いがけず粉が飛び散りまして」

「何をどうやったらここまで粉まみれになるんだよ、ああ、もう」


取り敢えずここで叩き落とすわけにはいかない、クラスの奴らに一声かけて、星野と一緒にいた奴らにも声を掛け、星野を調理室の外へ連れ出す。

当の星野は「あらあら、まあまあ」なんてまるで意に介さない様子だ。

大物だな、慌ても動じもしない、流石理央の幼馴染なだけのことはある。


「ごめんなさいね、健太郎さん」

「いや、いいけどさ」


しかし見事に粉まみれだ、エプロンやら制服やら、髪にまで粉が、ふふッ、ちょっと笑える。


「顔はトイレで洗ってこいよ、拭くもの持ってるか?」

「ハンカチがあります」

「うーん、取り敢えずそこのトイレで顔を洗っておいで、俺、使ってないタオルがあるから、持ってくる」


星野を促して、ダッシュで教室へ戻る。

今日は体育の授業があるから使うかと思って持ってきたスポーツタオル、結局使わなかったが、こんな形で役に立つとは。

急いで戻ると丁度星野がハンカチで顔を拭きつつトイレから出てきたところだった。


「ほら、こっち使えよ、それじゃ拭ききれないだろ」

「まあ、お気遣い感謝いたします」


俺から受け取ったタオルに顔をモフッと押し付け、モフモフと水気を拭い「有難うございます」と返してくる。

多少はマシになったようだな。


「星野さん、襟の辺りが濡れてる、ちょっと染みになりそうだな」

「まあ」

「制服の替えがあるならクリーニングに出すといい、無いなら、ええと、粉物の汚れは」


星野の首回りと襟の辺りをタオルで拭いたり払ったりして、ポケットから携帯端末を取り出そうとしていると不意に「健太郎さん」と呼ばれた。


「改めて、お礼を申し上げます」

「いいって、しかしここまで粉まみれになるとは、さっきは驚い」

「いえ、そうではなく、理央さんのことです」


え?

思いがけず星野を見つめ返す。

星野はニコリと微笑んだ。


「最近の理央さんは、とても雰囲気が柔らかくなって、以前より穏やかに過ごせているようですし、感謝いたします」

「穏やか、って」

「理央さんはいずれ天ヶ瀬を継がれるお立場、幼少のみぎりより存じておりますが、その重圧は如何ばかりかと、常々お心の安らかならざるご様子を案じておりました」


そうか、そうだったな。

理央は御曹司、いずれ天ヶ瀬財閥を継ぐ立場だ。

俺とだって薫やループの事がなければ、今みたいな関係にはならなかっただろう。


「無理をしてでも笑顔を作っておられた理央さんが、今は時折本当に楽しそうに笑っておられます」

「それって」

「貴方とご一緒されている時ですよ、健太郎さん」


俺と?

理央は俺と一緒の時、周りからそんな風に見えているのか。


「理央さんは変わりました、とてもよい形で、それは貴方のおかげだと、先日確信いたしました」

「えっ」

「理央さんが、どなたかのために私にお願いをされるなど、貴方が初めてなのですよ、健太郎さん」


それは、磐梯の件に関して、だろうか。

もしかして俺への投票も頼んでくれたとか。

―――理央。


「健太郎さん」


星野は俺をまっすぐ見上げる。


「どうぞ、理央さんをよろしくお願い致します」

「あ、ああ」

「支えになって差し上げてください、あの方の古き友として切にお頼み申し上げます」

「分かった」

「ですが」


不意に口元に手をやり、星野は少しだけ俺から視線を逸らす。


「少々、羨ましくも存じます」

「え?」

「いいえ、今の言葉はただの戯れ、どうぞお気になさらず」


星野。

でも、言わないことを聞き出そうとするのはよくない、失礼な行為だ。

気にするなと言うならそうしよう。

―――もしかすると星野も、理央に特別な何かを抱いていたのかもしれない。


「そうか」


有難う、星野。


「俺もさ、理央と一緒だと本当に凄く楽しいんだ!」

「はい」

「あいつのためなら何だってしてやりたい、いや、何でも出来る! それで理央が喜んでくれたら最高だ」

「ふふ、今のお言葉を理央さんがお耳に入れたら、きっとお顔を真っ赤にされることでしょう」

「え、どうしてだ?」

「何故でしょうね、ウフフ」


理央も嬉しく思ってくれるってことか?

だったらいいな、多少は期待してもいいんだろうか。

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