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野道と転校生 6/後

「あの、ね」


不意に霜月の頬がホワッとうっすら赤く染まる。

可愛い。

可愛いん、だが?


「その、最近ずっと気になっていたんだけれど」

「お、おう」

「健太郎君、この頃、天ヶ瀬君ともすごく仲良くしているよね?」

「ああ、まあ」

「二人とも背が高くて格好いいから、並ぶと絵になるなってこっそり思っていたんだ」


マジか。

それは、めちゃくちゃ嬉しいぞ!!

えっ他にもそう思ってくれている子とかいるんだろうか!?

俺達がお似合いだって、そう思ってくれている子が! 霜月以外にもいるとしたら俺はッ!


「だから私、つい考えてしまって」


ん? 何を?

霜月は一呼吸置き、ゆっくりと語り始める。


「主人公は、名家の子息同士の争いに巻き込まれた、凛々しくもどこか愛嬌のある、従順な従者」


それは、もしや次の作品のアイディアか?

俺のおかげでスランプから抜け出せそうってそういう―――


「彼が仕える麗しき公爵令息に、以前より確執のある猛々しい侯爵令息が、互いの名誉を賭けて勝負を挑む、けれど従者は大切な主に万が一のことがあってはと、非礼を承知で代理人に名乗りを上げ、公爵令息はそれを止めようとするのだけれど、侯爵令息に受け入れられてしまい、勝負の幕が切って落とされる」


ん?


「一介の従者対侯爵令息、勝負の結末は火を見るより明らか、けれど従者に主従を越えた想いを抱く公爵令息が、そして」


んん?


「健気な従者を影日向に想い支える親友の宮廷楽師が、そして、彼を盟友と認める王家近衛騎士団の団長と副団長が、それぞれ従者に力を貸して」


んんんんんーっ!?


「共に侯爵令息と対決するの! けれど侯爵令息も実は従者に秘めたる想いを抱いていて」


陶酔状態で語っていた霜月は、不意に両手で頬を押さえながら「ヤダ、恥ずかしい」なんて言って目を伏せる。

待て。

待ってくれ。

なんとなく既視感しか感じないその話のモデルは、そしてそいつらの関係性って、まさか。


「あの、健太郎君」


そのまま上目遣いで見つめてくる霜月に、ゾクリと謎の寒気を覚える。


「な、なにかな?」

「頑張ってね」

「うん」

「ところで健太郎君は、今の話、従者は一体誰を選ぶと思う?」

「へ?」

「親友の宮廷楽師、騎士団長と副長、それとも敵対する侯爵令息? それとも」


ぜ、全員男なんだろ?

違うのかな、女の子だったりするのかな。

俺なら、そうだな。


「しゅ、主人の、公爵令息、かな」


途端に霜月は目を輝かせながら両手をパチンと合わせ鳴らして「やっぱり!」と声を弾ませる。

そのまま飛び跳ねそうな勢いだ。

お、俺の回答がお気に召したようで、うん、何より。


「有難う、おかげで素敵な話になりそう」

「そ、そう」

「出版されたら真っ先に貴方に献本するわ、でも、このことは私達だけの秘密、ね?」

「はぁ」

「じゃあ、私、片付けなくちゃならない作業があるから」


ニコッと微笑んだ霜月は、満足顔で隣をすり抜け図書室へ入っていく。

背後でパタンとドアの閉まる音が聞こえて、それでも暫く呆然としたまま動けなかった。


なにか悪い夢を見てしまった気がする。

霜月の中で今の俺はどういう風に捉えられているんだろう。


うおお、か、考えたくない!

知らない間に好感度も増していたみたいだが、ちょっと、いやかなり不本意だ。

俺が好きなのは理央だけッ、理央だけだからな!

と言うかどうしてあんな風に見られるんだ、心外だ! 風評被害だ! 濡れ衣だ!

繰り返すが俺はッ! 女の子が! 好きッ! なんッ! だッ!


はあ、だが最早今更、そのうえ、こんな場所で一人憤慨してもむなしい。

願わくばどうか、霜月の新作の内容がアレだったとして、どうか主人公のモデルが俺だと知られませんように。

理央になんて伝えよう、うう。

内緒とは言われたが、報告したら確実にバレるよな、俺、理央に嘘吐くの苦手だし。


まあ、これで霜月も磐梯の術に掛からなくなったことだろうし、そこだけが唯一の救いだ。

引き換えに俺は大切な何かを失ったような気がするが、敢えて涙を呑んで堪えるとしよう。

理央が好きなことだけは事実だしな!

霜月はきっと今回も涙を誘う感動巨編を書き上げてくれるに違いない。

そう、信じて!


―――うう、だとしても読むのが怖い。

本当にどうしてこうなった? 勘弁してくれぇ。

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