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野道と転校生 6/前

「どうした、健太郎」


尋ねる虎太郎に「いいや」と返す。


「さっさと行こうぜ」

「だな」

「やれやれ、コタとケンにボコられて、今日は最悪な日だ」

「お前だって遠慮なく殴ってきやがっただろうが」

「そうだな、暴力反対」

「あっ、なんだよケン、お前さっき俺とコタに(友達だーッ)って言っただろ」

「それとこれとは関係ない、俺は喧嘩が嫌いだ」

「よく言うぜ、最初に殴ってきやがったくせして」

「そうだそうだ、ケンは命知らずな野郎だ」

「お褒め頂き恐悦至極」


くだらないことを言い合いながら、ダラダラ歩いて保健室へ向かう。

動くとあちこち痛むし、仕方がない。

それにしても、兄弟揃って厄介な野郎どもから想いを寄せられるなんて、誰か知らないが大変だな。

むしろ二人を受け止められるくらい、器の大きな子なのかもしれない。

―――そのうち相手を聞き出そうか。


幸いにもあまり人目に付かず保健室へ辿り着けた俺達は、今回も理解のある養護教諭から手厚い看護を受けた。

その後、保健室の裁縫箱を借りて常盤兄弟の破れた制服を繕い、ついでに自分の制服も繕ってから、二人と別れて教室へ戻る。


陽が暮れ始めているから残っているのは男ばかりだ。

女の子は暗くなる前に帰ってもらっている、危ないからな、ちなみにそうするよう皆に進言したのはこの俺だ。

でも俺も、悪いが今日は帰ると告げると、皆は(まあ、しょうがない)みたいな雰囲気で承諾してくれた。

多分、教室を出ていく前と、今と、俺が常盤兄弟を追っていったことや、怪我だらけなこの姿を見て色々察してくれたんだろう。


これで思いがけず常盤兄弟に関してもフォローできたと思う。

昨日に引き続き手際よく運んでラッキーだったな。

まあ、今回に関してはそれなりに代償を支払う羽目にもなったが。


さて、残るは緒方と飛鳥。

緒方の方にはちょっとしたアテがある、こっちは何とかなるだろう。

だが飛鳥は、あいつはまあ、うん。

やむを得ないか。


そんなことより霜月だ。

昨日、今日と、なんだか妙な誤解を生んでいる気がしてならない。

うーん。

やっぱり話しておくべきだよな。

俺への心証がプラスどころかマイナスに傾いたら、磐梯の魅了の術に確実にやられてしまう。

それだけは防がないと。

何か手を打たなければ、ああ、今回は後手後手だな。


そして―――翌日。


「霜月さん!」


普段より早く登校して、図書室前で待ち伏せして正解だった。

現れた霜月に声を掛ける。


「えっ、健太郎君、どうしたの?」

「いやあ、ははッ」


驚かせたか。

放課後は文化祭の準備で忙しいから、図書委員の仕事を朝片付けに来るんじゃないかと思ったんだよな。

さて、あまり時間はないぞ、どう切り出そう。


「その」


まずは昨日の喧嘩について釈明するべきだよな、うん。

こっちの様子を窺っている霜月に改めて話しかける。


「昨日の事なんだけどさ」


途端に霜月はハッと身構えた。

えっ、ヤバいか?

既によくない誤解を受けているかもしれない、待ち伏せはむしろ悪手だったか!?


「あっ、いやその」


咄嗟のことで頭の中が真っ白だ。

ええッと、ど、どう取り繕えばいい? 理央に相談しておくべきだったか?


「あれは喧嘩とかじゃないんだ、コミュニケーションって言うか、あーその、ほら! 小説なんかでもさ、殴り合ってお互いの理解を深めたりする描写ってあるだろ?」


そういう話を霜月はあまり読まないけどな!

どう説明したところで暴力に変わりないし、それをコミュニケーションなんて言う俺はむしろヤバい奴になっている気がする!

これは、話すほどドツボに嵌るヤツでは?

霜月も何となく怪訝そうだ。

まずい、どうすればいい? 助けてくれ誰かッ、理央ーッ!


「だッ、だからそのッ」

「いえ、あの」


不意に霜月がおずおずと口を開く。


「心配しないで、私、先生に言ったりしないから」

「え?」

「昨日の事は、健太郎君が言うとおり、喧嘩じゃないんでしょう?」


確認する霜月に大きく頷き返す!

なんっっって理解があるんだ! その通りだよ、有難う!


「それから、一昨日の図書室でのことも、誰にも話したりしないから」


ん?

一昨日は、睦月と話していただけだったはず。

図書室の私語禁止を破ったことか?

確かに霜月は図書委員だし、本来であれば叱られていたよな、ふむ。


「あの、私、貴方のおかげでやっとスランプから抜け出せそうなの」

「へ?」


霜月は多少恥ずかし気に次作の案が浮かばず困っていたことを俺に明かす。

まあ知っているんだが。

しかし、俺のおかげっていうのは一体どういう意味だ?


「健太郎君って、男の子とも仲がいいのね」

「うん、まあ」

「知らなかった、私、てっきり」


てっきり?

―――その後が続かない。

霜月は何となく意味深な眼差しをこっちへチラチラと向けてくる。

少し背筋が寒いんだが。


「ううん、大丈夫、ちゃんと秘密にするから」

「えーっと?」

「あ、でもモデルにだけはさせて、貴方達のことだって分からないように書くから」

「霜月さん?」

「新しい境地が見えた気がするの、こんなの初めて」

「あの」

「愛って、色々な形が存在するのね」


なんだろう。

何か、とてもよくない予感がしている。

俺自身に何かあるわけじゃないが、生理的に受け入れ難い怖気と言うか悪寒が、こう。

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