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野道と転校生 1

LOOP:7

Round/Boy friends?



授業と授業の間の休み時間中、ふと見るとクラス委員長が磐梯に何か話しかけている。

切れ切れに聞こえてくる内容から察するに、奴が文化祭の準備をなにも手伝わないことに関して苦言を呈しているようだ。

磐梯の野郎は―――無反応だな、ふてぶてしいヤツめ。


急に磐梯が椅子から立ち上がり、クラス委員長は「ひッ」と引きつった声を上げながら僅かに後退りする。


磐梯はクラス委員長を見下ろして、不意にこっちを振り返ると俺にギロッと睨みを利かせた。

そして体の向きを変え、教室から出ていく。

何なんだあいつ。

唖然と姿を見送っていた委員長も憤慨した様子で文句を口にしている。

ったく、あれで紅薔薇王(クリムゾン・キング)になれる気でいるとか、マジで腹立つ。

今回もまた魔術なんていうチートで皆の心を操って、俺を出し抜き勝つ気でいるんだろう。

だがそうは行くか。

お前は覚えていないだろうが、同じ手は二度通用しない。

今度は俺が身の程ってヤツを思い知らせてやるから覚悟しておけ。


「―――と、言うわけで、今回も首尾は上々、二人も楽しんでくれたと思う」

「それは何より」


昼になり、いつものように屋上へ理央を連れ出して、昨日通話で伝えきれなかった話をした。

今日は週末明けの月曜、朝稲と杉本とデートしたのは昨日の話だ。


遅刻とナンパの件に関してはたった今、ようやく腹を括って話せた。

案の定呆れられたし、俺も反省している。

けどカラオケ屋の一件に関しては理央まで「僕が連絡したから」なんて落ち込むから、それは違うとはっきり言っておいた。

だってそうだろう。

トイレの後で一階に降りて理央と話していた俺だって悪くない。

悪いのはあの非常識な馬鹿どもだ、また会ったら今度は蹴りを入れてやる。

よくも朝稲と杉本を怖がらせやがって。

女の子っていうのは男以上にパーソナルスペースに入られることに敏感なんだ、それを無神経に踏み込むなんて恥を知れ。


―――ちなみに、あの後で帰りに奢らせられたシレーナのフラチーノ。

シレーナっていうのは『シレーナコーヒー』の略称だ。

エスプレッソ系のコーヒーが売りのフランチャイズ店で、毎月出る新作のフラッペ風カプチーノが常に話題を呼ぶ。

略してフラチーノ、美味いしSNS映えするってフラシンのパンケーキ同様に女の子から人気なんだよな。


「それにしても、君達が赴いた展示会だが、件のアーティストが出展していたなら僕も足を運べばよかった」

「理央も知ってるのか?」

「勿論、今、最も注目されている新進気鋭の作家の一人だよ、家にも幾つか作品を飾っている」

「おお」

「興味があるなら、今度見に来るといい」

「え、マジ?」


天ヶ瀬邸にお邪魔させてもらえる?

とはいえ、理央の親父さんが理事長をやっている絡みで、毎年のクリスマスには邸内の広間で学園生全員を招いてパーティーが開かれるんだよな。

去年はそれで、一応天ヶ瀬邸に行ったことはある。

高級ホテルかって思うくらいの広々としたロビーから、四方をガラス製の壁に囲まれた中庭を経て、奥の広間はまたとんでもない広さで、天井にはシャンデリアまで吊るされていた。

理央はあの豪邸で暮らしているんだよな。

今回はパーティーのゲストとしてではなく、その理央のお招きで行くことになるから、広間以外の場所も見られるかもしれない。

例えば理央の自室、とか。


理央の自室かぁ。


どんな部屋だろう。

そこで理央は普段どんな風に過ごしているんだろう。

どんな場所で眠って、寝る時の格好は? 寝相は?

寝起きの理央って可愛いだろうな、ぼんやりとけだるげで、髪なんかもこう、クシャクシャして。

それともパチッと目覚めがいいタイプだろうか、それも可愛いな、朝からご機嫌な理央、最高だ。

ああ、堪らない、気になる。

いつか理央の隣で目を覚ましてみたい。


「健太郎」


不意に頬をムニッと摘ままれた。


「ひゃい?」

「ぼんやりしているね、今何を考えていた?」

「へっ? ええと」


視線を逸らしつつ「何も」と返す。

え、エッチな妄想はまだしてなかったからセーフ。

寝起きからの着替えだとか、半裸の理央だとか、まさかそんな、ハハ。


「まったく」


うぐ、呆れられた。

しょうがないだろ好きなんだから、俺は健全な男子高校生だ。

相手が男だろうが好きならエッチなことだってしたいし、妄想くらいする。

だが、オカズにしているかどうかは黙秘権を行使させてもらう。そこはセンシティブな内容だからな。


「それで、健太郎」


理央は仕切り直しとばかりに俺を覗き込んだ。

うわ、まつ毛が長い、可愛い。


「文化祭まで遂に一週間を切ったわけだが、次の手はどうする? 考えはあるのか?」

「うーん」


そうだなあ。

今日までに、先々週は虹川、清野、愛原、先週は朝稲、杉本と、それぞれ友情を深め合った、と思う。

皆とは普段から良好な関係だが、今はそこに若干のブーストが掛かっている状態だ。

理央の話だと、それが磐梯の術を跳ね除ける力になるらしい。


「あとは霜月と星野が特別審査員に選ばれてるんだよな」

「光、いや、星野君に関しては、僕の方でも根回し可能だ、彼女はこちらで引き受けよう」


む?

そういや、あのことを改めて訊いてみるか。


「なあ、お前と星野さんって、幼馴染なのか?」

「そうだよ」


答えた直後に理央は何故か(しまった)みたいな表情を浮かべる。

なんでだ?

星野の家はこの辺りでは知らない奴がいないほどの大地主で、天ヶ瀬財閥の子息である理央と昔から面識があってもおかしくはない。


「あ、いや、その、親同士に付き合いがあってね、その絡みさ、僕と彼女が個人的に親しいわけではないよ」

「ふーん」

「彼女は阿男のことも多少は知っているし、気を付けるよう忠告しておこう、それでも術を防ぐことは可能だ」

「だったら他の子達にも奴に気を付けろって言っておけばいいんじゃないか?」

「いいや、却って怪しまれる、術だ何だと、そんな胡散臭い話をまともな人間は取り合わないよ」


確かに。

俺だって死んでからのループを経験してなきゃ、理央の話でもろくに聞かなかっただろうしな。

そもそもループが無ければ理央とこんな風に付き合ってもいなかっただろう。

理央を好きになることさえなかったかもしれない。

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