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共鳴と転校生 8

「あいつら、アタシのこと知ってたんだ」


ぽつ、と朝稲が呟く。


「まただよ、アタシのせいで変なのに絡まれて、今日は二人にたくさん迷惑かけたよね」

「そんなことはないが、朝稲、お前いつもこんな目に遭ってるのか?」

「ううん、今日はちょっと多過ぎ、せっかく三人で遊んでるのに、もう最悪だよ、意味わかんない」

「そうか」

「でもアタシ、これからもずっとこんな目に遭うならモデルやめようかなって」


俺より先に杉本が「ノン!」と大声で反応する。


「朝稲さん、それはよくないわ!」

「杉本」

「誰にも貴方の個性を潰すことなど許されない、こんな目に遭ったからって貴方から自由が奪われるなんて、決してあってはならないことよ」

「でも」

「アプレ・ラ・プリュイ、ル・ボー・タン! 私もね、この前の個展で批判的な声だって浴びたわ、作品ではなく私個人に対する誹謗中傷を受けたこともある」

「えっ」


朝稲は大きく目を見開いて杉本を見詰める。

俺もその話は初耳だ。


「でも、そんなことで私の創造性は失われたりしない、貴方も表現者でしょう?」

「あ、アタシは、ただのモデルで」

「いいえ、雑誌の表紙を飾るなんて並大抵なことではないわ、メルヴェイユー、もっと誇るべきよ」

「杉本」

「だから負けないで、くだらない悪意なんて実力で蹴散らしてしまえばいいの、リヤン・ネ・アンポッシブル・ア・キ・ヴ!」

「なにそれ、どういう意味?」

「為せば成る、よ」


朝稲を窺うように見つめる杉本と、そのまま暫く見詰め合っていた朝稲が不意にプッと噴き出す。

そのままクスクス笑って、目尻に浮かんだ涙を指で拭った。


「凄いね杉本、アンタってそんな格好いいこと言う奴だったんだ」


褒められた杉本はポカンとしてから、フフッと笑って朝稲にウィンクを返す。


「でしょう? ねえ、私と貴方はカマラードなんだから、もっと親しい呼び方でいいんじゃないかしら」

「かま? よく分かんないけど、だったら名前で呼んでよ、アタシのこともそうしていいから」

「分かったわ、トモコ!」

「オッケ、ヘヘッ、アヤ!」


二人の絆が深まったのか。

迷惑も沢山被ったが、今日は三人で出掛けて本当によかった。

―――俺の友達は皆いい子達ばかりだよな。


「ねえケン」

「ん?」

「アンタもさ、アタシがモデルを続けた方がいいって思う?」

「当たり前だろ、自分で選んだ道で輝いている朝稲は凄いよ、格好いい」

「ちょっとなにそれ、クサ過ぎるんだけど」

「お前に絡む奴がまた出たら、俺が全部追い払ってやる、だから諦めたりするな」

「今の言葉、ちゃーんと聞いたからね」


朝稲は嬉しそうに「しっかり守ってよ」なんて言いながら俺の脇腹をつつく。


「そうね、健太郎が駆けつけてくれるなら心強いわ」

「そーそー、デカくて強いし、クマみたいだよね」

「どちらかというと大型犬かしら、健太郎、サンパティークでジョヴィアルだもの」


クマに大型犬、どっちもよく言われるな。

でも普通にイケメンでよくないか? 俺はクマや大型犬より格好いいだろう。


「それにしても何か段々腹立ってきた、普通ナンパでルームにまで入ってくる? あいつらマジでクソなんだけど!」

「オーララ、ええ、犯罪行為よ」

「さっきケンがあいつらブッ飛ばした時さ、怖かったけど、スカッとしたんだよね」

「うふふ、健太郎は頭蓋骨が硬いのね、それにとってもパワフル! 今朝といい、ペショたちを千切っては投げ、千切っては投げ」


いや、杉本、流石にそこまではしてないだろ。


「そうそう、むしろ通報されたらケンの方が捕まるかもね、過剰防衛とかで」

「えっ!」

「健太郎の方が圧倒的だったものね、レ・ミゼラブル、ほんの少しだけペショに同情するわ」

「フンッ! あれはあれでいーの、いい気味! ざまぁみろ!」

「確かに、サタプラーンドラ、身から出た錆ね」


二人とも少しは元気になってくれてよかった。

あんな出来事はさっさと忘れるに限る。


「はあ~あ! もう歌う気分じゃないし、ここ出てどっかでお茶しよ?」

「そうね」

「んで喋って今日は解散ってことで」

「セ・ボン! 賛成よ」

「ケンもそれでいいよね?」

「了解」


ひとまず、俺だけで部屋の外の様子を窺う。

野郎どもがまだ転がっていたら階段にでも移動させるつもりだったが、いなくなっていた。

俺の脇からひょこっと顔を覗かせた朝稲が「逃げた、ダサッ」と容赦なく吐き捨てる。


「あら、でも血の跡が」

「気にしなーい、見えてなーい、さっさと行こ!」

「そうだな、行くか」

「オーララ」


三人で足早にエレベーターへ乗り込み、一階まで降りる。

秘かにずっと警戒していたんだが、結局店を出てもあの不届き者どもの姿は見えなかった。

やれやれ、一安心か。


「ね~ケン、アタシ、シレーナの新作フラチーノが飲みたいな~」

「おっ、いいな」

「おごって?」

「は?」


朝稲は俺の腕にするりと腕を絡ませつつ、上目遣いで睨んでくる。


「だーれのせいでアタシたち怖い目に遭ったのかな~?」

「ちょ、だってさっきそれ、俺のせいじゃないって」

「電話の相手、誰よ」

「え?」

「女じゃないでしょうね?」

「ち、違う」


理央だが、あいつは男だ。

「ふ~ん」と朝稲は探るような目で俺を見る。


「分かった、奢らせていただきます」

「いよっし! カスタムもアリね?」

「うう、はい」


朝稲と反対側の隣に来た杉本がフフっと笑う。


「トモコはコケティッシュね、トレ・ミニョンだわ」

「アヤもケンに奢らせなよ」

「私はいいわ、ちょっと可哀想だし」


杉本は優しいな。

だけど俺から「奢るよ」と声を掛ける。


「いいの?」

「朝稲だけじゃ贔屓になるからな」

「そーそー」


お前まで頷くな、まったく朝稲は。

だけどこれで今日の思い出にケチが付かなくなってくれたら御の字だ。

杉本はクスクス笑って「それじゃ、遠慮なく」と俺の腕にそっと手を置いた。


「健太郎はジャンティオムね」

「ん?」

「素敵って意味よ、有難う」


反対側から朝稲も、俺を見上げて「ありがと」と口元から可愛い八重歯を覗かせる。


「ねーアヤ!」

「なに? トモコ」

「新作二種類あるからさ、それぞれ頼んでシェアしない?」

「ウィ・ボニデ、是非そうしましょう!」


二人と一緒に歩き出した街はすっかり夕暮れ色だ。

家路を急ぐ人、どこかへ向かう人、雑踏の雰囲気もどことなく日暮れ前の気だるげな忙しなさがある。


「今日さ、色々あったけど、楽しかったよね」

「そうね」

「ねえ、また三人で出掛けようよ、そうしよ?」

「メ・ズィ、喜んで」

「俺もいいぞ」

「よしっ」


二人は俺とも友情を育んでくれただろうか。

俺は前よりもっと二人と仲良くなれた気がしている。


―――そうだ、後で理央に連絡しないと。

約束したからな、きっと待っている。

今日の出来事を伝えておこう。

まあ、所々叱られそうで若干気乗りしないが、それも含めての一日だったからな。


「もーケン! また余所見してる! 今はアタシらと一緒にいるんだからね!」

「そうよ健太郎、ここに二人もベルがいるのに、上の空だなんてノン!」


悪いと謝って笑う。

朝稲と杉本も楽しそうだ。


これで二人も磐梯の魅了の術に掛からなくなってくれるといいが。

俺の命が係わっているが、それ以上に野郎に二人の気持ちを好き勝手されたくないからな。

そのためにも、この先まだ頑張らなくては。

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