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共鳴と転校生 7

三階まで降りてトイレに入った。

休日だからどの部屋も埋まっているみたいだな、俺達がすぐ案内してもらえたのはラッキーだったのか。

手を洗っている最中にバッグの中から着信音が流れ出す。

据付のペーパータオルで手の水気を拭きとってから携帯端末を取り出すと、おお、理央だ!


「はい、俺」

『健太郎、今、話せるか?』


耳に馴染みのいい、柔らかな声が聞こえてくる。

ああ、理央。

声だけで胸がキュンとなるな、今どうしているだろう。


「あーっと、今トイレだから、移動してかけ直すよ」

『そうか、失礼した』

「気にするなって、じゃあ一旦切るぞ」

『ああ』


通話を切り、端末をバッグに突っ込んで急いでトイレを出る。

話すなら一階の待機スペースがいいだろう、ここだと他の客の邪魔になりそうだ。

エレベーターを使って受付がある一階まで降りる。

一応、店員に待機スペースで通話していいか確認を取って、フロアの隅へ行き理央に掛けなおした。


『健太郎』

「悪い、待たせたな」

『僕こそすまない、取り込み中に失礼した』

「いいって、それよりどうした? 何かあったのか?」


理央は『いや』と呟いて、今どうしているか訊いてくる。


「朝稲と杉本と三人でカラオケ屋だよ」

『そうか』

「あいつらすっげえ歌上手いんだぜ、聴いたら驚くぞ」

『なるほど、興味深いね』

「じゃあ、今度理央もカラオケ行こう」

『ふふ、いいよ、君の歌も是非聴いてみたい』

「俺も結構上手いぜ?」


端末の向こうで理央は楽しそうにクスクス笑う。

きっと可愛い顔してるんだろうな。

会いたい、理央、今は自分の部屋で俺と喋っているのか?


「なあ、理央はどこにいるんだ?」

『自室だよ、君の首尾が気になって連絡した』

「言い方、まあいいや、もう暫くはカラオケ屋にいるぜ、でも後はお開きかな、そろそろ日も暮れるし」

『そうか、楽しめたかい?』

「まあな」

『後ほど詳細を聞かせてくれ、疲れていたら明日でも構わない』

「いや、帰りに連絡する」

『分かった、では、待っている』

「おう、じゃあ後でな」

『ああ、それでは後ほど』


理央の声の後で通話が切れる。

俺のことを気に掛けてくれたのか、もしかして少しは妬いてくれたり?

まあ、なんにせよ嬉しい。

声が聞けるだけで、俺を想ってくれているって知るだけで、胸がいっぱいになる。

理央、好きだ。

いつか絶対カラオケに連れて来よう、俺も理央の歌声を聞きたい、きっと天使か、女神みたいに最高だぞ。

歌う姿に後光が射して、空からも眩い光が降り注ぐに違いない。

はあ―――さて、と。


端末をバッグに戻してエレベーターに乗る。

トイレと断り出てきた手前、うんこかと思われているかもしれない。

だが仕方なし、生きているなら食えば出る、自然の摂理だ、何も恥じらうことなどない。

ちゃんと手を洗ったし、臭いも無いはずだからな。

まあ、それ以前にトイレが長かった程度で絡むほど二人は子供じゃないか。


五階に着いて、心持ち足早に部屋へ向かう。

ドアノブに手を掛けて引くと同時に聞き慣れない声が耳に入った。

男?

―――室内に男がいる。

野郎が三人、そして部屋の奥、隅の方で朝稲と杉本が身を寄せ合っている。


―――は?


「なんだてめえ」


野郎の一人が言うと同時に体が動いて胸ぐらを掴んだ。

頭の奥が痺れるようにジンジンしている。


「なんだじゃねえよお前こそ誰だ?」

「あ?」

「ここは俺達の部屋だぞ、誰だ」

「ンだよ離せよ!」

「誰だ」


他二人も何か騒いでいる。

ふと「ケンッ」と俺を呼ぶ朝稲の声が聞こえた。

怖がらせたな、二人を、よくも。


「っが!」


胸ぐらを掴んだ野郎に頭突きで一撃食らわせる。

そいつを投げ捨て、股間を踏んで、残る二人を振り返った。


「てめぇッ!」

「ッざけんな!」


野郎はどうでもいい。

店の設備を壊して弁償するのは嫌だから、片方を捕まえて膝で腹に一発見舞う。

残る一人も捕まえて、動揺している顔を覗き込んだ。

―――ふん、不細工だな。


「おい」

「な、なんだよぉッ」

「俺も事を荒立てたくない、こいつら連れてサッサと出ていけ」

「ッツ!」

「お前も潰して店員呼んでもいいが、それだと警察沙汰だ、お互い上手くないだろ? なあ?」


よりにもよって男が、寄ってたかって女の子を怖がらせるなど言語道断。

事情も言い訳も無意味。

自身の行いを恥じて潔く死ね、俺が引導を渡してやる。


「っぐ!」


手を離すと、そいつ一人で逃げ出そうとするから床で伸びている奴らを一人ずつ掴んで投げつけてやった。

最初の一人に圧し掛かられ転んだ野郎の上に、更にもう一人を放って乗せる。

グエ、なんて潰れたカエルみたいな声が聞こえたような気がしたが空耳だろう。

用が済んでドアをバタンと閉じる。


「二人とも、大丈夫か?」


振り返ると、まだ部屋の隅で身を寄せ合っていた朝稲と杉本が泣き出しそうな顔で傍に来る。

俺の胸まで飛び込んできた朝稲は「怖かったんだからぁッ! 遅いよバカッ! バカぁッ!」と待ち合わせに遅刻した時と同じようにポカポカ叩いてきた。


「ごめん、本当に悪かったよ」

「どこ行ってたの? トイレ長すぎ!」

「いや、電話が掛かってきて、一階で話してた、マジですまん」

「バカッ! サイテー! 信じらんない!」

「本当にごめん、杉本も怖かっただろ? 大丈夫か?」


杉本は潤んだ目を手で拭って「平気よ」なんて笑ってみせるが、無理をしている様子が痛々しい。


「本当にすまない、怖い思いをさせたな、悪かった」

「もっ、もういいよ、ケンのせいじゃないし、でもマジで怖かったんだからね!」

「そうだな、申し訳ない」

「いいよ、守ってくれたから許す」

「ええ、健太郎、メルシー・ボク、本当に助かったわ」


二人共有難う。

だが、あんな輩が湧いて出るとは、この店一体どうなってるんだ。

カラオケも油断ならない。

まだ動揺している二人を座らせて、それぞれの肩をさすりながら落ち着かせる。

こんな密室に知らない男が三人も押し入ってきたんだ、俺が想像する以上に怖かったに違いない。

酷い目に遭わされる前でよかった、それだけがせめてもの救いだ。

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