共鳴と転校生 6
他の作品も全部見て回り、その後は朝稲と杉本が納得するまで付き合って、会場を後にした。
すっかり意気投合した二人は機嫌よく展示会の話題で盛り上がっている。
「朝稲さんって、思っていたよりずっと芸術に理解があるのね」
「ちょっと、それってどういう意味?」
「ジェ・ゾント、違うの、嬉しいのよ、同士が見つかった気分なの」
「アタシもさ、杉本のこと勘違いしてた、アンタって結構面白い奴だね」
「まあ、メルシー、とっても嬉しいわ」
うんうん、仲良くしている女の子を眺めるのはいい。
先週末のデートといい、俺が仲を取り持てているような気分にもなれて、最高に満足だ。
まあ、一応前提として俺の命が掛かっているわけだが、そんなものは今ここにある友情に何ら関係ない。
皆が楽しく過ごしてくれるだけで十分、俺のことはついででいい。
「よし、次はカラオケ行くぞ!」
急に朝稲が言い出す。
「ねえ杉本、まだ時間大丈夫っしょ?」
「そうね、問題ないわ」
「ケンもまさか付き合うよね?」
「勿論」
「よし、それじゃ、三人で思いっきり歌うぞーッ!」
カラオケかあ。
結構前に薫と行ったきりで久々だな。
そういや、朝稲とは何度も行っているが、杉本の歌を聞いたことはまだない。
楽しみだな。
「ねえ、杉本ってカラオケとか行くの?」
「たまに行くわ」
「へえ、誰と?」
「一人でよ」
「え、ヒトカラ? ガチなヤツじゃん」
なるほど、だが俺もたまに一人でフリータイムを利用する。
発声練習や気晴らしにもなるからな、何より気兼ねなくデカい声を出せるのが一人カラオケのいいところだ。
カラオケ店に着いて、受付を済ませて部屋へ向かう。
この店は六階建てのビルになっていて、一階が受付、二階から上は全てカラオケルームが入っている。
俺達が案内された部屋は五階、各階の移動はエレベーターと階段を利用する。
「この階ってさ、ドリンクの場所はあってもトイレは一つ下に降りなきゃならないんだよね、ちょい面倒」
「まあ、そこまで頻繁に尿意を催したりしないだろ」
「ケンってそういうところデリカシー無いよね、女子の前で尿意ってあり得ないんですけど」
「お前も今言っただろうが」
「うるさい」
理不尽だ。
杉本はクスクス笑って「まあ、いいじゃない」と朝稲を宥める。
そうだぞ、トイレよりドリンクを取りに行く手間を省ける方がよっぽどいい。
―――ちなみにフリードリンクをオプションで付けたから、ドリンクサーバーで飲み放題、ついでにアイスクリームも食べ放題だ。
「ま、いっか、じゃあ歌おう、まずはアタシからね!」
「おっ、トップバッター行くか!」
「当然! ケン、マイク取って」
「ほら」
「サンキュ!」
朝稲は慣れた手つきで選曲を済ませて、マイク片手に椅子から立ち上がる。
本格的なスタイルだ、よし、次は俺、と行きたいところだが、まずは杉本に譲ろう。
「ほら杉本も、お先にどうぞ」
「いいの? メルシー、それじゃ二番手いかせてもらうわね」
「おう!」
俺は三番手、だが二人の歌を聴くだけでも構わない。
そのつもりで来たしな。
今日の主役は朝稲と杉本、俺はあくまで添え物のネギやカイワレみたいなポジションだ。
曲が始まって、歌い始めた朝稲の歌声は圧巻の一言だ。
本気で上手い。
音域の幅といい、声の伸びといい、モデルだけじゃなく歌手でもいけると思う。
そのうえ顔まで可愛いんだから、これは確実に実力派アイドル路線を狙えるぞ。
「はぁッ! あっ、採点モード入れ忘れた! ランキング狙いたかったのに!」
悔しがる朝稲に俺と杉本で惜しみない拍手を贈る。
ランキングなんて分かり切っている、全国上位は確実だろう、俺が断言する。
余韻に浸っていると、次の曲のイントロが流れ始めた。
これは、まさかの洋楽か?
「うっそ、杉本ってこういうの歌うの?」
朝稲も目を丸くしている。
歌詞にルビすら振られていないガチの洋楽、それを杉本は流ちょうに歌い上げていく。
か、か、格好いい。
それに上手い! ディーバだ!
すっかり聴き入って、曲が終わっても暫くボケッとしてしまった。
同じ様に呆然としていた朝稲がハッと我に返った様子で「凄いじゃん!」と杉本に惜しみない拍手を贈る。
「マジで格好良かった! 超驚いたよ、すっごいイケてんね杉本! ヤバ!」
「メルシー! 朝稲さんもプロのシャントゥーズのようだったわ」
「それって褒めてる? マジサンキュ!」
「ジュ・トン・プリ!」
二人とも凄いなあ。
感心していると朝稲が「ほら次、ケンの番!」と選曲用のコントローラーをズイッと向けてくる。
「二人の後だと緊張するな」
「そんなわけないっしょ、ケンだって凄く上手いじゃん!」
「そうなの?」
「特にラップがヤバい」
「オーララ!」
別にラップが好きってわけじゃないが、褒められたし、ラップメインの曲にするか。
選曲して少し待つとイントロが流れ出す。
よし、歌うぞ!
握ったマイクに俺のソウルから迸るシャウトをぶつける!
やっぱり歌うのって楽しい。
音に声を乗せて響かせるとスカッとするよな!
歌い終わると、間を置いて二人が拍手を贈ってくれた。
よかった、ウケたぞ。
間違えたり止まったりせずに歌いきれたし、格好悪い姿を見せずに済んでよかった。
「オーララ! セ・アンクロワイヤブル! ブラボーよ健太郎! 貴方にそんな特技があったなんて!」
「やっぱすっごいね、ケン! アンタラップで食ってけるよ、マジで!」
「いやあ、それほどでも」
「もっと貴方の歌声を聴いてみたいわ、さあ、歌って!」
「ちょい待ち! 次はアタシ、こればっかりは譲らないよ?」
「そうね、朝稲さんの歌声ももっと聞かせて欲しいわ」
「アタシも杉本の洋楽聞きたい、ね、もっと歌おう!」
「ビヤン・スール!」
二人ともノリノリだ。
俺も盛り上げていこう!
次の曲が始まって、朝稲が歌い、杉本も歌い、俺も歌う。
楽しい。
途中でドリンクを取りに行ったり、少し休んで喋ったり、時刻を確認するともう二時間も経っている。
「っと、ちょっと俺トイレ」
コーラを飲み過ぎたな。
そろそろ逼迫した尿意が膀胱に圧を掛けている。
「いってらっしゃーい」
「健太郎、プランク・トン・タンス」
バッグを持って部屋を出る。
えーっと、確かトイレは一つ下の、って! 男性用は一階と三階にしかないのかよ!
くっ、やむを得ない、エレベーターで三階へ行こう。




