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共鳴と転校生 5

フラシンを出て、徒歩数分の距離にある百貨店へ向かう。

展示会は八階の特別展示場でやっているようだ。


道すがら、杉本は推しのガラス作家の情報を、そして朝稲もアーティストとしてのSUNSIKIの話を色々と聞かせてくれた。

ガラス作家についてはほぼ初見で、SUNSIKIに関しては俺も多少知識があるから、どっちの話も面白くて飽きない。

百貨店に入り、すぐの場所にあるエレベーターで八階まで昇る。

辿り着くまで二人のおかげであっという間だった。

さて会場は―――おお、探すまでもなく大盛況、想像以上の人だかりだな。


「これは、入場まで少し待つかもな」

「いいって! 待とうよ、ほらチケット買うよ、アタシがまとめて払っとくから!」

「メルシー、後で精算するわね」


チケットを購入すると、入場整理券を一緒に配られた。

今から三十分後か、そこまで待たずに済みそうだな、よかった。


入場時間まで八階の他の売り場を見て待つことにする。

とはいえ、このフロアにあるのは家具とかカーペット、カーテンの類で、たいして面白みはない。

まあ暇潰しくらいにはなるか。


「ねえっ、ケン! このベッドデカくない?」

「おお、キングサイズ」

「二人で一緒に寝れるっしょ、ちょっと寝転がってみようよ!」

「ダメだ、行儀が悪い」

「ええ~っ」

「それにお前今日スカートだろ、危ないぞ」

「フフ~ンだ、エッチ!」


なんだと、気遣ったのに心外だ。

不意に腕を引っぱられて、振り返ると今度は杉本が「健太郎、このカーテンの柄、とってもトレビアンだわ!」と目をキラキラさせながら話しかけてくる。


「ほらここ、この意匠がまるで鳥の羽みたい、このカーテンを掛けるとどんな窓辺にも渡り鳥達が戻ってきて春の庭が訪れるの!」

「そうだな、綺麗だなあ」

「ふふっ、共感してもらえて嬉しいわ」


杉本の感性は独特で鮮やかだ。

時々作品を見せてもらうことがあるが、俺には到底描けない絵を描き、作れないものを生み出す。

絵画、彫刻、樹脂や粘土での造形、本当にマルチな才能だよな。


「ねえ、ケン」


朝稲が俺の腕に抱きつきながら話しかけてくると、ふと向こうでこっちを見ながらひそひそ話す姿に気付く。


「ねえ見て、あれってトモじゃない?」

「うそ、ホントだ~っ、あのヒトって彼氏?」

「もう一人いるし、友達じゃない?」


トモは朝稲のモデル名だ。

朝稲も気付いた様子で、俺から離れつつ体の向きを変えて「行こ」と歩き出す。


「ねえ朝稲さん、あの子達って」


後を追いながら話しかける杉本に、朝稲は「あ~」とばつが悪そうな声をあげる。


「杉本も気付いちゃったか、まあこんな仕事やってると嫌でも顔バレするし、仕方ないよね」

「駅で声を掛けてきたヴォワユー達も、貴方のことをトモって呼んでいたわね?」

「うん、まあそう、アハハ」


そうか、あのナンパ野郎どもも、朝稲がモデルだと知っていて絡んできたのか。

朝稲は俺と杉本にちらりと窺うような目を向ける。

それを敢えて気付かないフリをした。

今、一番不愉快な思いをしているのは朝稲だろう、俺達に構うことはない。

杉本だってきっと気にしていない、むしろ俺と同じで、朝稲を心配している様に見える。


「モデルの仕事は楽しいんだけどね、こういうのはちょっと、最近面倒臭いって言うか、鬱陶しいって言うか?」


こっちに背中を向けたままポツポツと呟く朝稲に、杉本が俺を見上げて、俺も杉本に視線を返す。

どうにか力になってやれないものだろうか。


「あっ! ねえ、もう三十分経つよ、そろそろ戻ろ?」

「オウ、そうだったわね、ズ・プレッセ!」


朝稲と杉本に急かされて、三人で展示会場に戻る。

好きなものを見て二人の気分が少しでも晴れてくれることを祈ろう。

着いたところで整理番号のアナウンスが流れて、スムーズに入場できた。

中も結構な込み具合だ。

まあこの規模ならはぐれたとしても問題ない、俺も周りから頭一つ分くらい飛び出ているから、二人からもすぐ見つけられるだろう。

背が高いってこういう時に便利だよな。


「さあ見るわよ、まずは」

「まずはSUNSIKIっしょ!」


ま、待て、待ってくれ。

両方から腕を引っぱるな、俺の体は一つしかないんだぞ!


「ちょっと杉本、アタシが先だよ!」

「ノン! 展示会に誘ったのは私よ? まず私が見たいものに付き合って」

「ええ~っ!」


どうしよう。

二人が俺を見上げる、判断を任せるってことか?

むむっ、どっちを選んでも角が立ちそうだな、だったら。


「俺は端から見ていく派だ」

「え、マジ?」

「おおノン! そんなことって」

「この会場に展示されている作品は等しく一点物の凄いヤツだろ、だったら自分が見たいものだけじゃなく、全部見るのが作家への礼儀だ」

「うっ、それは、そうかもだけどぉ」

「確かに健太郎の言うとおりね、ジェ・ゾント、反省だわ」

「ちぇっ、分かったよ、そういうことなら端から見てこ!」


よかった、無益な争いは回避できたようだな。

しかし誘われて来た展示会だが、思いがけず面白い。

こうして美術品をじっくり鑑賞するのも悪くないひと時だ、新鮮な発見があったり、雑学的な知見が増えたりする。

自分の引出しが増えていく感覚、芸術に触れることで感性が研ぎ澄まされていくような充足感がある。


「これが杉本の推しているガラス作家の作品か」


先に杉本が見たかった作品に辿り着いた。

へえ、ガラスってこんな形にも加工できるのか、発色が鮮やかで綺麗だ。


「セ・サ、どう? とても美しいでしょ?」

「ホント、キレーだねぇ」

「ああ、この独特のフォルムが面白いな、色使いも大胆で目を引く、ガラスでこの表現力は圧巻だ」

「流石健太郎、朝稲さんも分かってくれて嬉しいわ、メルシー!」


杉本の内側にある世界観に少しだけ触れることができたような気がする。

こういう感性の共有って楽しいよな。


「これが朝稲さんの見たかったSUNSIKIの作品ね」


更に幾つかの作品を経て、今度は朝稲が目当てにしている作品に辿り着いた。


「そうそう、杉本知ってる?」

「勿論、彼のアートにはいつも驚かされるわ、これもとても面白いデザインね」

「でっしょ?」


杉本も知っていたのか。

SUNSIKIの作品はまさに個性の塊だ。

その独特の視点や感性が作品全体から溢れんばかりに醸されている。


「ギャレのデザインに通じるものがあるな」

「だよね、特にこの色合いとか、次シーズンのモチーフにも使われてるっしょ?」

「おっ、そういやそうだ、見覚えがある」

「よしよし、ちゃんとチェックしてるね、さっすがケン!」


朝稲はこういう感じが好きだよな。

雑誌でもよくギャレの服を担当しているし、そして誰より上手く着こなしている。


「あー、こんな事なら今日服ギャレでまとめてくればよかった」

「ふふっ、SUNSIKIがデザインしたものね? 朝稲さんに似合いそうね」

「マジ? そう言われると照れるなあ」

「今度着ている姿を是非見せて欲しいわ」

「おっけ、じゃあまた出掛けよ! 後で予定組もうよ」

「ジェ・アートゥ!」


展示会を通じて、お互いの感性に共鳴し合っている感じだな。

朝稲と杉本、二人が楽しそうで俺も嬉しい。

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