作っちゃえ
「流石王都、相当な代物が置いてある」
開かずの部屋と化してしまった扉の前でひたすら頭を下げること数時間。
――じゃあ、ボクの新しいマインゴーシュを見繕って下さい。
半開きになったドアの隙間から、ジト目と共にそんなお許しがようやく出た。
改めて謝罪すると共に今後はしっかり女の子扱いすることを誓えば、微妙な顔をされてしまったよ、何故だ?
そもそもお詫びの品としてマインゴーシュをって言う辺り相当女の子からかけ離れている気がするんだけど?
いや、いい。
今回は全面的に俺が悪かったのだし、文句は言わないことにしよう。
「師匠? 相当なって、他の街と具体的にどんな違いがあるんです?」
「良い質問だな。一言で言えば種類の豊富さだ」
「豊富さ?」
今日はカタリナ姫から事前に公務があるため午後に訓練の時間を回して欲しいって連絡もあったし、丁度よかった。
今は王都で一番と言われている武器屋にお邪魔している。
剣を見に来たのに何故かお茶を出されそうになったけど、丁重にお断りして。
「では問題です。マインゴーシュは大別して二種類に分類されるが、その二種類とはなんだ?」
「ラインガード式のものとオーバーガード式、ですよね?」
「正解」
ラインガード式とは主に指の部分だけを守るガードがついているもので、オーバーガード式とは手首から先をすっぽり全部覆う形でガードがついているものだ。
「じゃあどっちの方が重たい?」
「バカにしてます? そりゃあオーバーガード式の方が重たいですよ」
「はい、ありがとう不正解です」
「……むー」
そう言って欲しかったんでしょなんて顔しながら、片頬を膨らませたトリアに苦笑いを返してから。
「お察しの通り、その部分だな。基本的にはオーバーガード式のほうが重たい物だが……おっちゃーん! ちょっと手に持つよー!」
「はっ、ははは、はいぃっ! ど、どうぞ気の済むまでぇ!!」
一振りのラインガード式のものをトリアに装備させると。
「う、ん……? なんか、ちょっと重い……です?」
「じゃあこっち」
「……あれ? さっきのより、軽い? え!? オーバーガードなのに!?」
「そう、ガード部分に使われている金属が刀身とは別なんだ。他にも色々あるぞ、ガード部分より刀身の方が重いものだったりその逆だったり。武器破壊しか考えていませんって感じのガードどころか、ほぼナックルガードになってるものだったりな」
「ほ、ほわぁ……」
見習いとは言え、騎士団に居たんだしある程度詳しくても良さそうなんだけどな。
もしかしたら騎士団は剣術を統一するために、ショートソードの規格も合わせてるのかもしれない。
「わかったな? 種類が豊富に置かれているにもかかわらず、使用者に可能な限りマッチするよう品物を揃えているから、相当だなと言ったんだ」
他の街というか、王都以外の街なら基本的に汎用性を求めた同規格のものを揃える。
多くてもまぁ二種類程度か、マインゴーシュで言うならそれこそラインとオーバーを売っているくらい。
「やっぱり、王都って凄いんですね?」
「俺より長く住んでるだろうになんで知らないんだよって言いたいが、まぁいいよ」
「全部言ってます、師匠」
おっと、トリアの目がまたジト目に変わってしまうし自重しよう。
トリアにあげたマインゴーシュは汎用規格のものだし、ここは気合いを入れて見繕って関係回復せねば。
「とは言ってもなぁ」
やはりトリアは特殊だ。
思いっきり道から外れているとまでは言わないが、少なくとも見た感じこれだけの品揃えが揃えられていても、トリアにフィットするものが見当たらない。
「お?」
どうしたもんかと眺めていると、びびっとくる一振りが視界に入った。
「え? 師匠それ、突撃槍ですよ?」
「わかってる」
円錐型の巨大槍。
超重武器に分類される代物で、主に突撃騎兵が扱う武器だが。
「おっちゃーん!」
「はいっ! お呼びですか剣聖様っ!!」
「いやそんな慌てなくても大丈夫だって。このランスだけど、作った人は王都に居るのかな?」
「は、はい。王都の西部に工房を構えてるリアって鍛冶師でさ。つっても、まだまだわけぇし、腕も未熟。決まりで各工房の武器を一つは置かなきゃならねぇってのがなけりゃ……あぁ、いや。ランスをお探しでしたらもっと――」
腕が未熟? まじでか。
確かに全体の出来はあまり良くないけれど、この曲線を作れる鍛冶師はそうそういないぞ?
……そうだな、既製品を買うよりはオーダーメイドのほうがそれっぽいし。
「わかったありがとう。とりあえずこのランスと……あ、このマインゴーシュ二振り貰っていいか?」
「へ、へぇっ! 毎度ありでさ! そ、その、よろしければ握手をお願いしても? だ、代金は、いらねぇんで」
なんでだよ、俺の手にどんだけの価値があるんだよ。
うーん……まぁ、いいか。
「そんなおどおどせんでくれ。武器屋の主だろ? どーんと構えてくれどーんと。んじゃ、あーくしゅっと」
「あ、ありがとうございます――って、剣聖様?」
「足りなかったら格好つかないけど、取っといてくれ。またよろしくなー!」
「あ、あ、ああもう! ありがとうございましたぁっ!」
金を握ってから握手をして、無理やり受け取ってもらった。
見立ててでは十分足りてると思うんだけど、足りなったら後でシェリナに頼もう。
「あ、あの、師匠?」
「あぁトリア。やっぱりプレゼントってさ、手作りが一番だよな。少なくとも俺はそう思う」
「それは、その方が気持ちが籠もって――って、まさか師匠?」
その通り。
店にないなら自分で作ったらいいじゃないって話です。
「いやいや流石に鍛冶なんて出来ないよ。でも、自分好みの鍛冶師を作っちゃうのは……できるかも知れないだろ?」