殺し愛
寂しい。
大好きな匂いが、大好きなあの人が、一緒にいない。
「あ、あの……」
いつでもご主人様の中にいて、いつでも感じられるぬくもりが、ない。
どうしてこうなってしまったのか。
そんなことはわかっている。断じてご主人様のせいなんかじゃなくて。
「あ、あああ、あのあのっ!」
「おまえのせいだぁぁあっ!!」
「ひゅいっ!? わわっ、ちょっ!?」
ええい腹が立つ!
八つ裂きにしてしまおうか、その後は焼いて食べるか煮て食べるか!
「くひゅっ!? ふひゅ、ひゅひっ! ひひ、ふふっ! や、やめ! わ、わきはらめだようっ!?」
「うるさいうるさいこのニンゲンめっ! お前なんかこうしてやる! こうしてやるぅ!」
「わっきゃあああっ!? やめ、やめへぇえっ!? ふひゅっひゅひゅ!」
そんなことしないけど! やりたいけど! ご主人様の命令は絶対だから!
「ごっ、ごめっ! わかっ、わかってる、よぅ! あたしが、みじゅくなせい、だってぇ!」
「む? ……ふん。わかってるならいい、ご主人様のお手を煩わせていることをしかと自覚し、一秒毎に感謝を奏じ奉れ」
「は、はひゅっ、ふ、ふぅ、ふぅ……うぅ」
最低限自覚しているなら許してやる。
「それで? 何か用か」
「あ、き、聞いては、くれてたん、だね? その、なんでベルガはあんなに、つ、強いのかなって」
「は?」
「いいいい、いやだからね!? と、歳はあたしより、一つ上だって、き、聞いた、よ。い、一年しか差がないのに、ベルガは、に、人間が到達できない、って域に、達していて、その」
……なるほど、つまり。
「なんだ、見込み違いか?」
「え?」
認めるのは非常に癪だけど。
わたしは少しだけ、このニンゲンをご主人様に重ねていた。
「まぁいい。わたしは懐が広いが故に、一度だけ教えてやる」
「う、うん? あ、ありが、とう?」
何を不思議そうな顔をしてるのか。
やれやれというものだ、これだからご主人様以外のニンゲンは嫌いにすら値しないというもの。
「先のご主人様が仰ったところのお手本。通算129回お前に見せたが、気づかなかったか?」
「そ、そりゃ、魔法の構築方法にしても、術式にしても、沢山気付けることは、あ、あった、よ?」
「違う。わたしとご主人様が恐れ多くも全く同じ技量を持つモノであると」
「……え」
わたしは、ご主人様の技術を全て記憶し、同じクオリティで出力するモノだ。
ご主人様が強くなれば強くなるほど、わたしとて同じだけ強くなる。
「つまるところご主人様は過去の自分と戦っておられるのだ。昨日よりも一時間前、一時間前よりも一秒前、一秒前よりも一瞬前と戦っていて、その尽くに勝利されている。少しでも未熟であれば、その瞬間がわたしとの契約を果たすときであり、ご主人様がわたしに殺されるときなのだ」
「……」
そうとも、わたしはこのニンゲンとご主人様を重ねていた。
過去を乗り越えるために今を凌駕しようとするという意味において。
ご主人様は過去の敗北を乗り越えるために、わたしを打倒する。
お前もまた、そうだと思っていたんだがな。
「想像できるか? この困難さが。感じ取れるか? どれほど過酷であるか。ご主人様は確かにニンゲンを辞めた強さを誇っているように思えるだろう。だが、真にニンゲン離れてしているのはその精神性であり、常に自らを地獄に叩き落としては這い上がっておられるところにある。覚えておけ、ニンゲン」
誰にも理解されず、強くなればなるほど共に歩むものを無くし孤独になっていく中で、わたしだけが隣にいることができる、許されている。
ずっとずっとボロボロになりながらも前に進んでおられるあの方を、慈しみたくて仕方ない。
だからわたしはご主人様が大好きで、愛しているのだ。
「……テレシアは」
「なんだ」
「そんな人を、殺すの? 契約だから? 仕方ないの? それって――ひっ」
「今日許すのはこれで二度目だ、三度目はない」
あまりな言葉に思わず孤刀を抜いてしまった。ご主人様、申し訳ありません。
「いいか? 勘違いするなよ? わたしはご主人様の生き様、その幕引きを任されたのだ。ご主人様が求めておられるのは結果だ。あの人を超えられたか、否かという決着だ。それはつまり、最後を看取ることを許されたとも言えるし、今際の際に隣にいて欲しいと言うことだ。それ以上の愛などない」
「で、でもっ!」
「結ばれ番になり、子を宿し生み、共に育て、子に見送られる。そんな人生をわたしが夢に見たことがないとでも?」
「あ、う……」
「バカを言うな、何度も思った、想い抜いた。こうしてニンゲンもどきとなったことで、あるいは可能になったことかも知れない。だがそれら全てが、幕引きの役割以下だと確信したのだ。理屈ではない、勘違いするなとはこのことだ。ニンゲン如きの物差しで、わたしとご主人様を計ろうとするんじゃない。わかったな?」
理解されなくていい、されたいとも思わない。
だが、こいつは。
「お前は、ご主人様と同じように死を乗り越えるために強くなろうとしているのだろう? ならば死ぬ気で、死に物狂いで強くなれ。そのためだけになら、力を貸してやる」
「……」
……ふん。
「……うん、わかった」
「ならばいい、わたしは忘れてやる。だがお前は忘れるな」
ようやく、少しは見れる顔になったか。
はぁ……ご主人様、テレシアは頑張りましたよ。
帰ったら、いぃ~っぱい! 褒めて下さいね!




