表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
32/39

第三十章 『再会』

 カイルがラドゥールに戻った明くる朝、ライフパルス号は港を出港し、クイーンローズ島への帰港を目差した。

 港から見送るジョセフを、ミーシアは切ない目で見つめ手を振った。

「ジョセフ王子と何かあったの?」元気のないミーシアを見てアリスが言った。

 ミーシアは胸に秘めた悲しみを、アリスに打ち明ける事なく、無言のまま力なく首を振った。

 クイーンローズ島には、ラドゥールから五日の航海で港に着いた。海賊とは称しているが、今や紅鯨団の名声は、遠くは子供達の生まれ故郷クイーンローズ島まで届いていた。勿論子供達は知る由もないが、子供達の両親もその名声は耳にしていた。民衆は、海賊と称する紅鯨団は、今では国の信頼を集めた海援隊とどうやら認識しているようだった。子供達は普段の洋服に着替え、これから待ちゆく両親の折檻(せっかん)に頭を悩ませていた。だが校長先生の援護もあり、更にラドゥール国の王子を救ったという噂を耳にしていた子供達の両親は、その王子を救った一団に子供達が係わっていたと知った時には、両親達は我が子を誇らしく思うのだった。子供達は予測しなかった両親の対応に初めは戸惑いもしたが、次の航海の時、紅鯨団の船に乗る口実が出来たと密かに喜び合っていた。


 その日ミーシアは第二の我が家、マッシュ家で土産話に花を咲かせ、老夫婦を喜ばせた。しかしラドゥールの船を救ったという噂はマッシュ達にも届いていた為、マッシュがその話題に触れると、ミーシアの胸の内は、マッシュ達に向ける笑顔とは裏腹に、悲しくも切ない思いがミーシアを苦しめるのだった。

 夜、使い慣れたベッドに横になり、窓から見える星空を眺め、ジョセフと二人で見た星空をミーシアは思い出した。今見ている星空と変わらないはずなのに、あの時見た星空はやはり今と違って見えた。

 ミーシアは左手の薬指に嵌めているリングを見つめ、右手をリングに添えそっと胸に当てた。

(あの人と逢いたい。逢ってまた笑顔で話したい。でも今は……)

 切ないミーシアの思いが水面から伝わった。

(こんな時とうさんが居てくれたら……。きっととうさんは面白い事を言って私を楽しませてくれただろうな……)

 ミーシアは、船長の胸で抱かれていた幼い頃の温もりを懐かしく思い渇求(かっきゅう)していた。


「ミーシア、ごめんな。抱きしめてやれなくてごめんな……」

 船長は涙を流し、突っ伏して拳で何度も地を叩いていた。

 船長の純粋な心に私も涙が止まらなかった。

 大御婆様も玉ねぎの汁が目に入ったと、玉ねぎなど切ってもいないのに涙している。


 明くる日ミーシアは校長先生に会いに行った。船長の面影を持つ校長先生にお会いする事で、少しでも船長を感じていたかったのだと私は思った。

「ミーシア、それで炎王とはどうだったのだね?」

「勿論仲間になってくれました」

「それは良かったね」

「はい」

 授業終了のチャイムが鳴ると、キャシー達も用務員室にやって来た。

「あらミーシア来てたの?」

「えぇ、さっき来たところよ」

 校長先生の美味しいお茶を頂きながら、各自が持って来たお菓子を仲良く分け合い、ここ数日の出来事を面白おかしく子供達は語り合った。午後のお茶会はミーシアにとって、とても有意義な心休まるひと時となった。


 日が傾き掛ける頃、ミーシアは一人入り江に訪れた。あれ以来ギャスターとは会っていなかった。世界を旅して周ると言っていたギャスターと、また再び入り江で逢えるとは思っていなかったが、ミーシアはギャスターの言葉少なな気性に、そして大御婆様を深く慕う時を超えた絆に惹かれる物を感じていた。

 夕日が入り江の水面を赤く染め、波打つ水面をキラキラと輝かせている。ミーシアは水面に向かってギャスターの名を叫んだ。輝く水面からは何の応答もなかった。ミーシアはしばらく水面を眺めていたが、変化のない水面を見て、肩を落とし、入り江に背を向け歩き出した。その時ミーシアの耳に「バシャーン!」と水飛沫が上がる音がした。ミーシアは足を止め笑顔で振り向いた。そこにはかつて分かり合うまで時間の掛かった、大きな黒い友達が頭を(もた)げ現れていた。

「ギャスター、帰っていたのね!」

 ミーシアは先程までの淋しさを忘れ、笑顔いっぱいに入り江の縁まで駆け出した。

 ギャスターが擡げた頭をミーシアに近付けた。ミーシアはその大きな黒く太い首に両腕を広げ抱き付いた。

    挿絵(By みてみん)

「しばらく振りだなミーシア」ギャスターも再会を喜んでいた。

「ええ、世界はどうだった?」

「ああ、入り江から出た世界は広かったよ! そしてワタシと同じ種族も世界にはまだ生息していたよ」

「それは良かったね。じゃあお友達が出来たのね」

「ああ。石版はすべて揃えたのか?」

「ええ、おかげさまでこの通りよ!」ミーシアは腰に差してある聖なる剣を抜いて見せた。

「あの方が持っていた剣だな。石版の宝とはその事だったのか……」

 ギャスターは大御婆様を懐かしむように言った。

「大御婆様にも会ったのよ」

「あの方と会えたのかっ⁉」ギャスターは嬉しさと驚きの入り混じった声を出した。

「ええ、私達の宿敵が現れた時、大御婆様が助けて下さったの。一瞬だったけどお会い出来たわ」

「あの方がミーシアを加勢するのなら、どうやらワタシにとってもミーシアの意志は、あの方の意志でもあるようだ」

「それって私達の力になってくれるという事……?」

「そういう事になるな」

 願ってもない申し出に、ミーシアは嬉しさのあまり心震わせ飛び跳ねた。

「で、敵とは誰だ?」

「私の父さんや母さんを殺したザルーラ国と、その一味の海賊団よ!」

「なに、ザルーラ国! ミーシアの兵力はどれほどあるのだ?」

「私の兵力と言えば紅鯨団一隻と、仲間達よ! あと……、ザルーラ国と敵対している国が、ラドゥール国とミンティア連合王国ね」

「ミーシア、ハッキリ言っておこう! ワタシはこれまで世界を周り七つの海を見て来た。その際ザルーラ国の艦隊に遭遇した事が何度かあったが、ザルーラ国は次々に各国を制圧して支配下に置いている。今やその数は三百隻を優に超えている。ミーシア、お前が思っている以上に敵は巨大だ! まずミーシア、連合軍を結成しろ! 恐らくザルーラは艦隊を組んで敵対する国を近い内に鎮圧(ちんあつ)に向かうだろう。ワタシはそれまでもう一度世界を周り、仲間を集めて戻って来る。世界にいるワタシの仲間が一つになれば、それはそれで一つの巨大な力となるだろう」

 ミーシアは改めて敵の巨大さを知った。自分自身敵の巨大さを知らぬまま、現状を把握せず恋愛の事で落ち込み、自身の甘さに反省するばかりだった。

「解ったわギャスター! でもギャスター、私出航していたら、私の居る場所が解らないんじゃない?」

「心配には及ばない。ワタシの事を想ってくれる心が、指輪からワタシには届くのだ! あの方が当時指輪を嵌めていた時は、あの方の愛がいつも感じ取れた。何処に居てもワタシは指輪の発する愛を感じ、ミーシアの居所はすぐに解るのだ! 今日ミーシアが入り江にワタシに会いに来ようと思った時から、ワタシは入り江を目指し、ミーシアに会いに来たのだ」

「そうだったの。大御婆様の指輪ってそんな力もあるのね。私ビックリしちゃった!」

「いいかミーシア、しばしの別れにまたなるが、今は共に立ち向かう同士を募るのが先決だ!」

 ミーシアは意志を示すように固く頷いた。

 互いの目的は一つ、仲間を集める事。ミーシアとギャスターは、しばしの別れを次に会える喜びに代えて、心熱く入り江で別れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ