第二十六章 『聖なる剣』
待ちに待った限られた月の日が訪れた。
ミーシアはある悩みを抱えていた。それは意を唱えて、もしも聖なる剣が手にする事を認めてくれなかったらと不安に駆られていたのだ。
「しかしミーシア、ほんと凄いよなぁ~、海賊船を一人でやっつけちまうんだから」
言ったのはトニーだ。
しかしミーシアは浮かない顔をしている。あの日の事を思い出す度、ピーターの事が頭から離れないでいるのだ。
ミーシアの思いが水面から伝わって来た。
(あれからピーターはどうしているのかしら……。私は片足のとうさんを喪った時、みんなの愛に包まれ淋しい思いはしなかったけれど、ピーターは自分が見ている前で母親を殺された。そして父親までも……)
横では船長も浮かない顔をしている。ピーターの事が気になっているのだ。ここ最近船長と共に生活をしていると、船長の事は手に取るように分かった。本当に素晴らしく優しい男なのだと……。
「ミーシア、ビッグママと潜水して船底に幾つも穴を開けたんだろ。よく息が続いたな!」
「……」ミーシアはピーターの事で頭がいっぱいなのか、トニーの話をまったく聞いていなかった。
「ミーシア、ミーシア。おいミーシア!」
「えっ、今何か言った?」
「これだよぉ~っ、最近ミーシアおかしいぞ! 何か悩み事があるならオレ達に相談しろよな」
「ありがとう。でも大丈夫よ」
こんな状態がここ最近続いていたのだ。
夕方子供達は用務員室に集まった。前回エリーザの件があった為、今回もカイルは同行していた。
「それじゃあ今から向かうが、今回は各自武装して行く事にしよう」カイルが言った。
子供達はあれから約一か月の間、カイルから剣の稽古をつけてもらっていた。子供達は熱心に稽古に取り組んだ結果、それぞれが驚くほど腕を上げていた。中でもゴッズ、トニー、デビットは、やはりやんちゃな盛りもあって上達は早かった。そしてミーシアはそれを上回るほど驚くべき進化を遂げていた。今ではカイルに五回に一回は勝てるようになっていたのだ。
武器を持って山を登るのも、スーザンはフレイムマウンテンではバテていたが、今回の登山はバテるどころか背中にリュックまで背負って登山していた。頂上に着くまでの掛かった時間も、前回に比べてその三分の二の時間で登り切った。
「みんな日頃の訓練の賜物ね!」ミーシアが言った。
「少し早く着き過ぎたが、みんなバラバラにならず固まって行動しよう」
カイルが辺りを警戒しながら言った。
一時間の時を潰すのは皆にとって緊張が続く合間だった。いつエリーザが襲って来るやも知れないと、子供達は背中合わせになって辺りを警戒しながら心臓を脈打たせていた。
そして時がやって来た。
「さあ、早く聖なる剣を手に入れて下山しよう」カイルが言った。
石版を校長先生がリュックから取り出すと、素早い手付きで石造の上端に嵌め込んでいった。
天井から射す神秘的な月の光に共鳴するかのように、石版からまたあの眩い光が射し始めた。
「現れたわよミーシア!」
剣が石版から姿を現すとカトレーナが声をかけた。
「意を述べよ。選ばれし者……」
厳格な剣の声が神殿に響いた。
ミーシアは不安を胸に言葉を発した。
「もう悪党達のせいでこれ以上悲しむ思いをする人達を見たくないの! 私は世界の平和の為に聖なる剣を手にして悪を討ちたい! どうか私に力を貸してちょうだい!」
ミーシアはドキドキしながら聖なる剣の次の言葉を待った。
「心得た、選ばれし者よ! 我をその手に世界を救え!」
聖なる剣の言葉を聞き終えたミーシアは、ホッと胸を撫で下ろした。ミーシアは手を伸ばし光の中の剣を掴んだ。その途端光は収まり、ミーシアは聖なる剣を手に入れた。
「やったぁ~ミーシア、とうとう聖なる剣を手に入れたのね!」
一番に喜びの声を上げたのはアリスだった。
子供達は歓声を上げミーシアに駆け寄った。
「さあ、これ以上ここに長居するのは危険だ! 早くこの山から下山しよう!」
喜びあう子供達の中、カイルが険しい顔付きで言った。
子供達はカイルの言葉に従い素早い動きで神殿を後にした。
夜空にキラリと光る二つの赤い眼が、ミーシア達を憎むような眼つきで睨んでいた。
「大御婆様、あの光る眼はもしかしてッ?」エレーナの声は恐怖に震えていた。
「恐らくエリーザだろう。だがエリーザはわしと聖なる剣を警戒しておるのじゃろう。しかしこのままじゃといつミーシアらを襲って行くやも知れん。それに跡をつけられミーシア達の所在地を知られてしまうのも困る。もう一度わしが行かねばならぬな!」
「わかりました大御婆様!」
「よし、わかったばあ様!」
私と船長はミーシアを無事帰還させる為、大御婆様を現世に瞬間移動させる事を強く泉に願った。刹那、大御婆様は泉に吸い込まれた。
神秘的な月が夜空に浮かぶ下方に、大御婆様は出現した。エリーザの近距離だ。
エリーザは大御婆様の持っておられる杖と同じような物を手にし、今にもミーシア達に襲い掛かろうとしていた。
「ここを通す訳にはいかぬ!」大御婆様がエリーザの行く手を遮った。
「老いぼれのお前に、果たして私を止められるかな」
エリーザは杖を一振りすると、杖から赤い光線を放った。
大御婆様も杖を一振りし、緑の光線をエリーザに向けて放った。
互いの光線がぶつかり合い「バァァーーンッ!」と大きな衝撃音を上げ、夜空に火花を飛び散らせた。子供達がその衝撃音と火花に気付き顔を向けた。
「見てあそこッ!」キャシーが指を差した。
空中を浮遊しながら二人の攻撃は続いている。
大御婆様は合間を見てミーシア達に向けて杖を振った。ミーシア達の姿が消えた。
「よくやったぁ~、ばあ様ぁ~ッ!」
船長が水面に向けてガッツポーズを執り叫んだ。
次に大御婆様が杖を反転させた。大御婆様の身体が消え行くと共に、そこにエリーザの赤い光線が過ぎ去った。
子供達は用務員室に瞬間移動していた。
「またミンティアの守護神に救われたな」カイルが言った。
ミーシアは口を結び険しい表情をしている。宿敵を前にして、まだ戦えない自分に憤りを感じていたのだ。他の子供達は恐怖に青ざめた顔をしている。
大御婆様が泉に戻って来られた。わき腹に怪我を負っていた。
「大丈夫かッ、ばあ様ッ!」
倒れ込んだ大御婆様を船長が抱き上げた。
「あぁ、心配ない。ただのかすり傷じゃ」
「その割には辛そうな顔しているぜ!」
言った船長も辛そうな顔をしている。言葉以上に大御婆様の事を心配しているのだ。
「本当に私達あの化け物に勝てるのかしら……」スーザンが不安に声を上げた。
「スーザン、俺がその内もっと強くなってやっつけてやるよ!」ゴッズが励ました。
「期待しているわよ!」スーザンはそう言うと、口を固く結んで頷いた。




