第二十五章 『新たな思い』
「しかしあの火口から出てったドラゴン見たかよぉ~、めっちゃカッコ良かったよなぁ~!」トニーが男の子達に言った。
「はい、あんなのとミーシアが話をしていたなんて、考えただけでも驚きです」
マーカスが舵を取りながら言った。
「もしもミーシアが聖なる剣を手にしたら、あのドラゴンの背に乗れるんだろ? 俺もミーシアに頼んで乗せてもらえないかなぁ~」
普段から無口なデビットも、やはり男の子だけあってドラゴンには興味深々だ。
「ドラゴンの丸焼きってどんな味がするのかなぁ~」
「ゴッズ、お前それミーシアの前で言うなよッ! ミーシア絶対怒るからなッ!」トニーが窘めた。
一行はミンティアを出航し、故郷の島、クイーンローズ島に航路を進めていた。
ミンティア城からミーシア達が戻った時の乗組員達の安堵した表情は、まさに両親が見せる表情そのものだった。その日はもう一晩ミンティアの港で碇泊し、夜は料理長の作った豪勢な食事に皆舌鼓を打ち、ミーシアと炎王の話で遅くまで宴は盛り上がった。締め括りはやはり赤鼻のじいさんの裸踊りだったが、その夜は誰も赤鼻のじいさんを止める者はいなかった。
三日目、船は灼熱の太陽の下、航路を変える事なく進んでいたが、カイルの厳しい剣の修行の後、ミーシアがマストに上り、遠くを眺めていた時にある物を見付けたのだ。
「あれ何かしら……」
ミーシアは一旦マストから下り、ジミーに遠眼鏡を借りてもう一度マストを上った。そしてマストの一番高い位置まで来ると、ミーシアはすぐさま遠眼鏡を覗き込んだ。しかし遠眼鏡を覗き込むや否や遠眼鏡を下ろし、甲板に下りるため慌ててロープを掴んだ。遠眼鏡に映し出されたその光景は、ある海賊船が今まさに民間船を襲おうとしていたのだ。
「ジミーッ!」
ミーシアがマストからロープを伝って下りて来た。
「どうしたんだミーシア」ジミーが尋ねた。
「あそこを見て」
ミーシアが遠眼鏡をジミーに渡すと、ジミーは素早くレンズを覗き込んだ。
「このままじゃ、あの民間船ヤバいな!」
「ジミー、私あの船助けたいッ!」
「しかしミーシア、俺達だけならまだしも、ミーシアの友達まで乗っているんだぞ。もし万一の事があったら、俺達親御さんに顔向け出来ねえよ」
「でも私……」ミーシアは悩んでいたが、「そうだっ! 絶対に安全ないい方法があるわ!」と、この時ミーシアが名案を思い付いたのだ。
「どういう事だミーシア」
「ジミー、何か厚い木に穴を開ける物を貸してくれない」
「それだけでいいのか?」
「ええ、それだけで事は済むわよ。まあ見ていて!」
ミーシアは秘策の笑みを浮かべ水着に着替えた。乗組員達も甲板に集まり出した。
海賊の事をまだ知らない子供達は、
「ミーシア、どうして水着に着替えているの?」と首を傾げている。
ミーシアはジミーから手開け式ドリルを受け取ると、船縁に駆けながら「ビッグママッ!」と叫んだ。ビッグママが海面に浮上する前に、ミーシアはドリル片手にライフパルス号から飛び降りた。子供達は船縁まで急いで駆け出し、船縁の手すりを掴むとすぐに海面を覗き込んだ。子供達の視線の先には、ミーシアを背に乗せたビッグママが海面から浮上していた。
「いいビッグママ、私の言う通りに泳いでね」
その後ミーシアは、ビッグママにしか聞こえない小さな声で何か言うと、ビッグママは素晴らしく早いスピードで、北北西の方向に泳ぎ出した。
「ミーシア、何しに行ったんだ?」赤鼻のじいさんがジミーに尋ねた。
ジミーは返答に困っていたが、赤鼻のじいさんに事情を説明した。
「バカ野郎ッ! ミーシア一人で行かせるなんてッ!」
ジミーは赤鼻のじいさんから雷のようなお叱りを受けた。
「マーカス、北北西の方向に舵を切れッ!」赤鼻のじいさんが素早く言った。
「みんな武器を取れッ!」
「どうしたんだ?」ボーゲルトが尋ねた。
「どうしたもこうしたもあるかッ! ミーシアが一人で海賊をやっつけると言って行きやがったんだッ!」
「えぇぇぇぇぇぇぇ~~~~~~~ッ!」
皆、顎が外れそうな程あんぐりと口を開けて驚いている。
男達は素早く戦闘準備を整えた。
しかしライフパルス号が現場に着いてみると、もうすでに海賊船は沈没していた。
「ミーシア、一体どんなマジックを使ったんだ?」
飲んだくれのジョンが、船の上からビッグママの背に乗るミーシアに尋ねた。
「その前に溺れている海賊達を助けないと」
「そんな奴らを助けるのか?」
「ええ、命は尊いものよ。お縄にして民間船に乗せて連行してもらいましょう」
男達はミーシアの指示に従い、次々に海賊達を救助し、そして縄で縛り付け、民間船に横並びして海賊達の身柄を引き渡した。ミーシアも一度民間船に乗船した。この時ミーシアの瞳に、五才くらいの男の子が甲板に座り込み、両指を目に当て泣いているのが映った。
「どうしたのボク? 痛い所でもあるの?」
ミーシアも男の子の横に屈み込み、男の子の背に手を当てやさしく尋ねた。
男の子は泣き止まなかった。近くで立っていたご婦人がミーシアに事情を説明してくれた。それはとても悲しい出来事だった。海賊船が船を寄せて来た時、海賊達が発砲する流れ弾に母親が当たり、母親はすぐに医務室に運ばれたが、まもなくして息を引き取ったのだという。そして男の子は父親を探しに医務室から走って来たが、父親の姿が見つからないので泣いていたのだ。
「ボク名前は何て言うの?」
ミーシアがもう一度やさしく尋ねた。
男の子は咽び泣きながらピーターと答えた。
「ピーターのお父さんはいませんか?」
甲板にいる人達が手分けしてピーターのお父さんを探したが、ピーターのお父さんは見付からなかった。人ごみの先で俯せになり息を引き取っていたのだ。体には母親と同様に、銃弾が数発撃ち込まれていた。
ミーシアは、まだ屈み込んで泣いているピーターに事実を伝えられなかった。ピーターの悲しみがミーシアには痛いほど理解出来た。ミーシアの心はピーターと自身を重ね合わせ、今まさに船長を亡くした頃のとても悲しい思いに打ち拉がれていた。
「ピーター、無事だったのかい!」
そのとき人ごみを掻き分け老婆が駆け寄り、ピーターを強く抱きしめた。祖母である事は間違いなかった。それでもミーシアは手放しで喜べなかった。
ライフパルス号は航路を再びクイーンローズ島に戻し、大海原を、帆に風を受けて海面を進んでいる。甲板に立ち水平線を見つめるミーシアは、幼いピーターを思い、やり切れない気持ちになっていた。
これ以上私のような子を増やしてはいけない……。ミーシアは固く心に誓うのだった。




