第十三章 『穴蔵』
晴天に恵まれた明くる日、早朝に学校前に集まった六人は、早速持って来た物を確認しあった。
「山に入るにはそれ相当の準備が必要です。山を甘く見てはいけません。最低限の登山グッズはぼくが一通り揃えて来ました」
「さすがマーカスね!」キャシーが言った。
マーカスは顔を真っ赤に染めた。
「集まったかの?」
声のする方に子供達が振り向くと、そこには校長先生がリュックを背負い近付いて来る所だった。
「校長先生!」子供達が声を揃えた。
「先生も仲間に加えてもらおうと思ってな」
やはり子供達だけでは心細かったのか、校長先生の言葉に子供達の顔に笑顔が広がった。
「先生が加わってくれるのならもう財宝は見つかったも同然ね!」
キャシーが嬉しそうに元気良く言った。
「これこれキャシー、まだそれは早かろう」
校長先生がにこやかに答えた。
「ところで君達は、呼び笛は持って来とらんだろ?」
「呼び笛ですか?」
「そうじゃ、もし万一の事があった場合やバラバラになって逸れた時には、笛を鳴らし仲間を呼ぶ為の物だよ。一つずつあるからみんな首に掛けなさい」
それぞれが校長先生から笛を受け取ると、みんな素直に首に笛を掛けた。
「それじゃあ向かうとするかの」
「はい!」元気良く子供達が声を揃えた。
ラティス山の麓に着くと、先生とマーカスを班長とする二つの班に別れた。マーカスの班はミーシア、それにカトレーナとスーザン。校長先生の班はキャシーとアリスだ。
「それじゃあ何かあったらすぐに笛を鳴らすのだよ」
「はい先生!」
みんなで話し合った結果、マーカス班は西側、校長先生達は東を探す事になった。
私は水面を二分して二つの班の動きを同時に映し出してもらった。
「ミーシア、それで上手くいったの?」聞いたのはスーザンだった。
「えっ?」
「だからほら、例の絵を見せたんでしょ?」
「その事なんだけど……。昨日はもう遅かったし、山に入ってから鳥さんたちに聞こうと思って、だからこれからなの」
先頭を歩くマーカスに聞こえないよう二人は小声で話した。
「そうなんだぁ~。それじゃあ後で私がマーカスを誘い出すから、その間に鳥たちを呼び出すといいわ」
「ありがとうスーザン」
一方校長先生達は、
「さて君達はどう古代文字を探すつもりかな?」
「わたし思うんですけど、闇雲に探してもこんなに広い山だし、埒が明かないと思うんです」とアリス。
「で、どう探そうと思っているのだね?」
「今までに見つかった石碑は目に見える所にあったと聞きますが、だから目に見えない所、つまり何かの下敷きになっていたりだとか、誰も発見した事のない洞窟の中だとか、そういった所を探すのがいいと思うんです」
「なるほど。つまり文字を探す前に発見されてない場所を探すという事だね」
「はい」
「先生もそれは大いに賛成だ!」
校長先生の言葉にアリスが顔を綻ばせた。
「マーカス、わたしたちはここから右を探しに行かない?」
「いいですけど、他の皆さんは?」
「それじゃあ私達は左を探してみるわ!」
ミーシアが言った。スーザンはミーシアとカトレーナにウインクした。
「わかりました。何かあったらすぐに笛を鳴らして下さいね」
こうしてマーカスとスーザン。ミーシアとカトレーナに別れた。
私は水面を三分割に替えた。
マーカス達から離れたミーシアは、早速一羽の鳥に話し掛けた。
「鳥さん。ちょっとお友だちをたくさん集めて来てくれないかしら……」
一羽の鳥が小枝から飛び立つと、まもなくして小鳥の大群がミーシアの前に集まった。
「すごぉ~いミーシア、いつ見てもあなたの能力には驚かされるわ!」
カトレーナは大群の小鳥たちを前に嬉しそうだ。
「モグラさんたちも出て来てくれないかな?」
地面に向かってミーシアが声を掛けると、しばらくしてモグラたちも地面からひょっこり顔を覗かせた。木と木の間からはシカも数頭現れた。草むらからは野兎も数羽顔を覗かせた。
「あなたたちにお願いがあるの……」
「オイラたちの言葉がわかる人間の言う事なら、聞かない訳にはいかないな」
と一羽の小鳥。
「ワシらにお願いとは、いったいなんだね?」
年老いたモグラが言った。
ミーシアはリュックから、昨日描いた石版の絵を取り出し動物たちに見せた。
「こういった物を探しているの。あなたたち見たことなくって?」
「あるような無いような」
そう言ったのは年老いたモグラだ。
「これと同じ物でなくてもいいの。この絵の中に書かれている文字が刻まれた物なら何だっていいわ。それを探して来て欲しいの」
「おやすいご用だ!」
言った直後鳥たちは飛び立った。
「任せておきな!」
モグラも穴に潜った。
「よし、仲間たちに言って手分けして探してやるよ!」
野兎もぴょんぴょん飛び跳ね草むらの中へ消えて行った。
「ちょっと待ってな!」
シカたちも軽快に地面を蹴ると姿を消した。
「いまだに今見たことが信じられないわっ!」
動物たちの借り物競争が目の前で始まったとでもいうように、カトレーナは驚きに目を丸くしている。
水面を三分割した一つはマーカスとスーザンが映っている。その二人の歩くずっと後方に、黒い影が映って見えた。私はその影を映すよう真実の泉にお願いした。
黒い影の正体は、イジメっ子のトニー達だった。ミーシア達が街を通って山まで来る道中に、偶然マーカスを見つけたトニーが、腰巾着らとこっそりみんなの後を付け、そしてマーカスが単独になる機会を窺っていたのだ。
「スーザンの野郎、どっか行かないかなぁ~」
草むらの影からトニー達はチャンスを窺っていた。
「でもスーザン一人なら、おれたちだけでも大丈夫じゃないかトニー」
トニーの腰巾着デビットだ。
「おれもそう思うよトニー」
もう一人の腰巾着ゴッズだ。
「よしっ、それじゃあこの前の礼をたっぷりと返してやるとするか!」
トニーが薄気味悪い笑みを浮かべながら言った。
三人はマーカスとスーザンに気づかれぬよう、静かにこっそりとマーカス達の背後に近付いた。
二人はトニー達には気づかず、冗談を交えながら草むらを掻き分け古代文字を探し合っていた。
「でもマーカスこんな所を探して本当に見つかるのかしら」
「何事も成せば成るですよ!」
「茄子はわたし大好物よ」
「いや、茄子は成るじゃなくて、成せば成るです」
スーザンの冗談を真面目に受け答えするマーカスを他所に、スーザンが突然話しを切り替えた。
「あれっ、今草が揺れた音がしなかった?」
スーザンが言った直後、二人の背後で声がした。
「おいっ、泣き虫マーカス!」
二人は即座に振り返った。
「なんであんたたちがここに居るのよ」
「うるさいッ、黙ってろミスター・スーザン!」
「失礼ねッ! ミス・スーザンよッ!」
「黙ってろと言っただろッ! いいかマーカスッ! この前の礼はキッチリ払わせてもらうからなッ!」
トニーが威嚇するように拳を握り、重ね合わせた掌で拳の指を鳴らした。それに続きトニーの腰巾着二人も、威嚇するように拳の指を鳴らした。
マーカスとスーザンは青ざめた。トニー達に青ざめたのではない。トニーの背後に居る黒く大きな生き物に青ざめたのだ。
「こいつらビビッてやがるぜ!」トニーが腰巾着二人に言った。
「スーザン、絶対走って逃げちゃダメだよ!」
「ええ、知ってるわ! 逆効果なのよね」
マーカスは生唾を飲んだ。
「はい、トニー達が逃げ出さないかそれが心配です」
「なにッ、おれたちが逃げ出すだと? 言ってくれるぜ泣き虫メガネくん!」
「あなたたちよく聞いて、絶対振り向いて逃げ出したりしちゃダメよ!」
「おれたちの後ろに何があるって言うんだい? ミスター・スーザン?」
「この際ミスターでもミスでもどっちでもいいから、とにかく後ろを振り向いて逃げ出さないって約束して」
「おれたちが逃げ出す……」
トニーは言葉を吐きながらゆっくりと後ろを振り返った。その途端トニーの顔色がみるみると青ざめていった。二人の腰巾着はトニーの表情を見てただ事ではないと感じたのか、腰巾着二人も恐る恐るゆっくりと振り向いた。
「ギヤァァァァァぁぁぁぁぁ~~~~~~ッ!」
振り向くと同時に腰巾着二人は驚愕の叫び声を上げた。振り向いた先には、後ろ肢で直立する大きなクマが、前肢の肉球を子供達に向けて立っていたのだ。
「今何か聞こえなかった?」
カトレーナが言った直後ミーシアは駆け出していた。
ミーシアはシカのような跳躍で倒れている木を飛び越え更に足の動きを速めた。ようやく叫び声がした辺りまでミーシアは来てみると、そこには、クマの前で腰を抜かしてヘナヘナと座り込むイジメっ子三人組と、その後方に彫刻のように固まっているマーカスとスーザンの姿があった。
「襲っちゃダメェェェェぇぇぇーーーーーーッ!」
ミーシアは叫びながら更に走った。腰を抜かして座り込む三人の前にミーシアは立つと、通せんぼするように大きく腕を開いて大の字にクマの前に立った。
「クマ聞き悪いなぁ~お嬢ちゃん。あたしは最初から襲うつもりもなけりゃあ~、お腹を空かせている訳でもないわよ。この子たちがわたしを見て驚いて腰を抜かしただけよ」
ミーシアは伸ばしている腕を降ろした。
「大丈夫よあなたたち。襲ったりしないって言ってるわ」
「ミーシアが言うなら間違いないわね!」安心したスーザンはホッと溜息を吐いた。
「えっ、どういう事?」マーカスがスーザンに尋ねた。
「もうミーシア言っても構わないでしょ?」
「ええ、もうバレちゃったし仕方ないか!」
腰を抜かしたイジメっ子三人組は、まだ目の前のクマに動けないでいる。
「ミーシアはね、動物たちとお話が出来るのよ」
「ウソでしょ! まさかそんな事が……」
「ごめんなさいマーカス。そのうち話すつもりだったのよ」
マーカスに向けてミーシアは、すまないとばかりに顔の前で両手を合わせた。
「いや、そんなのは気にしていません。ですが驚いたなぁ~っ!」
腰を抜かしている三人も、徐々にミーシア達の会話が呑み込めて来たようだ。
「ミーシア、大丈夫?」カトレーナも駆けつけた。
「大丈夫よカトレーナ」
「あなたったら本当に足が速いんだから。あらっ悪ガキ三人トリオじゃない。どうしてあなたたちがここに居るのよ」
三人はクマに遭遇した恐怖から失禁していた。
「あらっ、お漏らししちゃったの? ズボンが濡れているわよ!」
カトレーナが言うと、三人は手で股を隠した。
「このこと学校中にバラしちゃおうかなぁ~」
「いやっ、待ってくれっ、待ってくれっ! それだけは勘弁してくれっ!」
焦りを露わにトニーが訴えた。
「じゃああなたたち、これからマーカスをイジメないって約束するなら、みんなにバラさないでいてあげるわ!」
「もちろんだとも、ミスター、いやっ、ミス・カトレーナ!」
「いいわ、黙っといてあげるわ! あっ、あとミーシアが動物と話せることも人に言っちゃダメだからね!」
「わかった。ミス・カトレーナ!」
「それはそうとミーシア。さっきの場所に早く戻らないと、さっきの子たちが帰って来ちゃうわよ」
「それもそうね。クマさんゴメンね逆に脅かしちゃって」
「そんなの構わないわよ」
「それじゃあみんなでさっきの場所に戻りましょうか」
「さっきの場所って?」マーカスが尋ねた。
「ちょっとね、行けばわかるわ」ミーシアは愛想よくマーカスに返答すると、次はトニー達の方を向いて、「あなたたち立てるのならもう帰りなさい!」と無愛想にトニー達に言った。
「それが~、腰が抜けちゃってまだ無理なんだぁ~っ……」
トニーが情けなさそうに力なく言った。
「困った人たちね。でもこのまま放っておく訳にもいかないしなぁ~」
「それならあたしの背中に三人を乗せてあげるわよ」
ミーシアの話す言葉から事情を汲み取ったクマさんが、親切に名乗り出てくれた。
「いいの、クマさん?」
「ああ、いいわよ」
「クマさんが背中にあなたたちを乗せてあげるって!」
「おれたちクマの背中に乗れるの?」
トニー達はクマに対してまだ少し恐れていたが、クマの背に乗れるとあって、恐れが徐々に喜びに変わっていった。
「それじゃあトニー、さあ、肩につかまって」
ミーシアに肩を貸されたトニーは、女の子に肩を貸されて恥ずかしいのか情けなそうな顔をした。トニーがクマの背に乗ると、デビットとゴッズは早く乗りたそうな顔した。
「うわぁ~、おれたちクマの上に乗ってるよぉ~っ!」
「信じられねぇ~っ!」
トニー達は生まれて初めての夢のような体験をしたのか、オシッコをちびった事などもう忘れていた。こうしてトニー達を背中に乗せてくれたクマさん一行は、ミーシア達が動物たちと合流する地点へと向かった。
合流地点ではシカと野兎たちが集まっていた。まもなくして大群の小鳥たちが舞い降りた。その光景はまさに神秘的な光景だった。
「それでみんな何か見つかった?」
シカ、野兎、小鳥たちが一斉に答えたので、ミーシアは聞き取れなかった。
「ちょっと待って、順番にお願い! じゃあまずシカさんから報告してもらえる?」
「これだろ!」
シカが口に銜えて持ち帰ったのは、いくつかに割れた薄っぺらい石版だったが、残念な事に探している物ではなかった。しかし繋ぎ合わせてみると一つの文章が形成できた。
「これは初めて見る文字の内容ですね。四つ目の石版の在り処だと思うのですが、所々欠けているので上手く読めませんが、数字の『四』と『地中深く』とあります」
「ありがとうシカさん、大変役に立ったわ!」
「そりゃよかった」
「すごいでしょミーシアわ!」スーザンがマーカスに言った。
「こんなに早く発見されていない文字を持ち帰るなんて、すごいの一言では収まり切れませんよ!」
スーザンもカトレーナも自身が褒められているように鼻高々だ。
クマの背中で眺めているトニー達は、
「ミーシアってすげえなぁ~っ!」
と感心しっ放しだった。
「それじゃあ次はウサギさんたちね」
「オレたちが見て来た文字はだな」
野兎たちは、それぞれどの文字を覚えて帰るか役割を決めていたようで、一列に並ぶと前から順に、前歯を使って木の幹に覚えた字を彫りだした。最後の一羽が彫り終わると、一つの文章が出来上がった。
「これはですね、現在発見されている石碑のようですね。内容はラティス山に眠る人の名前が書かれた、まあ言ってみれば墓標のような物です」
「なんだオレたちのは役に立たなかったのか?」
「そんな事ないわ、大変役に立ったわよ。ありがとねウサギさんたち」
ミーシアは、ウサギを気遣いウソを吐いた。
「いいって事よ」
「さあ、次は小鳥さんたちの番よ」
「オイラたちもちゃんと覚えてきたぜ」
嘴を器用に使って、小鳥たちは地面に文字を書き始めた。
「よし、出来た!」
やはり小鳥たちも結果は同じだった。ラティス山に大昔建造物があったであろう事が書かれた石碑を、それぞれが手分けして覚えて来てくれたのだ。
「ありがとう小鳥さんたち」
小鳥はその言葉を聞くと一斉に飛び立った。大群の小鳥たちが飛び立つ様は、まさに壮観な眺めだった。小鳥たちが行ってしまうと、シカたちも野兎たちも「じゃあまたな!」と、それぞれミーシアに一言いってその場から去って行った。
「後はモグラさんたちね」
「この『地中深く』という文字があるだけに、モグラたちには期待が持てますね」
マーカスは、シカたちが持ち帰った石版をリュックに仕舞い込みながら、ミーシアに話しかけた。
「ミーシア、何を探しているんだ?」突然トニーが割って入った。
「それよりあなたたちまだ歩けないの?」
「あぁ、もう少し待ってくれっ!」
トニー達はとっくに立てるようになっていた。水面に触れてトニー達の心を読むと、こんなクマの背中に乗れるチャンスなんて滅多とないぜ! 少しの間黙っておくか。と三人が口裏を合わす事なく同じ事を思っていたのだ。
「地面が盛り上がって来ましたよ!」
マーカスが言った直後、ひょっこりと顔を覗かせたのは、先程の年老いたモグラだった。
「老体にあんな重い物は堪えるわい」
わっせ、わっせ! と続けて出て来た若いモグラたちが、みんなで石片を地上へと押し上げた。
「あれはッ!」
マーカスが叫んだ。形からいってミーシアの描いた絵にそっくりだった。皆の期待も高まった。
「これで合っとるといいのじゃが……」老体モグラが言った。
「見せてもらうわね、モグラさんたち」
ミーシアが手に取りマーカスに手渡した。
「実におしいですねぇ~。形はそっくりなのですが、字はただのひび割れですね」
「はぁ~」女の子達はマーカスの言葉で期待が高まっていただけに、ガックリと首を折り落胆の溜息を吐いた。
「どうやら違ったようじゃの」ミーシアの項垂れた仕草を見て、年老いたモグラが言った。
「ええ、でもモグラさんたち、本当にありがとうね!」
「なに、また用があったらいつでも言ってくれ!」
ミーシア達が手を振る中、モグラたちは地中へと潜って行った。
「さっきから見ているけど、それと同じ物を探しているのかい?」
トニー達を背中に乗せたクマが不意に聞いて来た。
「ええ、こういったやつを探しているの」ミーシアはポケットから絵を取り出した。
「それならわたしの穴蔵の壁に埋まっているわよ」
「えっ、本当クマさん?」思いがけないクマさんの言葉に、ミーシアは、突然プレゼントを差し出された時のような顔をした。
「あぁ、ただし似ているだけかも知れないけどね」
ミーシアの表情に希望の光が射し、再び笑顔を取り戻した。
「案内してもらえる?」
「もちろんいいとも」
こうしてミーシア達は期待に胸を膨らませ、お荷物ではあるがトニー達をクマの背に乗せ、クマの穴蔵へと向かったのだ。
「先生あそこに洞穴がありますけど」アリスが言った。
「迂闊に近付いてはいかん! クマの穴蔵かも知れんからのぉ~」
「でも、もうキャシーが入って行きましたけど」
「なんじゃとっ! アリスはここで待っていなさい!」
校長先生は躊躇う事なくキャシーの後を追い駆けた。
「キャシー大丈夫か?」
穴の中ではキャシーが、二匹の小熊と無邪気に戯れ合っていた。
「あら校長先生、見てこの子たちかわいいでしょ!」
「キャシー呑気な事を言ってないで今すぐここを出なさい!」
「あらどうして」
「どうしてもこうしてもないわい、母熊が帰って来るかもしれんのだぞっ!」
校長先生はかなり焦っているご様子だ。
「でもこんなにかわいい小熊のお母さんなら、きっとやさしいお母さんよ」
「何を悠長な事を言っておる!」
一方穴の外では、
「あらミーシア、クマさんもお友達になったの?」
「ええ」
「でもなんでその子たちが居るの?」クマの背中を目にしたアリスが尋ねた。
「ちょっとね。また後で説明するわ。それより先生とキャシーは?」
「あっ、そうだった! 先生驚くだろなぁ~。先生とキャシーならあの穴の中よ」
「さあ、あなたたちはここで下りて」ミーシアが、クマの背に乗るトニー達に言った。
「仕方ねえなぁ~」トニー達三人は、ひょいとクマの背中から飛び降りた。
「あなたたちもう歩けるじゃない、ウソ吐いていたのね!」
「いや、それはその~」
「まあいいわ! それよりクマさん。例の物見せていただける?」
「ええ、もちろんよ。付いておいで」
穴の中では、
「さあキャシー、もう行こう!」
「わかりました」
二人が穴を出ようと振り向いたその時、穴の入り口に、太陽の光を背にした大きなシルエットが穴を塞ぐように現れた。
「キャシー、わしの後ろに居るのだぞッ!」校長先生は焦りながらも生徒を守る為に覚悟を決めていた。しかしそんな緊迫した場面に、
「キャシー、校長先生」とミーシアの声が聞こえたのである。
「その声はミーシアか?」
私は水面にずっと手を触れていたので、この時の校長先生の心境は、大変驚いたのを知っている。クマに襲い掛かられると思い込んでいた所に、何事もなかったようにミーシアの声がしたからだ。
先生は穴からキャシーと共に外に出ると、更に驚く事となった。ミーシアがクマの体に手を掛け、平気な顔をして立っていたからだ。
「これはまたどういう事だ!」目を丸くした校長先生がミーシアに尋ねた。
「黙っていてごめんなさい校長先生。わたし動物とお話が出来るんです」
「……」校長先生は、理解するのにしばし時間が必要だった。
ミーシアは先程の一連の事情を校長先生に話すと、
「それじゃあこの中に石版があるやも知れんという事かね?」
「はい、そうなんです。さあクマさん案内してもらえる?」
母熊を先頭に、ミーシア初め子供達が後に続いた。
「あなたたちの探している物だといいんだけど……。ほらあそこの壁よ」
ミーシアは期待に胸を膨らませ、希望に満ちた表情で壁へと駆け寄った。
「マーカス見て、本物の石版よ!」
「確かに間違いないですね!」
そこには、壁の表面に埋め込まれたように石版があった。
「やりましたよみなさん!」マーカスの一言に子供達も大喜びだ。
マーカスはヘラで丁寧に石版を掘り出すと、刷毛を用いて古代文字が読めるよう砂を落とした。
「先生、『意を述べよ』と書いてあります」
マーカスは早くも古代文字を読み上げ興奮気味だ。
その日校長先生初めミーシア達女の子、それにマーカス、加えてトニー達三人も、興奮して遅くまで寝付けなかった。
満天の星空に、お月様がやさしい光を放つそんな夜だった。
海賊姫ミーシアとは別に、コメディータッチの自伝、
レッツ ゴー トゥ ザ NY ウィズ 岸和田㊙物語シリーズ1『武士はピンク好き 編』
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作者 山本武より!




