第十一章 『石版』
明くる日の朝学校に行くと、ミーシアの机の上には落書きがされてあり、机の中にはゴミが詰められていた。
「誰よこんな事したのはッ!」それを見たキャシーが怒りに大声を上げた。
部屋の隅にいたトニーは、ざまあみろというような顔付きで薄気味悪い笑みを浮かべていた。
「あなたたちねッ、こんな事したのはッ!」
透かさずキャシーがトニー達に言ったが、何か証拠でもあるのかと逆にトニーはキャシーを攻め立てた。
私は時間を遡り水面に犯人を映し出した。すると卑怯にもトニー達は自分で手を下す事はせず、マーカスを脅してすべての事を実行させていたのだ。
キャシーはこの件を調査するよう先生に訴え、先生は「勿論犯人は捜します」と言ったが、見ていた者も居ないので捜査は八方塞がりだった。
ミーシアは珍しく気が滅入っていた。昨日遅くまで『ミンティアの神話』を読んだが、自分が疑問に思った事の答えは得られなかったからだ。その上朝から机の落書きにゴミ事件だったのでひどく落ち込んでいた。
「ミーシア気を落さないで、わたしたちが落書きを落とすから」
キャシー達は一丸となって落書きを落とし、中のゴミまでミーシアのために掃除してくれた。私は母親として、本当にこの子達に感謝していた。
休み時間ミーシア達は、用務員室に遊びに行った。そこで朝の出来事を校長先生に話してくれたのはキャシーだった。
「そんな事があったのかい。ミーシア、落ち込んではダメだよ! 犯人の思う壺だからね」
校長先生は優しく気遣って下さった。
「はい」力なくミーシアは言ったが、実際のところ用務員室に来た時には、落書き事件より自身の出生の方が気になっていた。生まれてこの方、一度もそんな事は考えた事のないミーシアが、本の紋章を見た時から様々な疑問が湧き始めていたのだ。
九才になれば母親の事も気になる年頃だ。水面に触れる私の手の平からミーシアの孤独な不安は何を意味するのか感じ取れた。
「さあ、今日はハーブティーをお飲み。心が落ち着くよ」
校長先生は今日も五人に美味しいお茶を振る舞って下さった。ミーシアは勧められるままにお茶を一口飲んだ。温かいハーブティーがミーシアの喉を潤し、ミーシア自身、心が少し落ち着いて行くのが解った。
「元気が出たかね」
「はい」この時ミーシアは、校長先生に船長の面影を重ね合わせていた。
(今頃片足のとうさんはどうしているだろう……)
キャシー達の会話が弾む中、ミーシアの心の内は、遠く海を隔てた海賊船に行っていた。
(ビッグママに会いたいな……)
「でね、わたしが思うにきっとあれはトニーの仕業よ!」
(ジミーと赤じいは今日も冗談を言い合っているのかしら……)
恋しさが募る反面、船長達の事を考えると、ミーシアの胸の内に少し元気が湧いて来るのだった。
昼休みミーシア達は急いでお弁当を食べ終えた。その理由は、昨日五人が正門前で別れる前に、明日の昼はプールで遊ぼうと約束していたからだ。
トロントもプールに誘ったが、「ブヒブウブウブウ!(残飯を残してなど何処にも行けない。おいらは職務をまっとうする勤勉なブタになるんだ!)」と一端な事を言っていたが、締まりのない口元からは早くもよだれが垂れていた。
そんなトロントの言葉をミーシアに通訳してもらったカトレーナが、「トロントちゃん偉いのね!」と一言褒めると、トロントは「ブウブウブブブウ~(おいらは仕事の鬼ですから~)」と謙遜しながらも、やはり口元のよだれは乾く事はなかった。
ウサギ小屋に着くと、ウサギたちは昨日と同じように今か今かと隊列を組んでミーシア達を待っていた。
(今日はちょっと遅かったじゃないか!)
「ええ、お昼ご飯は教室で食べて来たから」
(そうなんだ。で、今日はどこに連れて行ってくれるんだい?)
「今日はプールに行くから、その近くで遊んでもらえる?」
(どこでもいいよ、外に連れ出してもらえるのなら)
昨日と変わらない隊列を組んだウサギたちは、ミーシア達の後を列を乱す事なく小さなジャンプをして付いて行った。ミーシアにしか聞こえないが、ウサギたちは今日から行進の歌を歌い進んだ。先頭の白ウサギが軍曹のように歌うと、それを後の四羽がハモるといった、まさに軍曹行進マーチだった。
(♪オレたちゃ毎日小屋の中ぁ~)
(♪オレたちゃ毎日小屋の中ぁ~)
(♪日中熱いし死にそうだぁ~!)
(♪日中熱いし死にそうだぁ~!)
(♪週に二回の掃除の日ぃ~)
(♪週に二回の掃除の日ぃ~)
(♪今だとばかりに脱走だぁ~!)
(♪今だとばかりに脱走だぁ~!)
(♪だけども気が付きゃ小屋の中ぁ~)
(♪だけども気が付きゃ小屋の中ぁ~)
(♪糞が無いだけ喜ぼう!)
(♪糞が無いだけ喜ぼう!)
(♪だけども捕まる悔しさに)
(♪だけども捕まる悔しさに)
(♪今こそ本気で怒る時ぃ~!)
(♪今こそ本気で怒る時ぃ~!)
(♪クソッ!)
(♪糞ッ!)
(♪クソッ!)
(♪糞ッ!)
ミーシアは一人ウケていた。ウサギたちの進行マーチは、ミーシアの悲しい気持ちをひと時だけでも払拭してくれた。
「ミーシア、さっきから何笑ってるの?」
クスクスと小さな声を立てて笑うミーシアを見て、スーザンが尋ねた。
「だってこの子たちったら、歌を歌いながら行進しているんですもの……」
「そんなにおもしろい歌なの?」
ミーシアは、歌の歌詞をメロディー付きでみんなに教えてあげた。それを聞いたスーザン達四人もお腹を抱えて笑い合った。そんな楽しい行進マーチで盛り上がりながら運動場まで出てみると、隅にあるプールに誰かが立っているのが見えた。もう少し側まで近付いてみると、それは誰だかハッキリと解った。
「あれ~トニーたちじゃない?」
逸早く声に出したのはキャシーだった。
「あの子たち、また何か悪さをしているのね」
「やっぱり泳ぐのは今度にしましょうか?」
そう言ったのはカトレーナだ。
「でも何か様子がおかしいわよ!」
とこれはアリス。アリスが目にした光景は、マーカスがプール際まで追い込まれ、今にもプールに突き落とされそうな勢いだったのだ。
「ほっとけないわ!」
ミーシアは言った直後駆け出した。他の女の子達も後に続いた。
「お前ッ、おれたちを裏切るのかッ!」
トニーがマーカスの胸を突き、マーカスは後方によろけた。
「いや、だから僕はあんな事いけないって言ってるだけじゃないかっ!」
普段から無口なマーカスが、珍しくトニー達三人に歯向かっていた。
「ちょっとあんたたち止めなさいよ!」キャシーが離れた所から叫んだ。
「うるさいッ、ブスは黙ってろッ!」遠くから叫ぶキャシーに顔を向けてトニーは言うと、また正面のマーカスに顔を戻し、「お前なんかこうしてやるッ!」と、トニーは両手でマーカスをプールへと突き落とした。マーカスは本を片手に持ったまま、背中からプールへと転落してしまった。
「行こうぜお前ら!」
トニーは二人の腰巾着を従えて、そそくさとその場を離れた。
マーカスはプールの底に足も届かずあっぷあっぷともがいている。そんなマーカスを見て、ミーシアはプールサイドを横切り一目散に水の中へと飛び込んだ。マーカスまでの距離は七メートル程あったが、泳ぎに長けているミーシアはイルカのようなスピードのある泳ぎで、あっという間にマーカスの所まで辿り着くと、マーカスの背中から両腕を回し「力を抜いて」と優しく言った。マーカスがプールサイドに上がったのはそれからすぐの事だった。
「何があったのマーカス?」
プールサイドで力なく座り込んでいるマーカスに、目線を合わすように屈み込んだキャシーが優しく尋ねた。
マーカスはずり落ちたメガネの下から涙を流して、ずっと俯いたままだ。
キャシー達は、マーカスが落ち着くまで事情を聴くのを待ってあげる事にした。
しばらくしてマーカスが話し始めた。
「ごめんなさいッ! ぼく、ぼく……」
「マーカス、わかったから落ち着いて話しなさい」
膝を折りマーカスの肩に手を掛け、カトレーナも優しく言った。
「本当にごめんなさいッ! あんな事ぼくしたくなかったんだッ!」
なおもマーカスは泣き続けている。
「でも、落書きとゴミを机に入れなきゃ、トニー達がこの本を破るって言って返してくれなかったんだ……」
泣きじゃくりながら力なく言ったマーカスの言葉で、女の子達は今朝あった事件の真相を理解した。
「それでさっきは、あんな事いけないって言って歯向かっていたのね」
キャシーが納得するように腕を組みながら言った。
「本当にごめんなさいミーシア……」
俯いたまま涙を流し謝罪するマーカスに、
「わたし気にしてないわ。それよりその大事にしている本、濡れちゃったね。わたしも本が大好きだからあなたの気持ちはよくわかるわ」
ミーシアはやさしく声を掛けた。その言葉に嬉しかったのかマーカスは更に泣き出した。
昼からの授業中、マーカスはクラスのみんなが居る前で、あれはぼくのした事です。と勇敢に告白し、罪を認め謝罪した。そして先生がマーカスを叱りつけようとした時、キャシーがみんなの前で真相を打ち明けた。
先生は「あなた達、ちょっとこっちへいらっしゃい!」とトニー達を廊下に呼び出し、それから職員室に連れて行ったが、その時間先生とトニー達は教室に帰って来る事はなかった。
女の子達がマーカスの席に集まりマーカスを取り囲んだ。
「マーカス、あなた見直したわ!」
キャシーがマーカスを激励すると、
「だってミーシアは命の恩人だもの、そんな人を裏切れないよ」
マーカスは言ってすぐ顔を赤らめ、照れ隠しに大好きな分厚い本で顔を隠した。
「この子ったら照れてるわ!」
キャシーの言葉に更にマーカスは照れ臭くなったのか、本からはみ出している耳が茹でダコのように真っ赤になっていた。
そのとき不意にアリスが、マーカスの手に持つ本のタイトルに目を止めた。
「その本って……。あなたその本に書かれている事って詳しいの?」
「えっ?」
マーカスがそーっと本の隅からメガネを覗かせ、アリスにきょとんとした目を向けた。
「だからあなたの手に持つ、『古代文字と財宝の在り処』って書かれた本よ!」
メガネの奥の呆気に取られた目玉が、キョロキョロと女の子達を窺い見ている。マーカスは思いもよらない質問に一瞬戸惑いはしたものの、自分のお得意の分野を尋ねられていると理解すると、途端に目を輝かせた。
「うん。ぼくの父さんは考古学者で、専門は古代文字なんだ!」本を顔の前から下ろして誇らしげに話を続けた。「ぼくも小さい頃から父さんの研究を見てたから、ある程度は詳しいよ。それにぼくはこの島の財宝についてもかなりの資料を集めて来たからね。おそらくこの島の財宝に付いてなら、この本の著者より詳しいかもね!」
普段口数の少ないマーカスが、これほどまで淀みなく話す所を見たのは、ミーシア以外の女の子達にとって初めての事だったのだろう。四人は意外だとばかりに驚いた顔をした。間を置いてアリスが話し出した。
「すごいじゃないマーカス! ぜひとも明日から調査を開始する財宝探しに協力してくれない?」
アリスの言葉にマーカスは嬉しそうに顔を綻ばせた。
「それいいわね!」
キャシーも賛成のようだ。残りの女の子達も笑顔で協力を求めた。
「本当にぼくなんかを仲間に入れてくれるの……?」
「当たり前じゃない! ね、ミーシア」
キャシーが元気よくミーシアに返答を求めると、
「もちろんよ!」とミーシアは笑顔で答えた。
マーカスは嬉しさのあまりまた涙を浮かべた。
「もうマーカスったら、いつまでも男の子は泣かないの!」
そう言いながらキャシーはマーカスの肩に手を乗せ、母親が子供をあやすように軽く掌を上下させた。
「でもぼく嬉しいんだ。仲間に入れてくれて……」
マーカスは本を机に置き、メガネを左手で額まで上げ、右手で涙を拭き取った。
「それじゃあ早速計画を練らなくちゃいけないわね」
しんみりとした空気にならないようにアリスが言った。以外にも当初は否定的だったアリスが一番計画性があった。
「それじゃあ放課後に、用務員室に集まって計画を練るっていうのはどう?」
「カトレーナの意見に賛成! おいしいお茶もご馳走してもらえるしね!」
嬉しそうに人差し指を立てスーザンが言った。
次の授業中、六人は早く授業が終わらないかと心待ちにしていた。チャイムが鳴り、先生が「本日の授業はここまで」と言った時には、六人はすでに鞄に教科書を詰め終えていた。
「さあみんな行くわよ!」
冒険心の人一倍強いキャシーはかなりのハリキリようだ。
「校長先生、失礼しまぁ~す!」
「珍しいなぁ~、放課後も遊びに来るなんて」
「はい、会議を開くために部屋を借りようと思って」
「会議とはまたぁ~、面白そうな話だのぉ~。さあ入りなさい。入りなさい。美味しいお茶を淹れてあげよう」
美味しいお茶と聞き、スーザンはほっこりと顔を和ませた。
「で、会議とはまた何の会議かね?」
テーブルにお茶を運んでくれたとき校長先生が言った。
「この島に眠る古代文字の財宝を見つけ出す会議です」
キャシーが答えたその時、校長先生の瞳が一瞬大きく見開かれたのをミーシアだけが気付いていた。
「財宝かぁ~、若い者は夢があっていいのぉ~」
校長先生の言葉を他所にキャシーが話し始めた。
「それでは会議を始めるわよ。それじゃあ一番詳しいマーカスから何か意見を言ってくれる?」
マーカスは威厳のある咳払いを一つしてから話し始めた。
「みなさんは、財宝はいったい何かご存じですか?」
女の子達は解らないとばかりに首を横に振り、そのあと顔を見合わせた。
「ぼくのこれまでの調査によると、おそらく財宝は……」ここでマーカスはまた咳払いをした。
「マーカス、もったいつけないで早く教えてよ!」スーザンが先を急いだ。
「失礼、財宝は、聖なる剣だと思われます」
「聖なる剣……?」ミーシアが復唱した。
「そう、聖なる剣です」
「それって普通の剣とは何が違うの?」カトレーナが口を挟んだ。
「ええ、詳しく説明しますと、聖なる剣は選ばれし者しか扱う事が出来ません。これは単に振り回して闘うという意味ではありません。おそらく振り回して闘う事なら誰にでも出来ると思いますが、選ばれし者しか本来の剣の力を使いこなせないという意味です」
「本来の剣の力って?」ミーシアが尋ねた。
「稲妻で獲物を切り裂く能力です」
「稲妻で獲物を切り裂く?」
神秘的な事にミーシアは興味津々だ。
「はい」マーカスがメガネの位置を変えた。「ぼくの資料によると、雷鳴を呼びし剣は刃先から稲妻を轟かせ、その剣は──」
「選ばれし者現れし時、神光が剣を包みし冥界の剣現る」校長先生が続きを引き取った。
マーカスは意表を突かれた顔をして、
「どうしてその事をご存じなんですか?」
と即座に聞き返した。
「わしも少し興味があってのぉ~」
「わぁ~、すごぉ~い!」と、女の子達は一段と盛り上がった。
「でも選ばれし者ってどういう意味だろう?」キャシーが尋ねた。
「それはぼくにも解りません。ただし、選ばれし者以外にも、鍵となる物を探し出さなくてはなりません」
「ほぉ~う、マーカスよくそこまで調べたのぉ~」
「えっ、校長先生はそれも知っていたんですか?」
「まあ、わしの知っている事はその程度じゃよ」
「鍵って何なの?」スーザンが尋ねた。
「はい、鍵とは五つの石版の事です。これをまず探し出さなければいけないようです」
「それはどんな石なの、大きいの小さいの?」とアリス。
「それはその~……」
マーカスが返答に詰まっていると、
「こういう物じゃよ」
と校長先生が後ろの戸棚を開いた。取り出して来たのは手の平に乗る程の小さなL字型の石版だった。
「先生それを探し当てたのですか?」マーカスは驚きを隠せないでいる。
「わしの祖先から預かった物だよ」
校長先生は手の平に乗せた石版を、皆によく見えるよう腕を伸ばしてテーブルの中央へと移動してくれた。
石版を見つめる子供達の瞳は、まるで初めて神をこの目で見たような、そんな神秘的な魅力に取り憑かれていた。
マーカスはメガネの位置を変え、メガネに指を触れたまま、顔を前に突き出してまじまじと石版を眺めた。
「先生、触らせてもらってもいいですか?」
「ああいいとも、手に取ってよく見るといい」
マーカスは、とても高価な物を扱う手つきで、落としては大変とばかりに左手を下に添えて、メガネの前まで石を持ってきた。石版には古代文字が刻まれている。
「これが五つの石版の一つですか、これは『近き場所』と刻まれていますね」
「ほほぉ~う、マーカスは古代文字も読めるのかい。感心な事だのぉ~」
マーカスの学識に校長先生は感服なさっている。
「やっぱりマーカスを仲間に加えて良かったわね」アリスが屈託ない笑顔で言った。
「先生、わたしも見せてもらっていいですか?」ミーシアが言った。
「順番に回してゆっくり見るといい」
ミーシアは鞄からノートを取り出すと、石版を原寸大で描き始めた。女の子達はそれをどう使うか理解していた。
そして一通り石版を回し終えると、また石は戸棚に仕舞われた。
「マーカス、まずは今見た石版を探すという事ね」
アリスの問い掛けに、
「はいそうです。あの石版が財宝の扉を開く鍵となるはずです」マーカスが答える。
「で、その石板をどうやって探すの?」とカトレーナ。
「その事なのですが、ぼくの調べたところによりますと、一つは山に関係があるという事です。そしてもう一つは水に関係があるという事です。あともう一つは……」
「ちょっと待って、あと一つって……、もうそれで最後なの?」キャシーが割って入った。
「はい、ぼくの知っているのはあと一つだけなんです。しかもその一つというのは博物館の中なんです」
「でも博物館の中なら、何て書いてあるか分かるからいいじゃない手間が省けて」
キャシーらしい楽観的な意見だ。
「確かにもう書いてある事は分かっています。石版には『持ちて戌の刻』と書かれているのですが、もしこの石版の前に来る文字が『石版』と書かれていた場合、その時は石版を持ち出さなければいけなくなるのです」
「だけどそれもまだ決まった訳じゃないんでしょ?」
「それはまあそうですがぁ~……」
「だったらいいじゃない他の石版から探せば」
いつも明るいキャシーはグループのムードメーカーだ。
「でも最後の石版はいったい何処にあるのかしら……」
客観的なアリスは的を突いた意見を述べた。
「それなら心配いらんよ。最後の石版は恐らくこの学校の何処かにあるはずじゃよ」
「えっ、先生、それは本当ですか?」
「ああ、まず間違いないだろう。しかしわしがこの五十年間探し続けて来たが、まだ見つかっておらんがね」
「あの古井戸は調べたのですか?」昨日から気になっていたミーシアが尋ねた。
「勿論よく調べたさ」
「でもあの井戸にも古代文字が……」
「あれはな、ミーシア。作られた日が古代文字で刻まれておるだけなのだよ」
「そうだったんだ……」
期待していたのかミーシアは、少しがっかりした表情を見せた。
「とにかくぼくとしては山から探した方がいいと思うのですが、いかがなものでしょう」
「わたしは賛成よ!」とキャシー。
キャシー初め次々に賛成の声が上がった。
「ところで個人的にはみんな調べて来たの?」とアリス。
「わたしは図書館で借りた古い文献を読んではいるけど、まだ読み始めたところだから……」とカトレーナ。
「わたしは兄に聞いたけど、これっぽっちも参考になる事は得られなかったわ。と言うか、財宝を探す暇があるならちょっとは勉強しろッ! って叱られたわ」
キャシーが舌を出して頭を掻いたので、みんなクスっと笑った。
「わたしはこの絵を持ってこれから聞いてまわろうと思うの」
「誰に聞くんですか?」マーカスがメガネを触りながらきょとんとした目をミーシアに向けた。
「それはその~……」ミーシアが返答に困っていると、
「この前言っていたマッシュとアンナや、御年の召した方なら少しは情報が得られるかも知れないって言ってたやつでしょ」スーザンが助け舟を出した。
やはりミーシアは動物と話せる事を、四人以外にはまだ知られたくないのだと私はこのとき思った。
「あ、それとわたし、まだ何も調べていないです……」スーザンが済まなさそうに尻すぼみに付け加えた。
「わたしは調べるには調べたんだけど、マーカスほど詳しい事は何もわからなかったし、わかったのは古代文字が今存在している場所だけ。でもこれは誰でも知っている事だから参考にはならないと思うわ」最後にアリスが報告した。
「確かに今のところ発見されている石碑の多くは意味のない物ですし、遺跡に記された古代文字はもうぼくが解読済みです」
流石マーカスとばかりに、女の子達は感嘆の声を上げた。
「で、山から探すと言ってもどの山から探すの? それに何を手掛かりにどうやって探せばいいの?」アリスが尋ねた。
「そうですねぇ~。山はもう絞り込んでいます。ぼくなりにですけどね」
「どの山なの?」
「ラティス山です」
「で、どうやって探すの?」
「まずは発見されていない古代文字を探すべきでしょう」
テーブルの脇で腰掛けている校長先生は、腕を組み無言で頷いている。
「そうと決まれば早速今から探しに行きましょう!」
キャシーが興奮気味に言ったが、
「おいおい、キャシーや。今から山に入ってもすぐに暗くなってしまわんかね」
校長先生に窘められた。
「それもそうですよね……」キャシーは自分の頭を小突く真似をした。
テーブルにおだやかな笑い声が咲いた。
「それじゃあ明日の朝一番に学校の門の前に集合ね!」キャシーがもう一度仕切り直した。
「わかったわ!」
ミーシアがテーブルの中央に右手をかざすと、次々に仲間の手が重ねられていった。
海賊姫ミーシアとは別に、コメディータッチの自伝、
レッツ ゴー トゥ ザ NY ウィズ 岸和田㊙物語シリーズ1『武士はピンク好き 編』
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作者 山本武より!




