第十章 『ウサギの行列』
明くる朝トロントはマッシュ家で一番の早起きだった。前夜にミーシアから残飯の話を聞かされたトロントは、嬉しさのあまり大はしゃぎして部屋中を走り回ったあげく、タンスにぶつかってしまうというハプニングもあったが、痛さより食い気だッ! と訳の分からない事を連発して、なおも部屋中を走り回り、合計で三度もタンスに頭をぶつけていた。トロントの言葉が解らないマッシュとアンナからしてみれば、豚がトチ狂ったっ! としか思わなかった事だろう。
「ブウブブ!(早く起きろよミーシア!)」
二つに割れた小さな蹄で、トロントはミーシアを揺り起した。
「おねがいトロント、もう少しだけ眠らせて……」
眠そうな声を出し、ミーシアは布団で顔を覆い隠した。
ミーシアのお寝坊の理由は、『月の輝く水たまり』を読み始めたはいいが、ついつい本のおもしろさに引き込まれ、早く寝なければ明日も学校だし……。と思いつつも、結局完結まで読み終わった頃には深夜の二時を回っていたからだ。
「ブウブウ?(でもいいのか、今日は友だちが迎えに来るんだろ?)」
トロントの一言で、ミーシアはパッと飛び起きた。
「そうだった、忘れていたわっ! 待たせる訳にはいかないわっ!」
そこからのミーシアの行動は早かった。マッシュとアンナにおはようの挨拶を済ませると、そそくさと顔を洗い学校に行く準備を整え食卓に着いた。勿論抜かりなく昼休みに交換するお菓子も鞄に詰めていた。嬉しい事に今日の朝食には、目玉焼きの傍らにトマトは盛り付けられていなかった。
「どうしたんだいそんなに慌てて食べて」
アンナがカップにミルクを注いでくれながら言った。
「今日は昨日言ってたお友だちが迎えに来るの」
「でもまだ時間が早いでしょう」
「違うの、早めに学校に行って、色々と学校の中を案内してもらう事になってるの」
ミーシアがアンナに説明しながら目玉焼きをパンに挟んだ時、玄関の呼び鈴が鳴った。
「いけない、もう来ちゃったっ!」
ミーシアは目玉焼きサンドを片手に持ちながら一気にミルクを飲み干した。唇の上にミルクのお髭が今日もくっきりと付いている。
「それじゃ行って来るね」
「気をつけてな」
「はーいマッシュ。トロント行くわよ!」
「ブヒ~ッ!(よっしゃ~ッ!)」トロントは気合十分だ。
「早く来過ぎたかしら?」
玄関で挨拶を交わし、ミーシアの手の中に握り持つ目玉焼きサンドを見てカトレーナが言った。
「大丈夫、食べながら歩くから」
言いながらもミーシアは少し恥ずかしかったのか、照れ隠しに両肩を少し上げ可愛らしくはにかんだ。
「例のトロントちゃんね。おはようトロントちゃん」キャシーが言った。
「ブッヒ~!(おっは~!)」
「すごくかわいらしい子ね」
登校する道すがらトロントの話で持ち切りだった。トロントに浮き袋を付けて泳がせた事を二人に話して聞かせた時には、キャシーが「海を泳ぐ小ブタちゃんなんて、この世でトロントちゃんだけでしょうね!」と真面目な顔をして言ったので、それを聞いた二人は思わず笑ってしまった。トロントは「ブヒブヒ!(おいら波にも乗れるんだぜ!)」と自慢げに言っていたが、聞いている者はいなかった。
教室に入るとアリスとスーザンは、すでに教室でミーシア達を待っていた。ここでもトロントは可愛らしいと人気者だった。そんなトロントが「ブヒブヒ!(おいらに惚れるなよ!)」と言ったが、やはり聞いている者は誰一人としていなかった。
五人が揃うと、早速ミーシアは学校の中を案内してもらった。最初に案内してもらったのは用務員室だった。ドアの前まで来ると、ミーシアを除いた四人は意味ありげな含み笑いを浮かべ、なんだか楽しそうだ。
「いいミーシア、それではわたしたちの良き友人を紹介させていただくわ!」
キャシーがドアに手を掛け言った。
「おはようございま~す」
ドアを開け楽しそうに四人が先に入った。
「ミーシア、さあ、早く入って」
「おお、おはよう。今日も仲良く四人で来たか?」奥から声が聞こえた。
「いえ、今日は新しいお友だちを紹介しに来たんです」
「キャシー、新しいお友達とは、その可愛らしいお嬢ちゃんかな?」
恰幅のよい、白髪に白く長いお髭が印象的な優しそうな老人が、右手にポットを持ち奥から現れた。
「はじめましてミーシアです」ミーシアが礼儀正しくお辞儀した。
「立ち話もなんだから、さあこっちに来て椅子にお掛けなさい」
五人はお言葉に甘えた。
「はじめましてミーシア、さあちょうどお茶が入ったから飲んで行きなさい。テーブルに置いてあるお菓子は自由につまんでよいからの」
四人はまだクスクスと笑っている。
「でっ、ミーシアにはあの事は言ったのかね?」
四人はまだ笑っている。
「その様子じゃ、まだ言ってないみたいじゃな」
ミーシアは何の事だかさっぱり分からないと、きょとんとした顔をしている。
「まあ今言わんでもその内わかるじゃろ」
ミーシアは、四人が何かビックリさせたがっているのを汲み取って、何も聞かないでおいた。
「で、ミーシアはこの学校にはいつから来たのだね?」
「昨日からです」
「そうか、学校は面白いかの?」
「はい、何もかもが初めての事なのでおもしろいです」
「そうか、それは良かった」
言い終わった直後白髪の老人は、次はキャシーの方を向き、意味ありげにキャシーに目配せをした。
「用務員のおじさん!」キャシーも目配せで返した。「わたしたちこれから学校を案内して回ろうと思っているの」
「ほう、それは良い事だ。だが古井戸には近付いてはいかんぞ! 危ないからのぉ~」
「はい、わかっています。場所だけは通るとき教えるけど、近づきはしません」
「うん、良い心掛けだ。それじゃあ授業が始まらない内に早く案内しておやり。勿論シナモンティーを味わってからのぉ~」
五人はシナモンティーをお菓子と一緒に頂き、用務員のおじさんに礼を言ってから、わいわい楽しそうに部屋を出て行った。
「やさしいおじさんね」
「そうでしょ、わたしたちの良き友人であり良き理解者なの」
やはりキャシーはまだ笑っている。
五人は楽しそうに会話をしながら廊下を歩き、グランドへと足を運んだ。
「あの隅にあるのがプールよ。行ってみる?」とアリス。
「ええ、ぜひ見てみたいわ」
近くまで来るとミーシアは駆け出した。ミーシアにとって泳げる水があるのは何より嬉しい事なのかも知れない。
初めて目にするプールはミーシアにとってどう映ったのだろうか? 私は水面にそっと触れてみた。ミーシアはビッグママといつも壮大な海に潜り、神秘的な光景を観ていたせいか、プールの狭さと変化のない水の中の景色を味気なく感じていた。それでも目の前に泳げるだけの水があると、やはり泳ぎたくて仕方なかったようだ。そんなミーシアを見て、「泳ぐのはまた今度ね」とアリスが付け加えた。
プールの後は校舎の裏を通りウサギ小屋を案内してもらった。学校で動物を飼っている事をミーシアは知ると、きっと広い敷地で自由に飼われて幸せなんだろうなぁ~! と想像を巡らせていたが、いざウサギ小屋に着いてみると、ミーシアの想像とは裏腹に、狭く汚いウサギ小屋でミーシアは愕然となった。
「この子たちいつも小屋の中で居るの?」
狭苦しそうなウサギ小屋を前に、切ない目をカトレーナに向けミーシアが言った。
「そうよ、だって放し飼いには出来ないもの、逃げ出してしまうから」
カトレーナは、それは仕方ないという顔をしている。
「でもかわいそうね、小屋の中で一生を暮らすなんて……」
ミーシアはそう言うと、小屋の前で屈みウサギたちに話し掛けた。
「こんにちはウサギさんたち」
五羽居る様々な種類の個性あるウサギたちが、ぴょんぴょんと小さく跳ねながらミーシアの前に寄って来た。
(おいらたちの言葉が解るのかい?)
ダックスフンドのような垂れ下がった耳がかわいい、薄茶色のウサギが話し掛けて来た。種類はロップイヤーだ。人間には聞き取れない程の小さな鳴き声しかウサギは上げないが、ミーシアにはちゃんと聞き取れていた。
「ええ。あなたたち狭い所で大変ね」
(そうだよ毎日小屋の中さ。でも食べ物の心配はいらないし、外敵にだって襲われる心配もないからね)
「ミーシアったらウサギに話し掛けてるわ。かわいい」
カトレーナが言うと三人はクスッと笑い合った。
「でもお外へ出たくないの?」
(そらぁ~出たいさ。だけど小屋の掃除をする時は週に二回だけ、この中から出してもらえるんだ。もちろんおいらたちは毎回脱走を試みるけどね)
「あなたたち、わたしがこの学校にいる間だけでも外に連れ出してあげましょうか?」
ウサギたちに一方的に話し掛けているようにしか見えないミーシアが、突拍子もない事を言い出したので、女の子達は何を言い出すのとばかりに顔を見合わせ、即座にスーザンが止めに入った。
「ミーシアっ、それはダメよ。この子たち捕まえるのがほんと大変なんだからっ!」
焦りながら話すスーザンに、
「スーザン待って、この子たちに約束させるから」
とミーシアは落ち着いた口調で言葉を返した。
女の子達は無言のまま訝しげにミーシアを見つめた。
一瞬の沈黙を破ったのはアリスだった。
「ミーシア、あなたもしかしてこの子たちとお話が出来るの?」
半信半疑でアリスが尋ねた。他の女の子達は、動物とお話が出来るはずもないとばかりに、まるっきり信用していなかった
「ええ、見ていてよ」
自信ありげにミーシアが言った。
「どうするあなたたち? 絶対に脱走はしないと約束するなら、白い子を先頭に一列に並んで見せて」
ミーシアがウサギたちに約束を持ち掛けると、ウサギたちはたちまち白い子を先頭に一列に並んだ。
「う、うっ、ウソでしょぉ~っ!」
スーザンが信じられないとばかりに堪らず声を漏らした。
「今のは偶然でしょ?」
カトレーナも目の前で起こった出来事が、信じられないのか声を漏らした。
アリスは目の前で起こった出来事を受け入れようと必死に脳を活動させていたが、まだ処理能力が追っ付いていなかった。
キャシーは「えっ」と小さな声を漏らし、顔を前に突き出して固まっている。
「あなたたちもう一度お願い。黒い子は一番後ろに並んで」
再度ミーシアの言葉に、二番目に並んでいた黒ウサギが列の最後方に並び直した。
この時の女の子達の驚きようといったら、それはそれは大変なものだった。驚きに丸く開かれた目は、それ以上開くと眼球が飛び出てしまうかというくらい大きく見開き、アングリと開かれた口はまるでリンゴが丸ごと入りそうなほどだった。その表情はまさに、ズボンを履き忘れたサンタクロースが、突然目の前に現れでもしたかというような驚きようだった。唖然と突っ立たままの女の子達を他所に、ミーシアはウサギたちと話を続けた。
「わかったわ。約束よ! 絶対に逃げ出したりしないでね!」
(わかっているさ。ところで君の名は?)
「ミーシアよ」
(わかったミーシア、約束は必ず守る!)
あまりの驚きように女の子達は息を吸うのを忘れていたが、スーザンが我に返ると、
「ミーシア、昨日もそうだけど、今のはもっと驚いたわっ! 心臓が止まるかと思うほど驚いたんだからぁ~っ!」と胸に手を当て言った。
「それじゃトロントちゃんもなの? ──」これはアリスだ。
「もちろん話せるわよ!」
「驚いたぁ~っ! ミーシア早く言ってよね!」
ミーシアは済まないとばかりに頭を掻いた。カトレーナとキャシーはまだ固まっている。
「でもこの事は内緒にしておいてね」
ミーシアが言うと、落ち着きを取り戻した女の子達は快く承諾してくれた。五人だけの秘密が出来た事に、小さな女の子達は嬉しさに心をときめかせた。
「それじゃあなたたち、昼のランチの時間に迎えに来るから、それまでは辛抱していてね」
(あぁ、じゃぁ待ってるよミーシア)薄茶色のロップイヤーが言った。
ウサギ小屋を後に、ミーシア達は古井戸の横を通り、勿論この時キャシーが、「あれが古井戸よ」と指を差して教えてくれが、ミーシアはこのとき井戸を見て、「ん?」と首を傾げたので、私は気になり水面に手を触れてみた。ミーシアが気になったのは、石組みの井戸に彫られた古代文字だった。何処かで見たようなそんな気がしていたのだ。
そろそろ授業が始まる時間なので、五人は足早に教室に帰ってみると、トロントはクラス中の人気者になっていた。
「ブウブ、ブウブウぅ~!(ミーシア見てくれよぉ~、こんなにも食べ物をくれるんだぜ!)」
クラスの男の子も女の子も子ブタちゃんが物珍しいのか、お弁当からおかずを一品あげる者もいれば、ポケットからビスケットをあげる者もいた。
「トロントちゃん何て言ってるの?」とカトレーナ。
「こんなにも食べ物をくれるって喜んでいるわ」
「へーそうなんだ」にこやかにカトレーナが言った。
授業中私の心配事の火種トニーは、相変わらずミーシアに仕返しの企てを考えていた。しかしこれといってまだ何をするか思い付いていないのか、イライラと消しゴムにペンを突き刺していた。
休み時間に入るとアリスが率先して、ウサギたちを責任を持って面倒を看るので、昼にお散歩に連れて行っていいか先生に許可をもらいに行ってくれた。本当にミーシアに出来たお友達はいい子ばかりだ。先生の返事は聞くまでもなかった。先生もウサギたちをもう少し運動させねばと思っていたらしく、喜んで許可して下さった。
トロントにとっては待ちに待った昼休み、トロントは残飯掃除係の仕事を意気揚々《いきようよう》とまっとうした。
「ブウブウ!(さあさあ、みなさん好き嫌いのある人や、お腹のいっぱいの人は遠慮なくこのバケツに残飯を入れてくれ! 責任を持ってこのトロントちゃんが処分してあげるよ!)」
そんなトロントを教室に残し、ミーシア達はお弁当片手にまずウサギ小屋に向かった。ウサギ小屋では、ウサギたちが隊列を組んで今か今かとミーシアが訪れて来るのを待っていた。
「お待たせ、さあ行きましょう」
女の子達の後を、中庭の楓の木の下まで隊列を組んで付いて行く、ぴょんぴょんと小さく飛び跳ねる五羽のウサギの姿はとてもかわいく、愛らしい以外の何ものでもなかった。
楓の下に着いた五人は、今日はピクニック用のシートを敷いて腰を下ろした。そのすぐ前ではウサギたちが楽しそうにぴょんぴょんと飛び跳ね遊んでいる。枝に止まっている小鳥たちにミーシアが話し掛けると、小鳥たちは少女達の肩や指に止まり、美しく心地よい囀りを奏でた。
「わたしたちおとぎの国に居るみたいね」
カトレーナの指には小鳥が止まり、とても嬉しそうだ。
「ほんとこんなの初めてよ!」
スーザンは指に止まった小鳥に餌をやっている。
キャシーの肩に止まっている小鳥が翼を広げ、キャシーの頭に飛び移った。キャシーは目玉を上に向け、「見て見てアリス」と向かいに座るアリスに言ったが、アリスはそれどころではなかった。アリスの頭にも二羽の小鳥が舞い降り、突き出した両人差し指にもそれぞれ一羽ずつ小鳥が止まっていたからだ。
楽しいランチ会の後、女の子達は早速お菓子を交換しあった。いつの時代も女の子にとってお菓子は別腹なのだろう。
「でもミーシア、どうしてあなた動物たちとお話が出来るの?」
『ミンティアの神話』を読んだ事のあるキャシーからしてみれば、興味が湧くのも頷ける。
「わからないけど、小さい時からお話が出来たの。ビッグママと話していたせいかな……」
「ビッグママって昨日言っていた大きなクジラさんのこと?」
「そう、でもビッグママは誰とでもお話が出来るのよ」
「えっ、本当? わたしたちともお話が出来るの?」
「ええ」
「信じられないっ、わたしクジラさんとお話が出来たら死んだっていいわっ!」
大仰にキャシーが言うと、みんなして大笑いし合った。
「この前借りてた本の中に、『ミンティアの神話』っていうのがあったでしょ? そこに出て来るあなたと同じ名前のミーシア王妃も動物とお話出来たのよ」
「そうなんだぁ~、じゃあ今日はそれを読んでみようかな」
「他の本は読んだの?」とスーザン。
「ええ、あなたが勧めてくれた『月の輝く水たまり』は昨日読み終えたわ」
「えっ、もう読んだの?」
「ええ、おもしろくってついつい最後まで読んでしまったわ。おかげで今日は寝坊しちゃった」
ミーシアがおどけるように舌を出した。その時だ! 突然上空から大きな黒い物体がウサギ目掛けて急降下して来た。ウサギに接触する寸前、その黒い物体は鋭い爪をウサギに向け襲い掛かろうとした。
「ダメェェェぇぇ~~~~ッ!」咄嗟にミーシアが叫んだ。
黒い物体の正体はカラスだった。間一髪の所でカラスはミーシアの叫び声に反応し、ウサギを避けて無様な着地となった。
「カァ~っ!(なんだよ突然、おかげで転んじゃったじゃないカァ~!)」
右翼で尻もちを着いた箇所を摩りながらカラスが言った。
「ダメよカラスさん。襲ったりしちゃ!」
「カァ~っ!(でもこれがオレたちの仕事なんだぜ!)」
「でもダメ! こっちへいらっしゃい。お菓子を分けてあげるから」
ミーシアが言うと、カラスは翼を広げサッとミーシアの前まで移動した。
「ミーシアったらカラスまで従わせるんだから、ほんと感心だわ。でももうこれ以上驚かないわよ!」
キャシーが言うと、他の女の子達もうんうんと頷いた。
「でも今度はわたしたちが驚かせる番よねぇ~」
キャシーは三人に目配せをした。三人はまたうんうんと含み笑いで頷いた。
しばらく五人は楽しいひと時を過ごし、またウサギたちを引き連れ、小屋まで戻るとき古井戸の前を通った。
「あの井戸に彫られている文字はなに?」ミーシアがアリスに尋ねた。
「あれはね、古代文字といって、この島の至る所にある石碑や古い遺跡に彫られているのだけど、詳しくはまだ解明されていないの。この島には古くから言い伝えがあってね、なんでもこの島のどこかに財宝が眠っているらしく、まだ発見した者もいないそうよ」
ミーシアは海賊船の本棚に置いてある古びた本を思い浮かべ、そこで見た文字と似ているのを思い出したようだ。私は水面から手を放した。
「そうなんだ……」
「財宝って聞くとなんだかワクワクしちゃわない!」
キャシーは海賊達にありがちな、宝探しという男勝りな資質をどうやら持ち合わせているようだ。
「ねえ、わたしたちでその財宝を探さない?」唐突にミーシアが閃き顔で話を持ち掛けた。
「それいいかも」いの一番にキャシーが乗って来た。
「見つかるはずないわよ」控えめなアリスは案外否定的だ。
「でもおもしろそうじゃない」スーザンも乗り気だ。
意外だったのはカトレーナだった。
「じゃあ土曜と日曜の学校が休みの日を使って、探索に出掛けるっていうのはどう?」
カトレーナの提案に多数決の結果、明後日の土曜日から財宝探しをする事に決まった。
「じゃあわたしは古い文献を当たってみるわ」とカトレーナ。
「じゃあわたしは兄がそういった事に詳しいから聞いてみるね」これはキャシーだ。
「ミーシアは鳥や動物たちに、古代文字を見た事のある場所を聞きまわって」知的なアリスは理にかなった事を言った。
「なんかミーシアが居ると、もしかして財宝が見つかるような気がするわ」
スーザンのこの言葉で、財宝がもしかしたら見つかるかもしれないという期待感が女の子達の中で一気に高まった。
ウサギたちとお別れをしたあと教室に戻ってみると、お腹をパンパンに膨らませたトロントが、「ブブォ~!(もう食べれないよぉ~!)」と仰向けになっていた。
昼からの授業も終わり、帰る頃にはトロントはなんとか起き上がる事は出来たものの、まだ歩くのは少し苦しそうだった。
仲の良い五人組は、今日も連れ立って教室を後にした。廊下を通り、用務員室の前を通り過ぎようとした時、脚立に乗って大工仕事をしている白髪の老人が、一生懸命手を動かしていた。
「用務員のおじさん、朝はごちそうさまでした」
ミーシアが後ろから声を掛けると、老人は脚立の上から優しい笑顔を向け、
「おぉ~、ミーシアじゃったかのぉ~。また遊びにおいで」
とミーシアに言ってくれた。
「はい、ありがとうございます」とミーシアは元気よく返事し、「それじゃあさようなら用務員のおじさん」とおじさんに向けて手を振った。
「ああ、さようなら」笑顔でおじさんが見送ってくれた。
横ではキャシー達がクスクスと笑い合っている。
続いてキャシー達が声を揃えておじさんに別れの挨拶をした。
「校長先生さようならぁ~~~っ!」
「あぁ、さようなら」
老人も笑っていた。用務員のおじさんはなんと校長先生だったのだ。
「もぉ~う、キャシーひどいじゃなぁ~い。それであの時笑っていたのね」
笑顔でミーシアが言った。
「だから言ったでしょ、今度はわたしたちが驚かす番だって!」
キャシー達はミーシアを驚かす事に成功したとあって、満足いく笑顔をミーシアに振り撒いた。
その夜、ミーシアはベッドに入ると、『ミンティアの神話』の表紙を捲った。一ページ目にはミンティア連合王国の紋章が描かれていた。ミーシアはこの紋章に見覚えがあった。守りの指輪に刻まれていたからだ。
私は水面に手を触れてみた。
(どうしてわたしの指輪と同じ紋章が……)
ミーシアは戸惑いながらも二ページ目を捲った。始まりはこう書かれてあった。
古き時代ミンティア国含め隣国は、争い事もなく平和に暮らしていた。そんな頃、隣国の中でも一番の領土を持つ大国、セルーバ国に双子の世継ぎが生まれた。
時は過ぎ、双子の王子が成人を迎えた時、王は二人を即位させ領土を二分すると言った。弟のアドルフは兄を気遣い、王に辞退すると申し入れたが、王は同じ日に生まれたのだから二分するのは当然の事だと認めなかった。
こうしてセルーバ国は二分され、二人の王が誕生したのだが、まもなく前王がこの世を去ると、兄アンドレは弟の国モンターラを攻め落とそうと戦争が始まった……。隣国の王達は、モンターラ国が攻め落とされれば、次は我が国に侵略の魔の手が及ぶものと不安に駆られた。人は愛と不安の生き物だ。不安は人々の心を蝕んでいった。これからお話する神話は、この戦争から始まって行くのだ。
ミーシアは神話の事よりも紋章の事の方が気になっていた。
(一度も片足のとうさんに聞いた事はなかったけれど、わたしはどうしてこの指輪を持っているのかしら……。この本を読み終えれば、わたしがどうしてこの指輪を持っているのか解るかもしれない……)
ミーシアはページを捲る手を止めなかった。読み進めて行くにつれキャシーの言っていた通り、ミンティアの王妃ミーシアは、本当に自分と同じ動物と話す能力を持っている事が解った。
(紋章……。そして能力……)
ミーシアは困惑していた。今すぐ片足のとうさんに会って指輪の事を確かめたかった。
この日ミーシアの心に、生まれて初めて不安と戸惑いが芽生えた。
海賊姫ミーシアとは別に、コメディータッチの自伝、
レッツ ゴー トゥ ザ NY ウィズ 岸和田㊙物語シリーズ1『武士はピンク好き 編』
も同時連載しておりますので、よければ閲覧してくださいね!
作者 山本武より!




