名水ーエールの製造2
【名水ーエールの製造2】
『半端ねえな。学院って馬車で数日かかる距離だよな。それがあっという間に往復しちまった』
『ああ。あっという間に城のそばだぞ』
『わかってると思うけど、転移魔法のことは内緒だよ』
『わかってるぜ。わかってるけどよ。俺たちは歴史的な何かに立ち会っていねえか?』
『まあ、深く考えないで。さ、工房にいこうか』
『うむ。ついでに俺たちの自作品を見せるぜ』
自作品というのは、
熟成のすんだウィスキーの他に、
熟成中のウィスキー、そして、様々な原料からなる焼酎。
『今のところ、芋から作った酒とトウモロコシ・大麦から作った酒に手応えがあるな』
『ああ、それは焼酎とバーボンだな』
『焼酎とバーボン?もう名前がついているのか?』
『前、話したっけ。僕の祝福、“料理人”の話』
『ああ、そういや色々はぐらかされたな』
『王室の5男の話、知らない?』
『うん?昔神童と噂された王様の子供の祝福が“料理人”だって、一時期大騒ぎになったな。まさか』
『そうだよ。僕がその5男』
『は』
3秒ぐらい、ドワーフたちは固まってしまった。
再起動してから、僕は色々説明した。
『で、古代書を解読して、転移魔法陣を作り上げたってか』
『まあ、作ったのはアニエス教授だけどね』
『さっきも説明してくれたが、やっぱりおとぎ話にしか聞こえねえ』
『ああ。こうやって実証してくれなきゃ、酒場の与太話だぜ』
『じゃあ、作品を飲んでみるよ』
『大丈夫か?子供の癖に』
『僕にはアルコール耐性があるんだ』
これはホント。
僕には毒耐性が備わっており、酒は毒とみなされる。
『おお、見事なウィスキー。ちょっと、焦げがきついかな』
『ああ。まだバランスが悪いな』
『こちらは焼酎か……おお、フルーティな香り、滑らかな舌触り。少し熟成してあるのか』
『ああ。半年ぐらい。俺の自信作だ』
『で、こちらがバーボンと……味はいいんだけど、まだ熟成不足かな』
『うむ。そのとおりだ』
『あのさ、ウィスキーの樽なんだけど、バーボンを寝かせた樽とかいいらしいよ。いい塩梅に焦げ目が落ちてるって』
『ほう。それも“料理人”の情報か』
『うん』
『よし、わかった。あんたの情報に間違いがあった試しはないしな。“あんた”はまずいか。王子様だからな。坊っちゃんとかか』
『いいよ、あんたで。あと数年で城から追い出されるし』
『あの噂、本当なのか』
『本当だよ』
『はあ、城の奴らは節穴ばかりだな』
『節穴になってもらった方がいいだけどね』
『?』
◇
僕はドワーフの家財・商売道具を
まとめてマジックバッグに入れ、
転送を繰り返して名水の里についた。
僕は彼らの住居と職場を用意した。
勿論、各種魔道具は設置済だ。
転移魔法陣の使い方も教えた。
魔法陣は誰でも使えるわけでない。
使用許可を与える指輪をはめてもらう。
使用者が増えたので、先生と新たに追加したのだ。
『おお、前よりも格段に住心地のいい住居だな。エアコンとか風呂とかいろいろすごすぎんぞ』
『結界が張ってあるから、魔物は近づいてこれないけど、外に出るときは注意してね』
『ドワーフなめんな。少々の魔物ぐらいなら、トンカチで一発さ』
ドワーフたちは意気軒昂だ。
『よし、これでエールを作るぞ!あんたたち、2週間後に来てくれ!』
◇
ビールの生産は難しいものではない。
ワイン同様、非常に古くからある酒だ。
ただ、高品質となると難しくなる。
まず、大麦を粉末にする工程。
収穫した大麦を水の中に浸す。
大麦を取り出し、発芽をうながす(麦芽)。
温風・熱風をかけて大麦を乾かす。
このとき、ローストしてもよい。
根っこを取り除く。
麦芽を粉末にする。
次にエールを作る工程。
粉末に温水を混ぜ、撹拌し麦汁を作る(糖化)。
濾過する。
ホップを投入し、煮沸する。
酵母菌で発酵させる。
ホップはこの世界ではすでに様々な種類が発見されていた。
ただ、ホップじゃないハーブを使ったエールも
一定の人気がある。
酵母菌は麦芽から作る。
すでに醤油で酵母作りには一定のスキルがある。
僕たちは彼らの言葉とおり、2週間後に再来した。
そして、できあがったばかりのエール樽の前にいる。
『よし、試飲会だ。俺たちも初めて飲む』
みんなに試飲コップが回され、ゴクリと味わってみる。
『『『!』』』
『ど、どうしたの?二人共泣き出して』
『エールが美味すぎる』
『俺たちの作ってたエール。あれでも大したもんだと思ってたけど、上には上があった』
『水の重要性を再認識したぜ』
『まったくだ』
飲んだエールは香りはまことにフルーティ、
舌触りは限りなく滑らかで、
芳醇な味のする液体が麗しく喉を通り越していく。
僕もいろいろな地ビールを味わったが、
最高級だと断言していい。
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