名水ーエールの製造3
【名水ーエールの製造3】
『ふふふ。いろいろ文句言ってたドワーフたちには黙っていようぜ』
『いや、そのことなんだけどね。これ、ドワーフ村で売ったらどうかと思うのよ』
『なんだと?でも、そうか。こんな酒作ったら、奴ら断ってもねじ込んでくるからな』
『あとさ、ギルドがうるさいでしょ。作るにしても売るにしても』
『ちげえねえ。ちょっと、ドワーフの長に話してみるか』
そういうわけで、僕たちはドワーフの里に来た。
ドワーフの里は噂通り、地下に集落がある。
◇
『なんだと、エールをこの村で売りたいだと?』
そういう彼は、ドワーフの里の長、ドルガーだ。
『エールなんざ、俺たちでも作ってるぞ。自慢のエールだ。いけしゃあしゃあとよくそんなこと言えたな』
『みなさん、これ飲んでみて』
みんなに試飲コップが回され、ゴクリと味わってみる。
『『『!』』』
なんだか、初試飲会と同じ状況が繰り返される。
ドワーフたちは天を見つめて、滂沱の涙を流している。
ドワーフたちは感激すると泣くのがデフォか。
『エールが美味すぎる』
『俺たちの作ってたエール。あれでも大したもんだと思ってたけど、上には上があった』
『水を厳選しました』
『うむ。水は大切だ。相当な名水を見つけたようだな』
『魔素をたっぷり含んだ伏流水で。森の奥に拠点を構えたから、水は取り放題。味も純粋かつ鮮烈』
『エールを作るのに、森の奥に拠点を構えただと?あっぱれな奴じゃ』
『あっぱれというのはまだ早いですぜ。これもどうぞ』
『『『!』』』
驚愕の表情で目を見開くドワーフたち。
『なんだ、この酒精の強い酒は!強いだけじゃないな。熟成されとる。小憎らしいフレーバーもついておる』
『ウィスキーって呼んでます。まだ完成品じゃないですけど』
『これで、完成品じゃないだと?』
『ええ。もう少し試行錯誤が必要です』
『あとな、長。凄いのになると、数十年も寝かすらしいぞ』
『『『!』』』
『酒にそれだけの我慢と情熱を傾けるとは』
『ああ。俺たちは未熟だった……』
『うむ。もう、神の領域だぜ』
それから、焼酎やバーボンも味わってもらう。
『これ、全て俺たちが売ってもいいのか。と言うか、飲めるんだな?』
『勿論です』
『これはエライことだぞ。王国中の、いや大陸中のドワーフに激震が起こるぞ』
『ああ。大陸中のドワーフの長を呼びつけて、話をしなくてはなるまいて』
『そうだな。こんなの独占したら、どんな争いが起こるやら』
話が大げさになってきた。
『では、こうしましょう。酒の作り方は契約を結んだドワーフだけに教えます。蒸留所はこのあたりでいいですか?それで蒸留酒を増産して下さい』
『いいのか?見返りは?』
『製造量に応じて、販売価格の3%を頂きますか』
『そんなでいいのか?』
『欲をかいてもダメですからね』
蒸留方法なんて、僕が考えたもんじゃないからな。
前世の知識を提供してるだけだ。
『同様の契約を、他のドワーフの里の長とも結びましょう。そうすれば、供給不足は緩和できるかと』
『うむ。契約はドワーフの名にかけて』
この世界でドワーフほど契約にうるさい種族は
いないとされる。
日々、新たな製造品を作り出すわけで、
販売契約のみならず、この世界のPL契約も
かなりの細かいものが用意されることが多いという。
『じゃあ、契約の取りまとめはドルガーさんに委任しますね』
僕たちはドワーフと詳細な契約を結んだ。
この契約には一ヶ月以上が費やされた。
契約書は鉄の誓約書に書き込まれた。
その厚さは20cmに達した。
羊皮なので1枚が分厚いにせよ、相当な枚数だ。
◇
『ようやく、契約にこぎつけたな』
『ああ。うるさいドワーフたちをなだめるのも最後にして欲しい』
『でな。あんたたちはドワーフの名誉村民とするから、いつでも来てくれ。まあ、転移魔法陣があるからすぐだが』
この日から、ドワーフの世界は大いに沸き返ることになる。
ドワーフの重鎮たちが、
せっせとこのドワーフの里を訪れるのは日常となり、
いつしか、このドワーフの里は大陸で最も重要な村と
目されることになった。
ただ、本当に重要な場所は、ダリアンたちの醸造所だった。
ここはドワーフの聖地とされるが、
場所が謎であることが、
ますます聖域化を推し進めるのであった。
そして、ここで作られる年代物の酒は、神の酒とされ、
金を払えば買えるというものではなくなった。
重要な行事、主に神事にはなくてはならないものになり、
この酒を手に入れられるのはドワーフの重鎮だけ、
しかも飲めるとなると、
本当に数少ないドワーフのみの特権とされた。
その特権は、ドワーフにとっても最大級の栄誉となり、
数多のドワーフがその酒を目ざして、
鍛冶や酒造りに没頭することになる。
ブックマーク、ポイント、感想、大変ありがとうございます。
励みになりますm(_ _)m




