009 妻と初夜
飲んでいた酒も飲みきったので、酔っ払い二人は寝ようという事になった。
エレニアは既に就寝しているし、起きているのは二人しかいない。
「ラーミ、店主はどうしたらいい?」
クマゴロウは先ほど受けたラーミの一撃で、ぐっすりと眠っている。
白目を開けて。
「大丈夫です! 酔いすぎたんでしょう、静かに寝ていますし」
「そうか……、そうだな、起こすと悪い、静かに行こう」
「はいっ!」
酔っ払い二人は深く考えずに話を進めた。
階段を上がり、エレニアから貰った鍵に付いている数字と、同じ数字が書いた部屋へと入った。
思わずマルクが部屋を見てうなった。
その訳は室内の作りである。
キングサイズのベッドが真ん中にある作りで他に何もない。
そう新婚用の部屋である。
「あわわ。エレノアったら気を利かせてくれたんですねー」
ラーミは明るい声で言うと、ベッドへと尻からダイブして大の字になった。
マルクのほうは何とも言えない顔になり、辺りを見回す。
(急に酔いが、さめてきたな……。意識のある状態で二人っきりの夜は初めてか。どうするか……。初夜になるのか相手は子供だぞ)
マルクの思いなど関係なしにラーミが宣言する。
「さて、夫婦と成ったわけですし、本日が初夜です!
サインをしたのを見た時から覚悟は決めてました。
よろしくお願いします!
あ、でも。初めてなのでゆっくり、やさしく、やってもらえると助かります」
よろしくお願いしますと、言われマルクは困り果てる。
中年に入ったとはいえマルクも男性である、知識と多少の経験はあるし欲もある。
だが、子供体系という事もあるが、それ以外にも、直ぐにラーミを抱こうとは思えなかった。
(大事な物と聞く、そんなのをオレが奪っていいのだろうか。結婚をしたから? いいや、信頼関係も何もきずいてないじゃないか……)
「あの? マルクさん?」
「一つ聞く。ラーミは、その子供を望んでいるのか?」
上半身だけを起こしてマルクを見た。
「んー、今はまだかな……。
でも、母から子供は早く作りなさいと教えられていたし、男の人ってこういう事が好きなんですよね?」
世の中には異常に好きな人間もいるし嫌いな人間もいる、マルクはどちらかといえば一般だ。
(直ぐに子供を欲しているわけじゃない、だったら焦る事は何もない。オレが我慢すればいいことだし、むしろ最近は欲もない)
「個人による」
マルクの返事の最中にもラーミは衣服を脱いでいく。
色気も何もあったものじゃない、子供の着替えそのものだ。
「ラーミ」
「ひゃい?」
「あまり若い時に子供が出来ると、母体が危ないと聞いた。
何も床を重ねるだけか夫婦の証でもないだろう」
「まぁ、そうですね、いやそうなんですか?」
半信半疑のラーミの言葉にマルクは力強く頷く。
(さすがに、命の危険があるとしれば、少しは引くだろう)
「だから、そうだな。あと四年、いや三年は待たないか?」
(その頃には彼女も大きくなっているだろうし、もしかしたら別れてるかもしれない、別れていたなら、ここで無理にする事もない)
「わかりました。
今は二人の時間を大事にするんですね。
では、約束ですよ! でも何となくですけど安心しました……。
やっぱ、マルクさんは好い人です。
では、一緒に寝るぐらいは大丈夫ですよね」
ころころと表情の変るラーミ。
勢いに負けてマルクも寝るぐらいはいいかと、返事をした。
「それぐらいならな」
◇◇◇
翌日二人が一階へと降りると笑顔のエレニアが店番をしていた。
「おっはよーラーミ、それとマルクおじさん」
「ああ、おはよう。宿を出る前に店主にお礼を言いたいのだが」
マルクは辺りを見回すもエレニアしか見当たらない。
「二日酔い。
後頭部が凄い痛いって騒いでるし今日は休むんだって。
お客という客も居ないからいいんだけど……。
二人とも同じだけ飲んだよね、あたしが今朝きたら酒樽三つ全部からだったんだし……」
「すまない飲みすぎたか」
「ううん。どっち道、八日もあったらお父さんが全部飲んじゃうから別に良いんだけど、二人ともタフすぎるって話」
マルクはエレニアに、体質だからなと、言う。
現にマルクが記憶が無くなるまで飲んだのはラーミと飲んだ時だけだ。
酔ってはいても、翌日にはすっきりしていて、前の日の記憶もある。
その度に、酒の勢いに任せてなんて事を言ったんだと、後悔する日もあった。
「マルクさん、ではいきましょうかっ!
エレニアっ! ご飯、とてもおいしかったです、また作り方教えてくださいね」
ラーミは礼を言うと、齢よりも年齢が上に見えるエレニアはカウンター越しに礼を言い返す。
「どういたしまして。山に行くんでしょ? 母さんに会ったらお土産よろしくって伝えておいて」
「わかりましたっ! 伝えておきますね。
では、マルクさん行きましょう」
「お、おいっ」
マルクのズボンをひっぱり宿を後にする二人、サンガク屋の宿ではエレニアが小さく手を振って見送っていた。
二人が出て行った扉を見るエレニア、その顔は呆れ顔で口を開く。
「に、しても。昨日は茶化したけど本当におじさんと結婚するとは……」
誰にも聞こえないように呟いていた。
◇◇◇
サンガク山。
竜が居る山といわれている山である。
言われているだけでここ数十年は通常日での目撃情報は無い、ただ、年に一回の祭りの時だけは必ず竜が現れるのだ。
その他にも、たまに化石となった竜の爪や皮膚などが発掘される。
どの素材も高く売れるが、発掘に手間隙がかかるし、生きた竜に出会うと低ランクの冒険者では勝ち目が無い。
かといって高ランクの冒険者だったらもっと他の事をしたほうが儲かる。
全てにおいて面倒な依頼なのだ。
だからこそ、無期限で張ってある。
マルク達は宿からでると直ぐに登り始めた。
現在の道はゴツゴツとした岩山。
景色がよく、ふもとの村。
さらに遠くにはマルクが居た町、マグナとその街道も見渡せた。
「気持ちいいですねー」
「ああ……。所で、黙って着いて来ているがアテはあるのか?」
「もちろんです。
きっとびっくりしますよっ」
「そうか、楽しみにしておこう」
(この二日で一生分は驚いたきがするな)
ひたすら山を登った。
竜を祭る場所からさらに奥へと進む。
「あ、ここから結界があるので、私の後に付いてきてください」
「わかった」
何も知らなければ、知っている人間のいう事を聞くしかない。
それは年齢に関係ないとマルクは思っている。
先ほどまで岩しかない山が、結界内にはいると緑一色にかわった。
突然の事で思わずマルクは驚きの声を出す。
「ね、すごいですよねっ! もうすぐですから」
小さな湖と滝が見える場所へと着いた。
近くには木製の小屋が建っており誰かか住んでいるのがわかる。
ラーミが湖の前で、
「エルドラさーーーーんーーーー」
と叫ぶ。
湖のふちに白い手が出ると、そのまま水面に人影が現れる。
豊満な胸と下半身には布を巻いた女性。
年齢は二十代前半に見え、頭にも布を巻き青い瞳で二人をみている。
水着の代わりなのはマルクでもわかったが、それでも目のやり場に困り小屋のほうを見る。
「なんだお前か」
「なんだとはなんですか、エルドラさんに、せっかく会いにきましたのに」
「お前が来るとろくな事がない、用件を言え、それに後ろの奴は?」
マルクは横を向いたまま話す。
「目のやり場に困るので横を向いていてすまない。
オレは冒険者のマルクで、その……」
ラーミが引き継ぐ。
「はい、私の旦那さんです」
エルドラは頭に巻いた布を取り、長い髪を絞りながら会話を続ける。
「………………面白い冗談だな」
「冗談じゃないんですけど、で用件なんですけど。エルドラさんの目玉か爪か、皮膚を下さい」
「面白い冗談だな」
「だから冗談じゃなくてー」
マルクには漫才に見える二人のやり取りが、滝の前で繰り返されていく。




