010 妻吼える
小屋の中にマルクとラーミが座っている。
取りあえず話を聞くと言ったエルドラ、そのエルドラが先に小屋で待てと、言ったからだ。
小屋の中はさっぷうけいで木製のテーブルと椅子しかない。
(生活する場所ではないのか? 結界内に居るという事は、かなりの人物と思うのだが、ラーミは知り合いらしいが)
「ラーミ、色々と聞きたい事があるんだが」
「なんでしょう。
あ、お話は後にしましょう、エルドラさんが帰ってきました」
青い髪を頭部でひとまとめにしてきたエルドラ。
その手には鉄で出来たバケツを持って入ってくる。
バケツの中には水がたっぷりと入っていた。
「こういう時は飲み物を出すと教えられたが、水しかない、飲め」
言葉と共にドンと大きいバケツがテーブルの真ん中に置かれる。
直ぐにラーミが文句を言う。
「エルドラさん、茶菓子がありませんっ!」
マルクが、そういう問題じゃないと思っているが口には出さないでやり取りを見ている。
「だったら手土産の一つでも持って来い…………で。何のようだ?」
「あ、スルーですね。
ですから、はじめに言いましたけど。眼と爪と皮膚を下さい」
「おい、ラーミ。
オレ達が受けたのはドラゴンの眼や皮膚で、人間のではないぞ……」
さすがに口に出して聞いて見た。
二人の目がマルクに集まると、エルドラの声が不機嫌になる。
「お前は、ここに人を連れ込んで、何も説明していないのかっ」
「あっ、てへへ……」
「一度死んでおけ」
「マルクさんっ実はですねっ、このエルドラさん、なんとエレニアのお母さんで。
さらにっ、この山にいる古代竜なんですよっ」
ラーミは自分の事のように自慢すると、エルドラのほうも満更でもない顔をしている。
「すまない。頭が追いつかない」
「じゃぁ、エルドラさん竜に変身をっ!」
振られたエルドラは即座に否定する。
「面倒だ」
「だーっ、それじゃ私が嘘を吐いているみたいじゃ。
マルクさん、そんな可哀想な目で私を見ないでくださいっ!」
マルクは別に可哀想な目で見ているわけではなく、詳細がわからないからラーミを見ているだけである。
エルドラはその二人を見て口元だけで笑うと、やれやれと、呟く。
「所で、お前髪が伸びたか?」
「そうですかね。
いまはまだ背中に届くか届かないかですけど、もう少し短くてもいいかなっておもってます」
マルクはラーミをみる。
余った髪の毛を無造作に束ねているので健康的なうなじが見えた、子供のうなじであるが、そこは異性だ。ちょっとだけ心拍数が上がる。
「男のほうは満更でもない顔をしているぞ。伸ばしたらどうだ?」
「ほ、本当ですかっ!?」
「いや、オレはその別にっ」
「しかし、こうも親しげに話す所をみると、結婚したのは嘘ではないのか?」
エルドラは腕を組んで二人を見る。
嬉しそうににやけているラーミと、慌てるマルク。
「所で疑問に思うのだが、男のほうは異常幼女性欲者か何かなのか?」
「違う」
「ちがうと思いますっ」
エルドラは二人の否定の言葉に一歩下がる。
「しかし、コイツの体は……とてもじゃないが、同じ歳の娘と比べると背も胸も小さいぞ。我の娘と比べてみたか?」
娘とはサンガク屋にいるエレニアの事を言っている。
マルクは思い出す。
同じ年齢と言っていたが、明らかに成長度はエレニアのほうが上だった。
「私はこれから伸びるし、大きくもなるんですーっ! 三年後にあっと言わせますからっ!
それより、眼、爪、皮膚、古いので良いので無料で下さいっ!」
「おい、男」
「なんだろうか?」
突然呼ばれ返事をする。
「竜の眼、爪、皮膚はそれぞれいくらで取引されるんだ? 冒険者と言っていたならわかるだろう?」
「それぞれが金貨三十……、まとまるともっといく、とは思う」
ちなみに毎日外食と酒を飲む生活でも金貨三十枚あれば四十日ぐらいは暮らせる。
マルクに至っては自炊もしているので金貨五枚もあれば同じぐらい過ごせていた。
「我がドラゴンで古い眼などが余っているにせよ、横暴と思わないか?」
「エルドラさんは数年に一度脱皮をして、古い爪や眼などは生え変わるんですよ。元はただです」
対価を払えというエルドラと、元が無料だし知り合いだからダタでくれ、どちらが悪いのかは冒険者だったら直ぐにわかる。
そもそも、元が無料だったらタダになる理論でいくとマルクが採取する薬草だって無料で売らないとならない。
「すまない。貴女が竜などの話は信じられないが、買い取る手持ちが無い。
迷惑をかけた、ラーミ、帰ろう」
「ちょっと、マルクさんっ。ギルドには……」
「オレが説明しよう」
(どうせ万年Eランクだ。いまさら依頼失敗して評判が下がっても平気だろう、オレがラーミに無理に頼み込んでした依頼となれば、ラーミにも迷惑は少なくてすむ)
ラーミの手を握り外へ行こうとするマルクをエルドラが呼び止める。
「まぁ待て、話をちゃんと聞いていけ。
男のほうは、案外しっかりしているが、早いと損をするぞ。
エレノアの友人相手に金儲けをしようと思わないし、別に金じゃない、少し運動に付き合ってくれればいいだけだ」
「運動ですか?」
「えー……とんでもなく嫌な予感はしますけど、しょうがないですね」
◇◇◇
話はまとまり三人は小屋の前の広場にいる。
マルクから見て右にエルドラ、左にラーミが立っていた。
運動と言っても簡単な試合らしい、胸の所につけた薄い木の板を割ったほうが勝ち。
練習試合だ。
「少しだけ本気を出すぞ、泣き虫だった奴の成長を見て見たい」
「どうぞ、どうぞ、私もそうしますし。私に負けて泣いたのは誰でしたっけね」
エルドラの挑発を挑発で返すラーミ。
「ふっ」
エルドラが少し笑うと、その姿を変えていく。
手足は一回り膨れ上がり爬虫類の手になった。
尻の部分からは尻尾も生える。
マルクは驚きで最初は声も出なかった。
いくらラーミがエルドラはドラゴンだって言っても、本当だとしても頭が理解していなかったからだ。
もしかしたら、人里から隠れてすむドラゴン研究家か何かかと思っていたからだ。
(しかし、アレを見ても冷静なラーミだ。Bランクという実力もみれるかもしれない。ここでオレが取り乱し、水を差すわけには……)
マルクは自分が取り乱してはいけないと、冷静を装い。
試合開始と、宣言した。
マルクはラーミの強さを始めてみた。
エルドラは竜に戻した手を前方に出すとその爪の隙間から青い光線がラーミに向かって走る。
魔法の一種だろう、詠唱すらしない強力な魔法は真っ直ぐにラーミ飛んでいく。
ラーミは、その小さな肉体だけで立ち向かっている。
光線を両腕でガードすると、ガードからもれた光線が後ろへと流れる。
背後にある木々が音を立てて焦げていった。
「魔法だなんて卑怯ですっ!」
「そういうお前だって、強化と回復魔法を使っているじゃないか……」
「それはそれ、これはこれですっ!」
反撃へとダッシュしたラーミは、勢いをつけてエルドラを殴ろうとする。
エルドラはその攻撃を予測していたのだろう青い障壁をだしていた。
「甘いですっ!」
「そっちもなっ!」
その障壁を自らのコブシひとつで殴りぶち破る。
いつの間にかエルドラも肉弾戦へと切り替えていた、障壁が破られると同時に尻尾で攻撃をする。
胸の板を守りつつ背後へと吹き飛ぶラーミは、直ぐに起き上がり反撃に移る。
一進一退の肉弾戦。
常人なら致命傷、いや即死にみえる打撃すらお互いに受けていた。
マルクはその戦いをしっかりと眼に焼き付ける。
(とてもじゃないかBの強さではない……夢でも見ているのだろうか)
◇◇◇
お互い肩で息を始めた頃。
エルドラが、
「はぁはぁ……さて、もうそろそろ決めさせてもらおう」
と決め台詞を言う。
「なっこっちのセリ、セリフです」
対するラーミも気合は乗っている。
二人が同時突進した。
エルドラがラーミの顔面へ殴りかかる。
ラーミは口元で笑うと、その拳へと、自らの拳を被せていく。
クロスカウンター。
先にパンチを放った上からパンチを放つ技。
相手の勢いも利用するカウンター技、ラーミはその一撃を狙っていた。
勝ちを確信していたラーミは笑みさえも浮かべる
これでラーミの勝利は決まった…………当たればの話。
子供体系のラーミの腕の長さと、大人の体系であるエルドラじゃ、腕の長さからして違う。
ましてやエルドラの手はドラゴンの手であり人の時よりも長い。
先にエルドラのパンチがあたり、ラーミはその地面へと沈んだ。
空に向かって拳をあげ、勝利を堪能するエルドラがマルクをちらちらと見ている。
それに気づいたマルクが大声で、
「試合終了!」
と、叫んだ所で試合は終わった。




