006 妻は冒険者を煽る
最初は楽しそうに聞いていたギルドマスターのフィであったが、段々と眉を潜め、難しい顔をする。
なぜ難しい顔をするのかといえば理由は一つ、結婚解消。
つまり離婚への手続きの事に付いて。
一口お茶を飲んだ後に喋りだした。
「難しいな、手は無いわけじゃないが金も時間もかかる。
そもそも好きじゃなかったら何でサインをしたんだ?」
言いにくそうマルクは頭を少し掻く。
「それはその、二人とも酔っていて……」
酔った勢いでサインしたと正直に話す。
納得したフィは、それならと、続きを話し出した。
「なるほど、酔うと本性が出ると聞く。
だったら本性をさらけ出してサインしたんだ、別にいいじゃないか?」
暴論にも聞こえるが、一理ある。
「それに、奥さんになる、ラーミのほうは満更でもない顔をしているぞ」
「えっ、まぁ……。サインをしたんですし、それもしょうがないかなって思ってます。それに、今まで会った人よりも私の事見てくれてますし。こういうのは運命って言うんですかね」
ラーミの頬がほんのりと赤い。
「だ、そうだ。
解消しようとしているのはマルク、お前だけだ」
マルクはさらに困り果てる。
(やはりダメなのか……。しかし、こんな中年の俺で本当にいいのだろうか?)
マルクの考えを覗いたかのように、
「諦めろ」
と、短く言い放ち、笑みを浮かべる。
「とはいえだ。本当に二人が生活してダメな場合、その時は手を貸そうじゃないか、どちらかを犯罪者にして縛り首にでもすれば、無かった事ぐらいは出来るだろう」
その言葉にラーミが直ぐに反論した。
「ダメですっ! 私にも責任があるのに、マルクさんばっかりに迷惑を掛けるのわっ」
「もちろん縛り首は冗談だ。
そこは君が受ける選択肢はないんだな」
「それはそうですよ。私は覚悟を決めましたし」
「どちらにしろ、好意があるならいいんじゃないか? 世の中には、嫌いでもしないといけない結婚がある」
政略結婚というやつだ。
貴族などに良くあり、王族になると日常茶飯事である。
その他金の為になど、お前達二人はまだ幸せ者だと言っているのだ。
ギルドマスターのフィは畳み掛けてくる。
「それに考えても見ろ。
マルク、お前はEランクだ、歳もええっと……、ギルドカードによると三十七。
そこにこれだけ若い女が妻としてくる、今は色々と思う所もあるかもしれない、しかしどうだ? 五年後を想像してみろ。
きっとラーミは美人になっているぞ」
「美人だなんてそんな……」
言葉の裏には、今は美人ではないと言っている様な物だが、ラーミは気づいていない。
「そういうわけだ。
とりあえずは暫く一緒に過ごせ」
ギルドマスターとの話し合いは終わった。
結局マルク的には何も解決されないまま。いや、結婚をしたと周りに広めるだけに終わった対談であった。
部屋から追い出され、廊下へと出た。
廊下ではラーミが笑顔で、マルクを見つめる。
「じゃ、責任とってくださいね! もちろん嫌とはいわないですよね?」
「ああ……。わかった、努力をしよう」
「努力じゃなくてですねっ! あっ先に行かないで下さい」
◇◇◇
一階へと戻ると、周りの冒険者が好奇の眼をしてみていた。
直ぐにでも帰ろうと思ったマルクにラーミが提案する。
「せっかくなので依頼を受けましょう」
「依頼?」
「あの、そんな不思議な顔をされても、冒険者ギルドなんですし仕事の依頼ですよ」
「俺は別に――」
薬草を採っていればいいと、言おうとした所で口が止まった。
(そうだ、薬草の買取は半額以下、貯金は無い、この子を食べさせるために稼がないといけない
彼女の稼ぎをあてにするほど俺はだめな男か?)
「わかった、そうしよう」
「でわっ」
依頼掲示板を眺める二人。
マルスが眺めるのは冒険者ランクFからEの依頼。
内容は空き瓶回収、雑草採り、野鳥の保護、食用野鳥の確保など、時間制限がなく何時でも募集している任務であり資金も安い。
DやCになると、近隣の森にでるモンスターの退治などがある。
どの依頼にしようか悩んでいるとラーミが一枚の依頼書を持って走ってきた。
「決まりましたっ! カウンターへ行きましょうっ」
「お、おいっ」
マルスを引っ張り依頼カウンターへと向かう。
そこでマルスは気づいた、普段よりギルド内の人間が多いのだ。
ぐるっと首を回すと、一斉に視線をそらす冒険者とギルド員達。
簡単に言うと皆、好奇心の塊なのだ。
万年Eランクの中年が突如嫁を連れてきた。
そして、薬草しか採ってこない人間がギルド依頼をする。
それが気になり、冒険者も帰らないで二人の様子を見ていた。
ラーミは小走りに依頼カウンターへとマルクを連れて行く。
依頼カウンターにはランランと書かれたギルド員が受付をしていた。
歳は二十代で綺麗な女性である。
このギルドはギルドマスターが女性であるので男性が少ない。
「結婚おめでとうございます。依頼ですね、では依頼書を拝見します」
ラーミは依頼書をランランへと渡した。
その内容を目で追っていたランランは、紙を下げると、何度も紙とマルクを交互に見る。
「すみません。依頼書のランクがBランク、パーティー任務になっているんですけど……」
「なっ!?」
紙をカウンターへ出すと、マルクもその内容を初めて読む。
サンガク山にいるレッドドラゴンの鱗、爪、目玉どれかを採取。
「すまん、間違え――」
「間違えてませんっ。緊急依頼でもないですし、期限もない、ランクは私が対応できますし、パーティーでの討伐も可能です! 尚且つ違約金がないのも魅力です」
「ではギルドカードをお願いします」
ラーミは素早くギルドカードを手にして動きが止まった。
カウンターに出したくないような顔をマルクに見せている。
マルクは不思議に思ってラーミを見ていると、受け付けてやれと女性の声が聞こえた。
二階からギルドマスターのフィが欠伸をしながら降りてくる。
「ラーミはBだよ、自称な……もっとも規格外のBだ。
普段はこれを使え」
ファはラーミに一枚のカードを渡した。
ラーミの名前にランクがBとかかれており、その下にも色々と見たことの無い文字が書かれている。ギルドでしか読み取れない特殊文字だ。
「ギルマスっ!」
ラーミのギルドランクはその場にいる冒険者へと伝わる。
まじかよ……偽造?
小さいのにありえない。発行したギルドの基準はどうなってるんだ?
おいおい、俺は冒険者になって十三年でまだCだぞ。
それはお前が弱いからじゃね?
などなど。
(自称? もしかしてBより上なのか……? いやラーミがBというんだ。俺が聞くことではない)
「じゃ、そういう事で大丈夫ですよね」
「あ、はい。規定は問題ありませんけど……本当に受けるつもりですか?」
「はい。期限もないですし、違約金もない。その代わり早い者勝ちですし、ここの冒険者の人は随分と口だけの人が多いんですね」
ラーミは大きな声であおる。
やはり、悪口に少し腹が立っていたのだろう。
当然周りの人間は黙っていない。
筋肉質の男が二人の背後に立った。
背は高く、上半身はタンクトップでたくましい筋肉をピクピクさせている、しかし頭のほうはツルツルである。
「おい、がきんちょ。口だけってのはどういう意味だ?」
「言葉の通りです。陰口ばっかりでこんな美味しい依頼が残ってるだなんて」
「あのな? 他じゃしらねえがココにはココのルールがあるんだよ。そんなに言うなら少し力試しをしてもらうか?」
「ランクはいくつでしょう?」
「ああ? オレはCだ。豪腕のミッシェルといえば俺様の事よ」
完全に名前負けである。
「では断ります。ランクBの私が貴方に勝つ未来しか見えませんし、私にメリットが何もありません。
私が勝ったら女子供だから手加減したって周りにでも言うつもりなんですよね、それだったら相手にせず依頼を受けたほうが私にはメリットがありますので」
「おまっ……」
喧嘩を売りに言ったのに口喧嘩すら負けて顔を赤くする。
「私の言いたい事はおわりましたので、どうぞお帰りください。では行きましょうマルクさんっ」
「お、おい」
マルクの服を引っ張り外へでた。
あっけに取られるギルド内であった。




