005 妻と認められる
マルク達は再び、冒険者ギルドへと足を運んだ。
雑談所、依頼掲示板、総合受付から買取受付など、多種にわたる業務をしている分、人はそれなりに多い。
何時もは薬草袋を背負ったマルクが、少女を連れているのを見て一瞬ギルド内がざわついた。
マルクは顔なじみの買取カウンターへと足を運ぶ。
今日も店員は眼鏡を掛けたミーアである。
「マルクさん、おはようございます。買取でしたら今週はもう買い取れませんけど……」
「今日は違う用件ができた、ギルドマスターは居るだろうか?」
「申し訳ありません。直にお会いする事は、その許可や紹介状などがないと」
もっともである。
誰でも彼でもギルドマスターに会えるなら大変である。
「それと、こちらの女の子は、昨日来てましたね」
「はい。おかげ様で探していた人に会えました」
「人探しの依頼でしたので、お金を出してもらえれば、それなりに探します」
それなりにというのは、ギルドには個人情報を守らなくてはならない義務もあるからだ。
人を探したいといって誰でも彼でも秘密を教えるような事はしない。
ラーミがマルクを探せたのは、遺言状に付いていた他ギルドと王国マークの力が大きい。
マルクはラーミと目線を合わせて一枚の紙を出す。
特別な紙で、ギルドも使っている丈夫な紙である。
「あら、特別発行書、いえ……。王家の印が入ってますね。なるほど紙の取替えですよねええっと……」
「そのすまん。少し小さい声で頼む、実はこれを――」
どうにかして解除出来ないか?
相談という形でギルドへと来たのだ。
「わかっています。冒険者のプライバシーは守るつもりです」
少し不機嫌になった受付のミーアはその内容を目で追っていく。
ラーミ・ランフ・ヴァミューは、母サナ・ランフ・ヴァミューの遺言により、ツードリーの街に居た冒険者、マルクの伴侶となるのを願います。
なお、マルクが独身に限りであり、双方の意見を尊重する事。
王都ギルド冒険者発行ラック 王家宰相ナルラモーネ
その下に。
ラーミ・ランフ・ヴァミューとマルクのサインそして血の印が押してある。
受付のミーアは書かれている文を目線で確認したのち、立ち上がる。
満面の笑みで、
「結婚おめでとうございます!」
と、拍手をする。
これは別に嫌味でもない。
心ではどう思っているかは置いておいて、マニュアルみたいなものである。
めでたい事は是非祝おうという精神だ。
数秒前のプライバシーはどこ行ったと思わせるが、仕方がない事なのである。
直ぐに後ろにいる冒険者達がざわつく。
な、あのおっさんが結婚っ! 相手は、おい犯罪じゃないかっ!
ばーか、連れ子だろ。
いや、他に女性が見当たらない所をみると、隣の子じゃないか?
なるほどな、変態主義者で今まで女性の話聞かなかったわけだ。
薬草じゃなくて、違法な薬を使ったんじゃないか?
はー、冒険者ランクCなのに俺に彼女できないのはなんでだっ!
あら、女の子は可愛いじゃない、あの二人の中には愛があるのよ。
などなど、男女小さな声が飛び交っている。
「いや、そうじゃなくて……。ギルドマスターに」
「あ、そうですね。
直ぐに手続きをしますので」
「そ、そうじゃなくてだな」
マルクの話を聞かないで、パタパタと席を外す受付の女性。
隣にいたラーミがポンとマルクの背中に手を当て首を振る。
諦めてくださいと。
暫くすると、二階から元気が良さそうな長身の女性が降りてくる。
長い金髪を一つにまとめている。透き通るような白い肌で歳はマルクより若い20代の女性に見える。
ただ、彼女はエルフと人間の混血、ハーフエルフという種族で歳は当然マルクよりも上だ。
表に出てこないギルドマスターを初めて見た者も多く、ギルド内がざわつき始める。
「君がマルクだな。ギルマスのフィだ口を聞くのは始めてかもしれないな、何時も薬草をありがとう。
他の者は悪く言っているかもしれないが、君の薬草は良く効くし、顧客にも評判がいい。この度はおめでとう」
社交辞令としても、自ら集めた薬草を褒められるとマルクも嬉しくなる。
一方、余りにも若くみえる姿に、ラーミが驚いた顔をして見ていた。
「ああ、私はエルフの混血でね。
君がラーミか、噂は聞いているよ、いろいろとね」
にやっと笑うフィに、小さくなるラーミ。
「なんだ、めでたい話なのに、当人達は……残りの手続きは私がしよう。
ミーア、この二人を上へ。
あとは事務に戻ってくれて構わない」
「ギルドマスター。暇なんですね……」
「もちろんだ」
わかりましたと、言うと、ミーアは命令を受け、二人を二階へ通した。
ギルドマスターの部屋と書かれたプレートの部屋に招かれる。
室内は高そうなソファーに、テーブルに本棚。あとは机ぐらいな簡素な部屋であった。
机にあったティーポットを掴むと、お茶を入れ二人に振舞う。
一口飲んだラーミが驚いた顔をした。
「あ、この味」
「ああ、マルクが持ってきた薬草を煎じた茶だ。さすがに妻となる者は味がわかるもんなんだな。
で、用件はなんだ。新婚なのに暗い顔をしているから上に連れて来たが、金の話か? 新婚ならかかるからなー。
通常Cランク以下には融資はできないが、彼女のほうなら大丈夫だろう」
ハキハキと喋るフィにマルクが対応する。
「なるほど、ラーミがBランクなのはギルマスは知っているんですか」
「Bランク……?」
フィが一瞬怪訝な顔をするとラーミへと向き直る。
「B、Bランクです!」
「そうか、Bランクか……まぁそうだな変わったBランクだからな。
と言っても風の噂ぐらいにしかない、彼女を手篭めにしようとした貴族連中は全員再起不能になって没落したと聞いている」
ミーアが立ち上がり、直ぐに座った。
「なっ違います、全然ちがいますからっ!
ただ、余りにもしつこいので、女子供より強いというのでちょっと訓練しただけです」
「ふむ、両手両足骨折させた後に、回復魔法をかけて、さらに折ったと聞くぞ?
他にも冒険者なら――」
(黙って聞いていたが、ラーミは魔法も使えるのかっ! しかしBランクといえば当然なのか……)
驚かないように注意しながらマルクは話を聞いた。
(しかし、小さな女の子が何の特技も無くて冒険者ランクBになれるわけが無い、当然か)
「ストーップ。あの、今日は相談しに来たんですけど」
過去が暴かれる前にラーミは会話を止めた。
「ああ、そうだったな……。でなんだ? 他のギルド員が優秀すぎてな、他はしらんが、私は暇そうに見えて暇でな、かといって外に冒険でも出ようとすると周りが止めて本当に暇なんだ」
マルクはギルドマスターの机を確認すると、読みかけの本とお茶が積まれていた。
本当に暇らしい。
忙しい人ならば相談も出来ない。
暇なギルドマスターに感謝しつつ、実は……と、マルクは今回の事を説明し始めた。




