004 妻(仮)と慌てる
マルクは自ら掘った井戸から水を汲むと、豪快に顔を洗う。
直ぐに、玄関の扉が開かれた。
ラーミは寝癖がついた髪を振り回し辺りを見回す。マルクを見つけると、慌てて口を開いた。
「マルクさんっ!」
「ああ、おはよう」
「あ、おはようございます。
じゃなくてっ! 見ました!?」
マルクは当然ギルドカードの事を言っているのと思いすぐさま答える。
「悪いと思ったので見ては居ない」
「なんで見てないんですかっ!」
「他人の大事な物を見る癖はないんでな、さて朝飯にしようか」
「何を言っているんですかっ見てくださいっ!」
ラーミはマルクに一枚の紙を見せた。
遺言状と書いてあり、二人の名前が書かれている。
マルクは、持っていたタオルをその場へと落とした。
◇◇◇
二人は室内でそれぞれに座っていた。
合意の下に結婚します、その紙に名前と血印が押してある紙をテーブルへと広げた。
(何故こうなった……。確かに昨夜は記憶が飛ぶぐらいに飲んだ。俺はどうしたらいい? 子供と結婚? 俺に養えというのか? いやまて、彼女は俺よりも高ランクだ。十四才のヒモになるのか……そういう問題じゃないな、彼女に悪い)
ラーミが紙をみながらポツリと話す。
「ギルド規約で、紙の提出をしなければ……」
遺言状、紙の劣化を防ぐ為に定期的にギルドで取り替える決まりがある。
ラーミはその事を言っているのだ。
このまま出せば結婚を認めた事になる、だからといって提出しなければしないで大きな罰則もある。
「期限は何時だ?」
「明日です、あのマルクさんに会ってから出せばいいかとおもってまして」
「そうか……婚姻の解約の手続き……金貨数千枚が居ると聞いた」
「そこまで持ってないないですね」
「そうだ! この場合、もし片方が死んだらどうなるんだ?」
「はい? ええっと、既に印は押していますので、残されたほうは相手を選ぶ選択肢が復活する――」
ラーミは何かに気づいたように両手をテーブルに叩きつけた。
「ダメですよっ! 変な事考えてないでくださいっ」
「まだ、何も言っていない」
「じゃぁ、何を考えていたか言ってくださいっ!」
言ってはいないが少し考えていた。
「それに、別に自殺するわけではない。
ご覧の通り、オレはもう冒険者としてのピークを過ぎている。
死んだ事にしてくれれば、何処か離れた山奥でひっそりと暮らそう、幸い薬草には詳しいんだ」
(孤児院の寄付も、もうそろそろ大丈夫と言ってくれたしな)
「ダメっ! それにその案は大事な事が抜けています。
マルクさんが自殺する理由が無いですし、喧嘩としたら誰か貴方を殺すんですかっ。
私がマルクさんを手にかけるんですかっ!?
それに、そんな思いつめるほど私と結婚したくないんですかっ!?」
「いや、そういうわけでは……。君はどうなんだ」
確かにラーミに失礼だったと、マルクは素直に謝る。
夫婦となった者が殺し合いをすればもちろん重罪だ。
一応この国ではやむ得ない場合と特例での殺人以外は罰せられる。
そうしないと、国として成立しないからだ。
特例というのは冒険者ギルド所属の冒険者や国の兵士などである。
兵士の場合はもちろん国の命令。
冒険者の場合は、依頼主を守るためなど、こちらは主に山賊や盗賊、さらには殺人集団などをせんめつする時に適用される。
しかし殺す事が可能だからといって、殺人が推奨されているわけじゃない。
「私は、最初は母のいう年上の婚約者なんてと思ってましたけど、その私を真っ直ぐに見てくれてますし、酔った私が良いと判断したのでしょう、印が押してある以上、それも――」
――いいかなと、まで発言しているが段々と声が小さくなっていく。
「マルクさんはどうなんですかっ! 私が小さいからとか顔がブサイクとか、いやなんでしょうか?」
「俺は周りが言う美人、美人じゃないってのは疎い。
しかし、ラーミは可愛い顔をしていると思う、体は小さいかもしれないが、身長の低い高いでも好みは特に無い、しかし結婚となると……な……」
マルクのほうも、口や理性では嫌がっているが、そこまで嫌でもないのに気がついた。
数年ぶりに飲む、他人と酒。
いつもは楽しくないのに、ラーミと飲むと自然と酒の量が増え、楽しい時間だったのを思い出した。
「言い切らない事は、じゃぁ、マルクさんは私の事を好きって事で、いいんですね」
ラーミが確認し始める。
マルクは慌てて首を振った。
「結論が早すぎる。
好意はあるのは認めよう。しかし君はこんなおじさんのどこがいいんだ?」
「安心感でしょうか? 優しそうですしろくな出会いもなかったので」
「なんにせよ俺達二人が、ここで考えても結果は変わらない。
ギルドに行って相談しようじゃないか」
「あの、それでもダメだった場合は、どうするんです?」
「その時は、オレも男だ。責任は取ろう」
マルクが言い切ると、ラーミは少し笑顔になった。




