003 妻(仮)と飲む
お腹が減りましたと、言うラーミに軽く料理した物を出す。
マルクの所にも同じ料理を置き、最後に薬茶を入れて差し出した。
「いただきます」
「では頂こう」
珍しいな、挨拶は出来る子かと思った矢先、ラーミは突然に叫んだ。
「な、なんだっ!?」
「あれですよ、あれ!」
ラーミは酒瓶を指差す。
「酒だな」
「酒です!」
先ほどマルクが買ってきた、銀貨三枚前後というちょっとだけ奮発した、上流酒である。
「お酒があるじゃないですかっ!」
「……あるな」
二度目の発言にマルクは戸惑う。
(酒に何が悪いイメージでもあるのだろうか? 確かに飲み過ぎは良くない。
思考も低下する場合があるのは知っているが、集中力が高まったりもする)
ラーミはマルクの不安な思考をよそに、お願いをしてきた。
「一口下さいっ!」
「なっ……に」
マルクは迷った。
(ど、どうする……)
一応国によって成人の扱いが違う、マルクのいるカーベランスの国では成人が大体十才で、ギルドに入れるのもそれぐらいだ。
しかし、十才でギルドに入っても出来る事は少ないので十~十六ぐらいからギルドに入るのが一般的になっている。
アルコールに関しても明確な決まりは無く、十才でお祝いだから一口飲ませるなどそんな程度の認識だ。
「一口でいいんですっ」
マルクは媚を売った声を出すラーミに思わず鼻で笑う。
「笑うだなんて、酷いっ。
こっちはお願いしているんですっ!」
「す、すまない。
余りに、子供っぽくてな」
「失礼です、これでも冒険者なんですからっ、お酒ぐらい飲みますっ」
マルクはその発言に驚いた。
てっきり、貴族の遺産か何かで自分を探しているのかと思っていたからだ。
(この子ぐらいならFかEか……。もしかしたらDもあり、いやさすがにDはない)
「それは悪かった」
ちなみに、冒険者だからお酒を飲むってのは理由にはなっていないが、二人とも気づいていない。
「わかって貰えれば、そしてお酒を……」
「それじゃ駆け出し冒険者に一杯ご馳走しよう」
別に悪気はなく、当たり前の反応なはずであるが、ラーミは一瞬キョトンとしたあと、挙動不審になった。
「そ、そうですね。ありがとうございます」
マルクは斜めにした酒瓶を縦に戻した。
それまで、飲めると信じていたラーミの顔が、なにするんですかーと、言いたそうにしている。
言わないのは、言ったら分だけ話が長くなりアルコールが飲めないからだ。
「駆け出しじゃない?」
「え、えっと。一応、貴方を……マルクさんを探すのに三年、それよりも一口」
「あっ、ああそうだな、すまない」
コップに酒が注がれて行く。
半分ぐらい入れた場所でマルクは手を止めた。
ラーミはもっと注げと顔に出ているが、最初に一気にいれてもなと思っての事である。
「では、いただきます」
チビチビ飲むものと思っていたら、ラーミは酒を一気に飲み干す。
小さな胸を手の平で抑えると、喉から胃に通る感触を堪能しているようだ。
「なるほど、生ける口か」
「たしなむほどですけど」
たしなむ飲み方ではない。
マルクも自分のコップへ注ぐと一口、二口、口の中で味わいながら飲む。
飲んだばかりなのにラーミの顔が険しくなっていく。
「吐きそうなのか?」
「ぶー……、違います。
マルクさんは何でも、自分でするんですね。
目の前に女性がいるのに、酒を注げなども言わない」
マルクにとっては子供に見える。
そんな子供に注いでもらってもという気持ちがあったから何も言わなかっただけだ。
もっとも、綺麗な女性がいても自分で注ぐだろう。
「一回ぐらいお酌します」
「え、いや。酒には自分のペースというのがあって……」
「今日だけなんだし、いいじゃないですか」
瓶を奪い取ると、まだ残っているコップへと九分目まで注ぎ、空になった瓶は足元に置く。
一瓶空いたのだ。
マルクのコップには酒があり、ラーミのコップは空である。
マルクは立ち上がった。
カマドの横に積んである木箱から、種類の違う酒を適当に合わせて三本手に取った。
テーブルの上へと置くとラーミは目をパチクリさせて、酒ビンとマルクを交互にみる。
「良かったらどうだ」
「いいのですかっ!?」
目を輝かせてその瓶を見ているラーミ、小動物のようで思わず微笑んだ。
「ああ、オレも、もう少し飲みたいと思ったんだ」
嘘ではない。
一週間に一度、孤児院で大勢で食事を取るが、アルコールは飲まない。
普段の食事も一人だし、誰かと釣ることも無い。
同じ酒飲みと解れば何となく嬉しい者だ。
遅くまで飲む。
二人の足元には空き瓶が増えて行き、秘蔵の酒すら飲んでいく。
「聞いてますかっ!? いいれすかっ!」
「ああっ、聞いているっ」
二人とも顔が赤い。
別にどちらも怒っているわけでなく、ただの酔っ払いと成り果てている。
口調が怪しく二人とも大きな声で話している。
「私は別に、結婚なんて、どうでも」
マルクが持っているコップには並々入った酒がある、それを一気に飲み干した。
「なるほどな、俺はいい男だろうかっ?」
「少し年配ですけど。
でも、思ったよりー悪い人ではないでしょうしーっ。
そもそも、貴方はどうなんですかっ!?」
マルクは酒ビンを飲み干すと、赤い顔でラーミを見つめる。
「俺は別に、ただ君と。
ラーミと飲むと酒がおいしいと思っている。明日、いや。 ギルドへ行って解約の手続きをする。数日もすれば、オレ達はもう会う事もない。何かの縁だ、今日はどんどん飲もう」
「そうですねっ! まぁ、どうしてもって言うなら……。
あ、あしたギルドへ行きましょう。
それにしても、このお酒おいしいです」
「秘蔵物だからなっ」
所でラーミが、二十以上も歳の離れているマルクに、かなり好感度があるのは、父を見ず育ったのが影響している。
簡単に言うとファザコンだ。
さらに、今まで彼女に寄ってくる男性は子供と思って利用しようとしてくるか、ただの幼女愛の激しい男性ばかりである。
その点、マルクは多少の子供扱いはしているものの、先に一人の人間、冒険者として扱ってくるし、顔もよく見れば渋い。
体つきも普段から山を歩くのですらりとした筋肉が付いているし、同じ酒好き。
結婚を前提に付き合ってもいいぐらいと思い込んでいる。
明け方まで続いていた酒盛りは、いつの間にか静かになっていた。
昼少し前の光が室内に入ってくる。
いつの間にか床で寝ていたマルクは、気持ち痛む頭を振って室内を見渡した。
空き瓶が転がり、椅子もテーブルも倒れている。
調理場には肉が焼かれており、冷たくなった肉片を口に入れて一口かみ締める。
(飲みすぎたか……。今まで記憶が無くなるまで飲んだ事は一度も無いはずなんだが。ラーミとか言った娘はどこだ?)
マルクが狭い室内を見渡すと、普段寝ているベッドの上で大の字になって寝ていた、その服は少しめくれていてヘソが見えている。
(冒険者とは言え、まだまだ子供だな……)
近くにあった毛布を掛けようとして、ラーミの腰から冒険者カードが飛び出ているのか見えた。
冒険者カードは当然の事ながら大事な物である。
身分証になっており、街へ入るのにもスムーズになるしギルドの特典も得られる。
だからこそ盗まれないように大事にしないといけない。
(戻しておいてやったほうがいいだろう……)
ラーミの冒険者カードに手を掛けようとしてマルクはとめた。
人の持ち物をさわる物ではないと、そっと毛布をかけると、顔を洗いに外へと出た。




