038 妻は宣戦布告をする
宿の主人に謝り多額の金を渡し、ニイケルを部屋に招き入れた。
なお、騒動には世の中金次第な所はあり、泊まっている客には翌日に大量のお土産を渡す事、宿の主人にも、多額の迷惑料を払う事で解決した。
宿の主人にいたっては、何日でも騒いでくれという始末である。
元々二人部屋であった部屋には今は五人いる。
最後に入ったニイケルが、まず口を開いた。
「やっぱりラーミさん達でしたか……」
ラーミは不思議な顔で聞く。
「あの、ニイケルさんは、何でここに?」
「ムツナイの冒険者ギルドにマルクさんが指名手配されまして。
こっちのギルドマスターのロウが確認のために様子を見て来いと。
さらに中央ギルドに行くと、既に特級依頼が発動されてますし。
情報を集めていたら、体格の似た駆け出し冒険者が泊まっていると聞いて、確認しにきたんですよ。
まさか襲われるとは思ってませんでしたけど」
「それはどうもすみません」
ラーミが謝ると、大丈夫ですよと、さわやかな笑顔を見せ付ける。
「所で、こちらの方は?」
気になっているのだろう、トットマとミイナを見るニイケル。
トットマが代表して喋った。
「二人に助けられた。俺はトットマと、こちらはミイナ」
「なるほど、俺もそうですし仲間という事で大丈夫ですか?」
話を振られたマルクは、考えてから頷く。
「こちらが困っていると助けてくれているパーティーだ。オレ達の事だけであれば大体の事情は知っている。
他にも一緒に行動している五人がいるが、それは別の宿にいる」
ニイケルは丁重に礼をいい、自身の事をムツナイのギルドマスターから様子を見に来た魔法を使う冒険者と、紹介した。
トットマもそれに習い、マグナのギルドマスターから様子を見に来た冒険者と挨拶する。
自己紹介すると、五人は一度落ち着いた。
これまでの状況を軽く説明し、いっその事国外へ逃げたほうがいいかなと、マルク達は話した。
「人脈というか凄いですね、二つの街のギルドマスターが眼に掛ける冒険者、中々いませんよ」
(そういわれると凄いな……、数ヶ月前じゃ考えられない)
「ありがたいな」
マルクが素直な礼を言うと、ニイケルは笑みを浮かべ話し出す。
トットマが力強い青年であるなら、ニイケルはさわやかな青年であった。
「『相手が正義を盾に取るならこちらも正義を盾にすればいいんじゃ』とギルドマスターなら言うと思います。
こういうのはどうでしょうか?」
四人はニイケルの案を黙って聞く。
一通り説明を受けた後にマルクが口を開いた。
「オレに出来るのか……?」
「面白そうですっ!」
「面白そうね、私達に出来る事はあるかしら」
「それでしたら――」
不安な事をいうのはマルクだけであり、ほかの四人はやる気満々だ。
作戦会議は結局朝まで続いた。
まず、ニイケル、マルク、ラーミはギルドへ行く、昨夜の特級が発動された事によりギルド内は混んでいた。
先頭はニイケルであり、マルクとラーミは今日は変装していない。
もちろん顔は隠すようにフードを目一杯出している。
ニイケルは、顔が油まみれで、頬にぶつぶつが付いて、尚且つ、けだるそうで、憎たらしい顔のナルの前まで歩いた。
「あの、用事があるのですが」
「ああん? 忙しい、後にしろ」
「そうですか、仕方がありません、ラーミさん、マルクさん別な所へ行きましょう」
わざと大きな声を上げるニイケル。
口が大きく開き、固まると直ぐにニイケルを呼び止める。
「まて、その名前はっ!」
「忙しいのでしたら構いませんので、いやぁ。
特級が出たので本人を連れてきたら後にしろだもんなぁ」
「まっ! おい止まれっ!」
周りの冒険者が騒ぎ差出す。
二階からギルドマスターのスライクが降りてくる、他の者が直ぐによんだのだろう。
「待て! ギルドマスターのスライク様だ。
帰る事は許さん、本当に手配中の者なのか?」
ニイケルが頷くと、マルクとラーミはフードを外した。
中年のマルクと幼顔のラーミが周りの冒険者を見る。
あれ、昨日ギルドにきた男の子じゃないか?
じゃあ、隣のは筋肉が美しい女性。男性だったのか……。
馬鹿、最初から男全開だったじゃねえか。
男でも付き合いたい。
などなど、会話が飛び交う。
「冒険者マルクだ」
「同じく、つ……。
ええっと、ラーミです」
妻と言おうとしてラーミは止めた。
ニイケルが周りに見えるように一枚の紙を見せ付ける。
「この二人は、ムツナイのギルドマスターの客人です。
手を掛けると、ムツナイギルドとの全面戦争となります。
これが委任状です」
周りの冒険者が立ち止まる。
冒険者は冒険者だ、儲かる話が好きであり面倒事は嫌いな人間が多い。
「ど、どうせ偽者だっ」
「では、全面戦争という事で」
「ま、まて……、何もギルド同士で戦争したいと言っているわけじゃない」
あっさりと、全面戦争しましょうと、いう言葉に、けしかけたスライクは慌てる。
「そうですね。
使いの者がサンフラ騎士部隊長を呼びに行っていますので、待ちましょうか」
言葉が終わると共に、トットマ、ミイナと、噂をしていたサンフラがギルド内へ入ってきた。
「こ、これはサンフラ様。
おはようございます」
スライクはこびた顔で挨拶をするが、サンフラは一切無視してラーミ達を見る。
一瞬見せたその目は、優しさなど一欠けらもなく憎悪に満ちていた。
直ぐに笑顔に切り替わる。
「おお、我親友の娘よ。会いたかった……」
ラーミは小さくどの口がいうんですか……っと呟き、大きな声へ切り替えた。
「申し訳ありません、余り記憶に……」
「当然だろう、そなたは小さかった。
しかし、そなたの父の遺言を守り迎えにまいった」
過去はどうあれ、現在は義を守り紳士に行くと見せ付けたいのだ。
(なるほど、ニイケルの言うとおりだな。これなら……)
「でも、私には母の遺言もあるのです」
「それは聞いている。
だが、古い物のほうが優先される」
「ええ、ですから私は困ってしまい、ムツナイのギルドマスターロウ爺さんに、相談しました」
言葉を終わると、ラーミは突然後ろを向く。
ポケットにいれたカンペを取り出して確認し、前へと振り返った。
「で、でしたら。戦ってみればいいと」
「ほう……」
元が騎士だからだろう、戦いというと眼を細めラーミの話の続きを待っている。
「私は強い人が好きです、そこで父の遺言相手であるサンフラ様と、母の遺言相手であるマルクさん。強いほうについて行こうかと」
ニイケルが、ラーミさん、もっと感情込めてっ! と、小さい声で言っているがラーミは棒読みである。
それでも、サンフラは話に乗ってきた。
「騎士団部隊長の俺とか?。
まさか知恵比べなどいうつもりじゃないだろうな」
「ええ、力比べです、騎士としての練習試合です」
「勝ったほうに付く、間違いはないか?」
「力なき乙女ですが、約束は守ります。
あっ、それとマルクさんの手配を取り消しておいてください」
「よかろう、日時は任せよう」
にやりとすると、サンフラはギルドを出て行った。
ニイケルは手を叩くと場を仕切る。
「というわけで、マルクさんの逮捕状は即刻停止してください。
会場は、北東の野外フロアを使いましょう、日時は五日後、では失礼します」
言いたい事だけをいうと、ニイケルはマルクとラーミを連れて外へでた。
(5月10日、18時
5月11日の更新は、体調不良のためお休みです
(5月12日、20時追記
5月13日AM7時分を投稿しました




