037 妻は回りに助けられる
暗い顔のまま宿に戻った。
二人とも口数は少なく、部屋で遅めの夕食を取る。
「にしても、困りましたね……」
「そうだな」
「飲みましょう!」
「ん?」
「飲めばいい案が浮かぶかもしれません!」
最低な案であるが、マルクもそれに賛同しはじめた。
「そ、そうなのか?」
「そうに決まってますっ。
下で注文してきますので、お待ちをっ!」
黒髪のカツラをかぶり部屋を出て行く。
そして、直ぐに両手一杯の酒ビンを抱えて帰ってきた。
リンゴ酒と三年物の安いぶどう酒と合わせて五本。
コップに注ぐと二人ともグビグビと飲み始めた。
なお、飲み始めてから、案なんて一つも浮かび上がってはいない。
残り一本になる頃に、部屋がノックされる。
時刻は既に夜。
こんな時間に訪ねる人間なんてそうはいない、追っ手の可能性が高く、二人は慌て始めた。
マルクはワンピースを着て、ラーミはカツラを素早く被る。
ラーミがドア越しへと、どなただろうと、聞いた。
声は若く、
「俺です、トットマです」
と、直ぐに返事が返って来る。
声の主がわかったので、ラーミは直ぐに部屋へといれた。
トットマの隣にはミイナが付いている、その顔はテカテカしており、逆にトットマは何かやつれていた。
つまりはそういう事の後である。
「あれ、トットマさん何か、疲れた顔をしてますけど……」
(深くは聞かないほうがいい話題だろう……。さて)
「長旅で疲れたんだろう、二人とも部屋に。
良くきてくれた」
「お邪魔します。う、ラーミちゃんお酒臭いわね。これ、お土産の地酒」
「飲んでましたしっ! ありがとうございますっ」
ミイナの質問に威張って答えるが、威張るような事ではない。
椅子へと座ると、ミイナが弁解の言葉を言う。
「本当は全員で来たかったけど目立つから」
「いつも、ミイナさんなんですね」
「ミイナとアケミが一番年上だから、どちらかか多いかな……。俺よりもええっと四才上、うぐっ!」
トットマの横腹に、ミイナの一撃が決まった。
「さて、年齢とか関係ない話はあとにして。
色々と噂になってるわよ」
ミイナが言うのは特級依頼の事だ。
C級冒険者が多いトットマのパーティーにも、その情報は既に回ってきたのだ。
「で、調べてきたわよ。
っても、情報が勝手に回ってきたと言ったほうがいいでしょうけど。
まずは、サンフラ・マリュ・クロ――」
サンフラ・マリュ・クロ貴族であり、騎士部隊の隊長の一人。
親友の願いで、親友の娘と結婚する事を託されいて、行方不明だった娘を書類で知り、探し当てる事を成功。
何処の馬の骨がしらないマルクを犯罪者扱いし、処刑する事に燃えている事。
ラーミが、噂を聞いた後にミイナにたずねる。
「そんな話初耳なんですけどっ!」
「じゃ、タク・ランフ・ヴァミューって名前には?」
「え……。
どこでそれを」
ラーミが驚くと、マルクも気になってミイナに聞いてみた。
「ランフ・ヴァミューって事は。そのなんだ、ラーミの」
「そう、ラーミちゃんの父。
当時騎士団の中でも天才中の天才だったらしいわよ、結婚を機に騎士をあっさり引退。
で、当時のライバルってのが、サンフラ・マリュ・クロ。
でね、面白いのが、このサンフラ部隊長はラーミちゃんの母親を襲ったらしいわよ」
マルク的には何が面白いのがわからないが、喋るミイナと、その話を聞いているラーミは前のめりになって話をし始めている。
「って事は、私の母はそのとんでもない男の毒牙にっ!」
「いいえ、ちゃんとラーミちゃんの父が未遂で終わらせたらしいわよ。
で、騎士サンフラは田舎へ左遷。
最近王都へ戻ってこれて部隊長になれたって話」
「って事はですよ?。
私とマルクさんの仲を引き裂くのって」
「復讐でしょうね」
(なるほど……。ラーミの母が好きだったか、ラーミの父に負けたから、その感情をラーミにぶつけているのか。ラーミと結婚した所で、ラーミは幸せにはならないだろう)
ラーミが、テーブルを見回し、空になったコップにぶどう酒を注いで回ると、腕を組む。
「困りましたねー……。
あの、なめくじみたいなギルドマスターは、なんなんでしょうか!?」
「あら、もう確認したのね」
先ほどギルドに変装していった事、そして横暴なギルドマスターと、その息子の事を話した。
その二人の行動に呆れつつも話をしてくれる。
「あれは、元はサンフラ騎士隊長の子飼いの冒険者だったらしいわね、息子も見たとおもうけど評判は最悪。
セクハラ、ワイロ、暴力。
反対する冒険者は降格や除名。
おかけで、王都にいた固定冒険者が減ったらしいわよ」
情報を教えてもらい、四人はため息をだす。
いつの間にかトットマとミイナの前にも、ぶどう酒が入ったコップが置かれていた。
「どうしましょうかねぇ」
「オレは別にどうなってもいいが、ラーミが幸せにはなって欲しい」
何気ないマルクの一言に、ラーミが立ち上がる。
「マルクさんっ! そんなに私の事を……。
そうですよ、解決方法があります。
子を作ればいいんですよ、そしたらサンフラでしたっけ、諦めると思いますしっ」
「ラ、ラーミ脱ぐなっ」
ラーミは布の服を脱ごうとする。
小さなヘソに、その上にある地味な下着が見えて来た。
なぜ、こんなに積極的かというのは酔っているからである。
「はーい。トットマは見ない事」
「見、見ないに決まっているし、こう目隠しされたら何も見えないから」
マルクは助けを求め横を見ると、ミイナが何処からかだした布でトットマを目隠ししていた。
ミイナも少し酔っている。
トットマは見てはダメだけど、ミイナは二人の痴態を観戦する気でいた。
マルクが困り果てると、部屋がノックされた。
全員の顔が真剣な顔になる。
「夜分すみません、冒険者ギルドの者です。
マアルさんとラツさんの部屋と聞いています。
確認したい事があるので部屋を扉を開けてもらえないでしょうか?」
事務的な若い声である。
小さい声で四人は話しあう。
「どどどど、どうしましょう」
「ラーミ、落ち着け。
カツラはどこだ。
っと、その前に二人は隠れたほうがいい、オレたちの関係者と思われても困るだろう」
「何をいまさら、撃退しましょう」
「そうね、ランクBとCがいるんですもの、ギルドの人間一人ぐらい余裕よ」
「なるほど、そうしましょう」
「え、おっおい」
マルクが止める前に三人は動いた。
椅子をもった二人は扉の両側へ立ち、ラーミが扉を開ける作戦。
「今あけます」
ラーミが声色を変えて扉を内側へ開けた。
入ってきたギルド員に椅子を力いっぱい叩き付ける二人。
ギルド員の青年はその二人の攻撃を瞬時に体を引いてかわす。
ラーミが廊下へ出て、ギルド員のむなぐらを掴み壁へ叩きつけた。
苦悶に浮かぶギルド員はそれでも、抵抗し口を小さく動かした。
ギルド員の周りに水の玉が浮かび上がると、次々にラーミへとぶつかって行く。
ラーミの頭に水玉が固定され息が出来なくなっていく。
「がぼぼぼぼ」
「ラーミっ!」
マルクが急いでギルド員へと飛び掛る。
集中力が切れたのがラーミの顔から水球玉がはじけ飛ぶ。
廊下をゴロゴロと転がり止ると、マルクは相手を確認し声をだした。
「ニイケル……?」
「お、お久しぶりです。マアルさん、いえ、マルクさん」
ニイケル。
ムツナイのギルドマスターの腹心でC級冒険者。
なよっとた顔であるが、その本当の実力はマルクは魔法を使う事ぐらいしかしらない。
余りに騒ぎに、あちこちの扉が開く。
迷惑そうにマルク以下全員を見ている、その目は『夜なんだから静かにしてくれ』と。 下から宿屋の主人が怒り顔で上がってきた。




